共和党顧問は詐称か TVに出ている、あえば氏の経歴をアメリカで確認

    メディアで活躍しているが・・・

    アメリカ2大政党の一つ共和党。その政党の顧問という肩書きで、テレビや新聞などでアメリカ政治を解説している人物がいる。

    幸福実現党の初代党首、あえば(饗庭)直道氏だ。

    顧問の肩書きでテレビ出演

    例えば、あえば氏は2016年10月2日、朝日放送の「坂上・美輪のニュースにだまされるな」に「共和党全米委員会顧問」の肩書きで出演した。

    フジテレビの「ユアタイム(7月21日放送分)」にも、「共和党顧問(テロップでは「共和党全米委員会顧問])」として出演していた。

    共和党候補ドナルド・トランプ氏を知る人物として、大統領選を解説していた。

    テレビだけではない。2014年11月11日の産経新聞には、あえば氏と共和党全米委員会共同議長シャロン・ディ氏の対談が掲載されている。その肩書きは「共和党全米委員会顧問」。

    2016年3月に発売された著書「トランプ革命」(双葉社) の表紙にも、「米共和党全米委員会顧問アジア担当」の肩書きが印字されている。

    自身のツイッターアカウントにも、「共和党顧問」と書かれている。

    国会議員でもない一個人が、アメリカ名門政党の顧問に就任したならば偉業といえるだろう。

    しかし、BuzzFeed Newsに情報提供があった。「この肩書きは詐称だ」と。アメリカのBuzzFeed記者とともに取材を始めた。

    本人が語る「顧問就任」の経緯

    共和党全米委員会とは、大統領候補を指名する共和党全国大会を運営している組織だ。政治資金や選挙戦略の調整も担う組織で、共和党の中枢ともいえる。

    あえば氏が議長を務める、一般社団法人JCUのホームページには、共和党幹部と一緒に写った写真がアップロードされている。

    なぜ、日本人のあえば氏が共和党全米委員会の顧問に就任できたのか?

    あえば氏の公式ホームページには顧問に就任した経緯も記されていた(BuzzFeed Newsが関係者へ取材をする過程で、このページは閉鎖された)。

    一部を抜粋する。

    2010年から活動の拠点をアメリカに移していた饗庭に転機が訪れたのは、2011年2月であった。

    かねてからの友人、渡瀬裕哉氏(現・JCU理事)が、アメリカのティー・パーティー運動にならって「東京茶会」を設立した際のお披露目のスピーチに同行して、全米税制改革協議会(ATR)の「水曜会」に参加することになった。

    この勉強会で財政政策を学んでいた饗庭は、2011年4月の水曜会で、饗庭は、「トモダチ作戦について、アメリカにお礼がしたい」と申し出、スピーチの場を与えられていた。

    東日本大震災後の米軍による救援作戦への感謝と、減税政策の重要性を訴えた饗庭の演説に、当日、たまたま参加していた共和党全米委員会共同議長のシャロン・デイが感動し、隣席から饗庭に名刺を差し出した。そこから両氏の交流が始まることになる。

    5月、共和党本部に招かれた饗庭は、その後、シャロン議長と定期的に情報交換を行うようになり、共和党内部や保守派の中枢メンバーに多数の知己を得る。2012年にはアジア人で唯一のメンバーとして、共和党全米委員会・顧問に就任した。

    この主張が正しければ、あえば氏は2012年から共和党の顧問を務めていることになる。

    あえば氏は著書や出演したテレビ番組でも、共和党の顧問に就任した経緯を説明している。表現に少し違いはあるものの、このブログに書かれた主張とほぼ同じだ。

    1. 東日本大震災後、共和党の勉強会でお礼の演説をする
    2. スピーチを聞いた共和党全米委員会共同議長シャロン・ディ氏と知り合う
    3. 共和党の顧問に就任

    という流れだ。

    ところが、共和党全米委員会の公式HPには、あえば氏の名前は見当たらない。ディ氏を含む幹部の名前は公開されているにもかかわらず、だ。

    あえば氏の肩書きは、はたして本物なのか?

    国内と海外で肩書きを使い分けてる?

    国内では、「共和党全米委員会顧問」または「共和党顧問」の肩書きを強調しているあえば氏だが、海外で活動するときは少し様子が異なる。

    あえば氏は2016年3月、共和党系の政治集会「保守政治活動協議会」(CPAC)に出席。英語と日本語を交えた13分ほどの演説で、保守政治や日米同盟の重要性を強調した。

    Youtubeにアップされたあえば氏の演説を見て、不思議な点に気付いた。

    共和党員が大勢いる会場であるにもかかわらず、顧問の肩書きを明かしていないのだ。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    あえば氏は演説の冒頭で「日本で私は保守系の政治コメンテーターとして働いています(In Japan I work as a conservative political commentator)」と自己紹介している。結局、共和党の顧問と名乗ることなく、演説を終えた。

    CPACの公式ホームページに公開されている、あえば氏のプロフィールを見ても、「共和党全米委員会」や「共和党顧問」については言及されていない。

    「日本で著名な保守系コラムニスト、テレビコメンテーター(a well-known Japanese conservative columnist, television commentator)」と、書かれているだけだ。

    顧問の肩書きを明かすことに、不都合があったのだろうか?

    共和党関係者「知らない」

    インターネット上に公表された情報だけでは、あえば氏の肩書きを確認できなかった。BuzzFeed Newsは、共和党に直接取材した。

    共和党全米委員会(RNC)の運営に近い3人の党関係者に取材したが、あえば氏を知る人はいなかった。「外国人が委員会で役職につくのは珍しい」との声も出た。

    あえば氏にもEメールを送り、「なぜ共和党があえば氏の存在を知らないのか」「顧問就任を証明する書類を開示してほしい」と2点質問した。

    あえば氏は「共和党顧問である」との主張を曲げなかった。

    「もし鈴木記者のおっしゃる『関係者』がRNCの外郭にいる方にすぎず、委員会の中枢(ボード・メンバー)でない場合、私の事を知らないことは、当然、あるでしょう」

    「2011年の12月に、正式にRNCの法務室の認可が下り、活動しております。
    書類はありませんが、RNCの法務室か、上記の共同議長秘書に問い合わせ頂ければ、明確になります」

    BuzzFeedが取材した相手が、あえば氏の存在を知らないだけで、共和党全米委員会(RNC)からは正式に認可されているという。

    党の組織中枢に所属している日本人顧問を、その組織に近い人間が知らない? ごく一部の幹部しか、アジア担当顧問の存在を把握していないのは、なぜなのだろう。

    全米委員会「役職はない」

    BuzzFeed Newsは再度、共和党全米委員会(RNC)に回答を求め、オフィシャルな立場の人物から明確な返事を得た。

    「あえば氏は共和党全米委員会(RNC)で何の役職にも就いていません」

    代理人「あえば氏は共同議長の無報酬アドバイザー」

    一方で、あえば氏は「顧問就任を証明する書類」として、顧問就任の経緯が英語で書かれたEメールのコピーをBuzzFeed Newsに提供した。そのメールには「あえば氏にRNCアジア担当顧問の役職が与えられた」と記されていた。

    このEメールは、以前、同じようにあえば氏の肩書きに疑問を持った日本人記者に回答するために、書かれたものだという。元々の宛先は日本人記者、送り主はボブ・スパークス氏となっていた。

    BuzzFeed Newsが調べたところ、スパークス氏はフロリダで共和党の広報戦略を担当している人物。本人に連絡をとってみた。

    スパークス氏は、本人によると、あえば氏の代理人を約5年間務めていたという。メールの内容を確認すると、スパークス氏は違う肩書きを口にした。

    「あえば氏は、ディ共同議長の無報酬アドバイザーです」

    あえば氏が出した「顧問就任を証明する書類」だが、それを書いた当人は共和党全米委員会(RNC)顧問とは言わなかった。RNCではなく、ディ共同議長に対するアドバイザーだという。

    では、ディ共同議長の無報酬アドバイザーとは、どんな役職なのか?

    スパーク氏によると、あえば氏の役割はディ共同議長と共和党全米委員会(RNC)の重要課題について議論すること。共和党全米委員会(RNC)から給与は支払われてはいないという。

    ちなみに、「共同議長の無報酬アドバイザー」という肩書きも、共和党のHPに記載されていない。

    「保守政治活動協議会」(CPAC)に載っているあえば氏のプロフィールを見ても、「共同議長の無報酬アドバイザー」とは書かれていない。

    BuzzFeed Newsはディ共同議長に公式コメントを求めたが、4日までに回答はなかった。

    つまり、BuzzFeedはこれまでのところ、あえば氏が共和党全米委員会(RNC)の顧問であるという確認は取れていない。

    RNC関係者らが知らないうちにディ共同議長が個人的なアドバイザーに任命していた可能性はあるが、返信がないため、詳細は不明だ。

    あえば氏を共和党全米委員会(RNC)の顧問と紹介しているテレビや新聞は、どうやってその肩書きの確認をとったのだろうか。

    幸福実現党初代党首の肩書きは?

    あえば氏は、幸福実現党の初代党首でもある。幸福実現党の調査局長などを歴任している。

    しかし、メディアに露出するときは、政治団体である幸福実現党との関係については触れないことが多い。「坂上・美輪のニュースにだまされるな」(朝日放送)でも、幸福実現党の経歴を明かしていなかった。

    テレビ局や出版社は、なぜ、こちらの経歴は紹介せずに「共和党全米委員会(RNC)顧問」とだけ紹介したのだろうか。

    ある政治団体の初代党首であるという経歴を示さずに、別の、しかも確認を取ることが極めて困難な肩書きで政治についてコメントしてもらうことに問題はないのだろうか。

    朝日放送、フジテレビ、双葉社、産経新聞に、これらの疑問を問い合わせた。

    回答したのは双葉社だけ

    双葉社の担当者に、共和党顧問の肩書きをどうやって確認したかと聞くと、「あえば氏が保守政治活動協議会に出席した動画や、共和党員と一緒に写っている写真で確認した」と回答。米国の共和党には問い合わせていないという。

    幸福実現党の経歴に関しては、「幸福実現党との関係が良くない」と話すあえば氏の意見に配慮し、著書には掲載しなかったという。

    フジテレビはファックスで「キャステングの詳細については、お答えしておりません」と返答した。

    産経新聞社広報部からもファックスで回答を得た。「個別の広告に関することはお答えできません」とだけ書かれていた。

    朝日放送広報部から送られてきたファックスには「今回のアメリカ大統領選挙に立候補したトランプ氏に詳しい人物としてご出演いただきました。従来より個別の番組の制作過程についてはお答えしておりません」と書かれていた。

    実質的に回答があったのは、双葉社だけだ。その確認手法は不十分に思える。顧問でなくとも協議会に出席したり、共和党員と写真に写ることは可能だからだ。

    テレビの人気コメンテーターだったショーン・マクアードル川上(ショーン・K)氏が、今年3月に経歴詐称で活動自粛に追い込まれた事件は記憶に新しい。

    だが、日々の番組制作の中で出演者の経歴確認が徹底されているとは言いがたいようだ。ある在京テレビ局のプロデューサーは「細かく調べるのは、現実的には不可能」と話す。

    経歴を詐称する人物を取り上げることは、視聴者の信頼を裏切ることにつながる。せめて、疑惑を持たれた事例については、確認を徹底してほしい。