命がけの亡命助けた「おさるのジョージ」 原作者の秘話を日本人監督が映画化

    ナチスに追われた作者夫婦のポジティブな人生

    米国の大人気絵本シリーズ「おさるのジョージ(原題:Curious George)」。

    アフリカからニューヨークにやってきた、好奇心旺盛な子猿を主人公にした物語だ。日本でもテレビ局でアニメが放送され、子供たちを中心に人気が高い。ハリウッドでは現在、実写化も進んでいる。

    「おさるのジョージ」原作者であるハンス・アウグスト・レイとマーガレット・レイの夫妻が、初版を発表したのは1941年。75年が経過した今、日本人女性がレイ夫妻のドキュメンタリー映画を制作している。

    ニューヨーク在住の女性映画監督、山崎恵茉(エマ)さんだ。

    山崎さんのドキュメンタリーには、どんな時もポジティブに生き、苦難を乗り越えたレイ夫妻の姿が描かれている。

    原画を荷物に詰め、ナチスドイツから逃れる

    「おさるのジョージ」は米国で出版されたが、レイ夫妻自身はユダヤ系ドイツ人。ヒットラー率いるナチスドイツの迫害を逃れるため、米国にたどり着いた移民だ。

    1940年、ナチスドイツがフランスに侵攻する直前、当時パリに滞在していたレイ夫妻は、国外へ脱出することを決意した。この時、2人は未発表だった「おさるのジョージ」の原画を、荷物の中に入れて持ち出し国境を超えたという。

    自転車でパリから脱出 2人乗り用を2台に改造

    パリから脱出すると決意したものの、移動手段がない。悩んだ結果、2人は自転車で南に逃げることを決めた。しかし、夫ハンスが見つけてきた自転車は、行楽地にあるような2人乗り専用の自転車だった。

    「こんな自転車でナチスから逃げられるわけないじゃない!」

    妻マーガレットは激怒。結局、手に入れた自転車をハンスが分解して、普通の自転車2台に作り直したという。

    その後、レイ夫妻は自転車で鉄道の駅まで移動。自転車を売ったお金で列車の切符を買いスペインへ。ポルトガル、ブラジルを経て米国にたどり着いた。そして1941年、ニューヨークでようやく「おさるのジョージ」を出版できたのだ。

    夫妻を救ったジョージの原画

    山崎さん自身、小さい頃から「おさるのジョージ」に親しんできたが、レイ夫妻がユダヤ系ドイツ移民だとは取材を始めるまで知らなかったという。

    妻マーガレットの親友レイ・リー・オン氏と知り合い、レイ夫妻の手記や未発表のスケッチが南ミシシッピ大学に保管されていると知った。資料は300箱以上あった。

    山崎さんは2014年から2年間、資料をもとに米国各地を巡り、夫妻を知る人たち30人以上にインタビューした。

    マーガレットは生前、夫婦だけが知っている様々な逸話をオン氏に話していた。パリを脱出した時に自転車を解体した話は、オン氏から聞いたエピソードだ。

    オン氏はマサチューセッツ州の大学に通っていた時にマーガレットと知り合い、その後、親友となった。夫婦の死後は、オン氏が遺産を管理している。

    ドキュメンタリーの予告編には、夫婦がおさるのジョージの原画とともにフランスを脱出する様子が、柔らかなタッチで描かれている。

    ユダヤ人であると疑われ、鉄道で身柄を拘束されそうになった時、身体検査を受けて出てきたのが、ジョージの原画。読みふける係員。二人は最終的に列車に乗ることができた。2人の旅は、ジョージとの旅だった。

    山崎さんは、アニメーションに込めた思いについて、BuzzFeed Newsにこう話した。

    「このドキュメンタリーを作ろうと決めた時から、『おさるのジョージ』の世界を創った2人を表現するならば、アニメーションを使わなければならないと思っていました。2人なら、どうやって自分たちの物語を描いただろう。そんなことを考えながら作りました」

    クラウドファンディングで制作費集め

    神戸に生まれ、高校卒業後、ニューヨークに渡った山崎さんはこれまで、ドキュメンタリー映画の制作に関わってきた。この「おさるのジョージ」のドキュメンタリーは、自身が監督する初の長編ドキュメンタリーとなる。

    テレビ会社から提携の話もあったが、誰からも口出しされずに自分の意思を表現した作品を完成させるため、クラウドファンディングで資金を募ることに決めた。

    目標額17万5000ドルに対して、約16万1000ドルまで集まった(8月23日午前11時現在)。締め切り期日の8月25日午前7時までに残り1万4000ドル(約140万円)が集まらなければ、これまでに集まっている寄付金を受け取ることができない。

    寄付金はアーカイブ映像の権利費用の支払いや、アニメーションの制作費などに使われる。山崎さんは「なんとか資金を集めて、映画を完成させたい。日本でも来年中には公開できたら」と話している。

    更新

    8月24日午前までにクラウドファンディングの目標額を達成しました。ファンディングの最終締め切りは25日午前7時まで(日本時間)。

    山崎さんのコメント

    「目標額が達成でき大変幸せです。これで映画を完成させることができます。みなさんのご支援を決して無駄にせず、最高の作品を作り上げます。日本では来年夏までの公開を目指します。本当にありがとうございました」


    クラウドファンディングの説明動画(日本語字幕付き)

    vimeo.com

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