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感無量!キティちゃんとあの人気アーティストがHPVワクチンの大切さを呼びかけてくれる時代に

日本ではHPVワクチンの効果を公の場で語りにくい空気が長く続きました。ところが最近、キティちゃんと人気アーティストが女性たちにHPVワクチンや検診の大事さを伝えてくれるイベントが開かれました。産婦人科医、稲葉可奈子さんがレポートします。

今や日本が世界に誇るキティちゃん。

キティちゃんの横顔、見たことありますか?

キティちゃんは、体が横向きでも後ろ向きでも、かたくなに顔は正面を向いていて、実は横顔のキティちゃんはとてもレア。

そんなとても珍しい横顔のキティちゃんがトレードマークとなっているのが「Hellosmile」という、TOKYO FMとサンリオエンターテイメントが2010年に立ち上げた子宮頸がん予防啓発プロジェクト。

とても珍しい横顔のデザインには「見つめる先には、幸せな未来がある」というコンセプトが込められています。

サンリオエンターテイメント現社長の小巻亜矢さんが乳がんに罹患された経験から、予防できる病気は予防してもらいたい、という想いで立ち上げられた活動。

その活動の一環で行われたイベントに産婦人科医として参加させて頂いたのですが、そこで少し前の日本では到底、実現不可能と思われていたことが叶っていました。

子宮頸がんは二重に予防できるがん

乳がんはいわゆる「予防」ではなく、がん検診により「早期発見」をすることしかできません。

でも、子宮頸がんはまず、HPVワクチンにより子宮頸がんの原因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防できます。

そして、ワクチンで予防しきれない部分については子宮頸がん検診によりがんになる前の段階(前がん病変、異形成)で早期発見することで、子宮頸がんになることを防ぐことができます。

Hellosmileが発足した2010年当時はまだHPVワクチンは、国のお金で無料でうてる定期予防接種の対象ではありませんでした。子宮頸がん検診の受診率もほかの先進国と比べて低く、主に子宮頸がん検診や受診を広める活動を展開していました。

これまでにも多くのタレントさんやスポーツチームとコラボして啓発イベントを行っていますが、今年は「BUDDiiS」というダンス&ボーカルグループが出演。

専門家(産婦人科医)としてわたし稲葉可奈子も出演させて頂いたのですが、そこで夢にまで見た理想の啓発の形を目の当たりにしたので、この感動をみなさまと分かち合いたく、この度寄稿させて頂きました。

日本では接種率が低いHPVワクチン

子宮頸がんなどのHPVが原因となる病気の予防につながるHPVワクチン、世界中では当たり前のように接種されていますが、日本では状況が異なります。

2013年に定期予防接種となったHPVワクチンは当初約70%の接種率でしたが、体の痛みやけいれんなど副反応じゃないかと訴えられた症状を大きく報道され、接種率が激減しました。

そして、世界に類をみない1%未満という接種率の低さが長年続いてしまいました。

HPVワクチンの安全性についての研究は日本でも、そして世界各国でも行われています(※1, 2, 3)。

そうした研究では、HPVワクチンを接種しても、接種しなくても、同程度の割合で副反応と疑われる症状が生じることが分かりました。つまり、それらの症状はHPVワクチンが原因とはいえない、としてHPVワクチンの安全性が確認されたのです。

こうした研究結果を受けて、ちょうど1年前、2021年11月に、実に8年以上にわたり積極的におすすめすることを控えていた厚労省は、HPVワクチンの積極的勧奨を再開することを決めました。

なかなか最新の研究を報じてくれない日本のメディア

2016年頃より安全性について証明する研究結果が報告されつつあり、わたしもその頃から草の根的に啓発活動をはじめました。でも、当時は、HPVワクチンを推奨する発信に対して想像を絶する反発がくる、という状況でした。

ですので、わたしもおそるおそる発信していましたし、実際に強い反発やクレームなどの被害に遭われた方々もいらっしゃいました。

HPVワクチンについての正確な情報をまっとうに報じて下さるメディアはほとんどなく、HPVワクチンにかかわるのはリスクが高い、という風潮となっていました。

しかし、予防できる方法がせっかくあるのに、日本の女性だけがその恩恵を受けることなく、本来は予防できるはずの子宮頸がんに罹ってしまうのを黙って見過ごすことは産婦人科医としてできません。とにかく伝えられるところから伝えていかねば、と細々と発信を続けました。

しかし、医者の発信にはもちろん限界があり、そしてHPVワクチンの接種対象である若い女性に病気の当事者意識をもってもらうのは至難の業です。

学会や医師会が市民の方向けに「市民公開講座」というのを開催することがありますが、10〜20代の若者が参加するはずもなく。

「子宮頸がんは20代から患者さんが増えてくる病気なんですよ」と伝えても、元気な若者は自分事と捉えづらい。

そんな中で、若者に人気のタレントさんに協力して頂けないかとツテをたどってお願いしても子宮頸がん検診の話なら可能性はあったのかもしれませんが、HPVワクチンの話となると、特に大手事務所所属のタレントさんにはことごとく断られました。

そんな時代を知っているからこそ、ここ1〜2年でたしかに日本におけるHPVワクチンをとりまく雰囲気、世論が大分変化し、メディアも正確な情報を発信して下さるようになったとはいえ、まさかアーティストがHPVワクチンについて伝えるイベントにでて下さるなんて!俄かには信じられませんでした。

イベントに参加したファンはHPVワクチンをうちそびれた世代

今回のイベントには、400名の方が無料招待されていて、当日ステージから会場を見て分かりましたが、ほとんどがBUDDiiSのファンの方たちでした。

みなさんメンバーの名前のうちわなどを手にしていました。もちろんわたしの名前はないです(笑)。そして、応募できる年齢を限定したわけでないにもかかわらず、参加者は19〜27歳で、ほぼHPVワクチンの「キャッチアップ接種」対象の方たちでした。

「キャッチアップ接種」とはなにかというと、厚労省がHPVワクチンを積極的におすすめすることを差し控えていた時にHPVワクチン定期接種の対象年齢であった1997〜2005年度生まれの方たちです。

この世代は、情報がちゃんと届いていなかったがために、予防の機会を逃してしまいました。

そういう事情で、うちそびれた世代に、特例で2022年4月から、3年間再び無料で接種できるようにしたことをキャッチアップ接種といいます。

すでに接種の推奨年齢を過ぎてしまっているので、これから接種してももちろん有効ではあるのですが、なるべくはやめの接種がより有効です。そのキャッチアップ接種の対象の方たちが400名も参加された、というだけでもうキセキに近いです。

子宮頸がんの話を聞いてくれるだろうか?

1時間のイベントは、前半はTOKYOFM「Roomie Roomie!」パーソナリティの野呂佳代さんのMCによりBUDDiiSのトークやダンス(わたしは踊ってません)で会場は大盛り上がりでした。

果たしてここから子宮頸がんの話をはじめてみんな聞いてくれるのか、不安というよりももはや冒険心に近い状態で、BUDDiiSのダンスリレーを見ていました。

ひとしきり場が温まったところで、「では今日の本題の子宮頸がんの話を......」とサンリオエンターテイメントの小巻社長とわたしがステージにまざりました。

アーティストが踊っていたステージで本当に子宮頸がんの話が始まりました。

  1. 20代(参加者のみなさん!)から子宮頸がんがよく起きる年齢に
  2. HPVは『約8割』の人が感染することがある(これはクイズで!)→この数字は当事者意識をもつのに最も有効(※1)
  3. だれにとっても他人事じゃない病気
  4. でもHPVワクチンと子宮頸がん検診で予防できる
  5. 1997-2005年度生まれの人は特例で2024年度までHPVワクチンを無料でうてるけどなるべく早めに
  6. 安全性の確認されているワクチンです


という内容をコンパクトに話しました。

「みんなに健康でいてもらいたいから、予防してね!」

BUDDiiSの皆さんに感想をふると、

KEVINさんが『カナダの友達にHPVワクチンの話をきいたら、カナダでは男子も接種するよ、と聞いてビックリしました』

と話してくれました。

私が男性は日本ではまだ無料接種の対象ではないけれど、男性自身の病気の予防にもなることを話すと、

FUMIYAさんは『みんなに健康でいてもらいたいから、ちゃんと検診に行ったり、予防してね!ずっと元気でぼくたちを応援してね』とファンに語りかけてくれて、もう感動でした!

医者が熱弁するより100万倍、届くことでしょう。

アーティストが、タレントさんが、大切なファンのためにと予防できる病気のことを伝えてあげる、すばらしいことやと思います。

アーティストのカリスマ性と影響力は絶大です。

もちろん、エビデンスに基づかない情報を伝えてしまうと非常に危険ですが、そこは厚労省や信頼できる専門家と連携することで正確な情報を伝えることができます。

正確な情報をどう当事者に伝えるか

予防接種やがん検診は、リソースが確保され、助成もされる、という制度だけが整っていても、実際に活用されないと意味がありません。予防接種もがん検診も、活用されないと国民の健康は守られません。

予防接種も検診も、本来は国民の健康を守ることが目的のはずです。制度だけ整えて、活用されなければ、国民の健康を守るという目的は達成されません。

国民の多くは医療の専門家ではありませんので、「各自で理解して、判断しましょう」はあまりに不親切です。

今年の4月にHPVワクチンの積極的勧奨が本格的に再開しても、まだ接種率は20%超えたか超えてないかどまっています。

まだ接種していない人の中で、すぐに接種するつもりの人は少数派。もちろん最終的に判断するのは個々人ですが、「なんとなく」心配だから、「なんとなく」自分には関係ない気がする、とスルーしている人がとても多いです。

「なんとなく」ではなく「ちゃんと」知って考えて頂くことがとても大事なのです。

このような情報を学校から伝えてほしいという声は多く※4)、たしかに対象学年全体に伝えるには、学校からの情報提供は非常に有効です。情報提供だけでよいのですが、それでも上から通達があれば教える(上から言われなければやらない)という学校は少なくありません。

キャッチアップ接種世代は、国が積極的におすすめすることを差し控えていたがために予防のベストタイミングを逃してしまったのです。新型コロナワクチンくらい本気で真剣に、対象者全員に理解されるように多方面から伝えていかねばならないと思います。

当事者の口コミで広げてほしい

最後に「一言だけいいですか!」とカットインさせて頂き伝えたのは、「今日の話をお友達に教えてあげて下さい!」というお願い。医者が伝えるよりも、親友がHPVワクチンを接種したと聞くのが行動変容に有効、というデータがあります(※5)

大好きなアーティストから教えてもらった病気の予防の話を、実践しつつ、仲の良い友達に伝えることで正確な情報がしっかり広がっていく——。夢にまで見た理想の形です。

しかし伝える側が自己満足しているだけでは意味がないので、#ハロスマ #ルミルミ で検索すると、参加者が感想をアップして下さっています。

「楽しかった!勉強になった!」と、エンタメにちょっとカタい話が入ってもみんな好意的に受け止めてくれていて、うれしい驚きとよき発見でした。

このイベントの様子は、11月20日(日)19:00〜19:55 TOKYO FMサンデースペシャルの「Hellosmile Special Roomie Roomie!みんパピのお時間 supported by フコク生命」 で放送されます。ぜひ聞いてみて下さい!

HPVワクチンの接種対象の方や、娘さんが対象年齢の方、接種を悩んでいる方がいらしたら、ぜひこの放送も参考になると思いますので、番組情報をお伝え頂けましたら幸いです。

BUDDiiSのみなさん、サンリオエンターテイメントさん、TOKYO FMさん、すばらしい啓発の機会をありがとうございました!BUDDiiSのファンへのコメントにより、将来子宮頸がんから救われる方が必ずいるはずです。

<引用文献>

  1. No association between HPV vaccine and reported post-vaccination
    symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study

  2. Prophylactic vaccination against human papillomaviruses to prevent cervical cancer and its precursors

  3. Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study

  4. 高1女子と高1女子の母親に聴取|みんパピ!全国アンケート調査結果

  5. The ‘best friend effect’: a promising tool to encourage HPV vaccination in Japan