後ろにあるはずの物体が消えて見える「不思議なカード」が話題です。
明治大学専任教授の宮下芳明先生(@HomeiMiyashita)が、普段から持ち歩いているという「不思議なカード」の写真を投稿したところ、9800回以上リツイートされ、5.6万を超える「いいね」が集まるなど注目を集めました。
カードに隠されたボールペンがまるで消えたかのように見える2枚の写真に、Twitterでは「え…?え???」「とても不思議…」「何だこれすごい」など驚きの声が。物体が消えて見える仕組みや詳しい研究内容について、宮下先生にお話を聞きました。
後ろの物体が消える不思議なカード
宮下先生はTwitterで、「研究内容がなかなか口頭で伝わらないので、このカードを名刺入れに入れておくことにした」と2枚の写真を投稿。
1枚は、青と白のストライプ模様の上に置かれた黒のボールペン。カードが置かれた部分だけ、ボールペンが消えているように見えます。
ストライプ模様はそのままで、ボールペンだけが消えて見えるのが不思議すぎる……!
手のひらの上のボールペンも、この通り
「不思議なカード」を使えば、手のひらの上に置いたボールペンも消えてしまいます。
手の指ははっきり見えているのに、やっぱりボールペンだけが見えない不思議な1枚にTwitterユーザーたちも大混乱。驚きの声が多く寄せられています。
「どゆことなんです…? なぜ消えるの…?」
「!?!?!?!? えっ… エッッ…!?!!?!?!?」
「手品師ですか?」
BuzzFeedは、投稿した宮下芳明先生に話を聞きました
普段は明治大学で教授・学科長を務める宮下先生(総合数理学部 先端メディアサイエンス学科)。研究室では、主に味覚に関する研究を多く行っているといいます。
その一環として、昨年8月には見る角度によって色が変わって見える「可食レンチキュラーレンズ」を開発。
さらに12月にはその技術を応用し、透明なゼリーの中の物体がまるで消えたように見える「可食光学迷彩」を学会で発表しました。
宮下先生がこの「不思議なカード」を持ち運ぶようにしたのは、この研究内容を分かりやすく説明するためでした。
なぜ、中の具やボールペンが見えなくなるの?
宮下先生によると、「不思議なカード」でボールペンが見えなくなるのも、「可食光学迷彩」でゼリーの中身が消えたように見えるのも、どちらも“レンチキュラーレンズ”のおかげだといいます。
といっても、レンチキュラーレンズそのものは昔からよく知られた技術。身近なところでも「絵柄が変わって見えるポストカード」などの形で売られていたり、「比較的なじみ深いもの」だと宮下先生は語ります。
仕組みを説明すると、レンチキュラーレンズの表面は一見平らなように見えますが、実際はカマボコ状のレンズがびっしりと無数に配置されており、「曲面の部分」と「まっすぐな部分」が交互に並んだ形となっています。
そのうえで、このレンズを通して後ろの物体を見るとどうなるのか?
まず、レンズのまっすぐな部分では光が屈折せず、後ろの物体はそのままはっきりと見ることができます。一方で、曲面の部分では光が屈折し、後ろの像は“圧縮されて”まるで消えたように目に映ります。
このように、レンチキュラーレンズには“特定方向に映像を圧縮して目立たなくさせる”という性質があり、その結果が今回投稿された2枚の写真。
レンズの縞と同じ方向にある細長いもの――つまりボールペンは消えたように見え、レンズの縞と直交する背景のストライプや手の指は消えずにそのまま見えたというわけです。
研究内容を分かりやすく伝えたかった
前述の通り、宮下研究室では昨年、このレンチキュラーレンズの仕組みを使った「可食光学迷彩」を開発。
しかし、研究内容について口頭で説明する際、「透明なのに中の具が見えない」という説明がなかなか伝わらなかったため、表面がレンチキュラーレンズになっている、この「不思議なカード」を持ち歩くことにしたのでした。
ちなみに、ツイートへの反応の中には「宮下先生がレンチキュラーレンズを発明した」かのような誤解もあり、思わぬ反応の大きさに宮下先生も驚いているとのこと。
なお宮下研究室といえば、電気の力で薄味の食べ物を濃い味に感じさせるデバイス「エレキソルト」の開発でも有名(関連記事)。こちらはキリンとの共同開発で、2023年にはキリンから実際に発売される予定となっています。