スピッツ、椎名林檎、King Gnu…アフリカの姉弟アーティストはなぜJ-POPを"日本語で"をカバーするのか

    J-POPを日本語でカバーする南アフリカの姉弟ミュージシャン「ビコマナ」。彼らを広めたのはアフリカのストリートアートチーム「Urban Cohesion」だ。どういった経緯で動画を公開することになったのか、代表の服部アランさんに話を聞いた。

    「アフリカの子どもの椎名林檎カバー、めちゃくちゃいいから見て!」

    昨年の冬、音楽好きの友人からYouTubeリンクが送られてきた。

    クリックするとボーカル、ギター、パーカッションの3人が椎名林檎の「長く短い祭」を演奏している。

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    小気味の良いボンゴのビートにアコースティックギター、そして目を見張る歌唱力。しかも日本語で歌い上げているではないか。

    他の曲を漁ってみたところ、スピッツ「ロビンソン」、King Gnu「白日」、山下達郎「クリスマスイブ」etc...J-POPを日本語でカバーした動画が散見された。中には100万再生数を超えるものもざらにある。

    なぜ日本の曲を日本語で?

    アフリカの子どもたちがなぜ日本語の曲をカバーしているのか、素朴に疑問だった。

    調べてみると運営を行うのは「Urban Cohesion(アーバンコヒージョン)」というアフリカのストリートアートのチーム。団体を立ち上げたのはひとりの日本人であることがわかった。

    BuzzFeedはUrban Cohesion代表の服部アランさんに活動のいきさつを聞いた。

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    服部アランさん(左から4番目)


    きっかけは偶然知り合ったアーティスト

    ――アーバンコヒージョンはどのような活動を行う団体ですか?

    アフリカのストリートミュージシャンを中心にデザイナーや写真家、服をつくる人など、分野を問わずアーティストが集まったチームです。

    楽曲制作やイベントの開催、アーティストのプロモーションを手伝ったりしています。

    日本ではYouTubeにカバー動画を投稿するのが主な活動です。

    ――何人程度で活動されているんですか?

    マネジメントを除き、中心的に活動しているアーティストは19組30人程度だと思います。その周辺も含めて全部で50人くらいが関与しています。

    アフリカの人が圧倒的に多いですが、アフリカにルーツを持つヨーロッパ国籍の人など、何らかの形でアフリカに関わりがある人が多く在籍します。日本人は私を含めて2人です。

    あとは、アフリカからヨーロッパに移って、アフリカの家族とかに送金をしていたりする、ディアスポラといわれる人もいます。

    ――なぜアフリカの方が多いのでしょうか。

    私がアフリカに長く滞在していたこともあり、コートジボワールや南アフリカの人の関与が結果的に多くなっています。アフリカに関係のない人を排除する意図は特にありません。

    ――アフリカでは何をされていたんですか?

    仕事でアフリカに赴任していました。アフリカの複数の国で、政府関係機関の支援をする仕事で現地に長く滞在していたんです。


    ――その仕事の流れで
    アートに携わるようになった

    いえ、仕事とは関係ありません。

    南アフリカではヨハネスブルグのマボネンというストリートの一画に住んでいたのですが、家の前に夜暗くなるまで歌っているストリートミュージシャンがいて、次第に仲良くなったんです。

    そのミュージシャンとは後に「今夜はブギー・バック」のカバー動画を作りました。

    マボネンで活動しているストリートアーティストの生活ぶりを聞いてみると、一日中路上で演奏をしても、良くて交通費とパンと水代くらいしか稼げていないようでした。

    日銭を稼ぐことだけを理由にパフォーマンスをしているわけではないと思いますが、自分達の魅力を広く知って貰うために、何かひと工夫あればもう少し違うところにリーチできるんじゃないかなと思うようになりました。

    ――アフリカのアーティストになんらかの可能性を感じた。

    仕事で疲れて帰ってきても、彼らの音楽や醸し出す雰囲気みたいなものに強く惹かれて癒されたし、とても魅力的に感じました。

    同じ様なことが西アフリカのコートジボワールでもあって、その両方で何か少しでもできないかなと思うようになったのです。

    そんなことを現地の友達と話しているうちに、徐々にアーバンコヒージョンというチームの形になってきたように思います。

    ――アーティストを発掘しようと思って始めたわけではないんですね。

    全くないです。どちらかというと、友達と何かをしたいという個人的な思いから始めました。

    私自身、月に5か国以上移動することもある生活の中で、夢の中ではA国の友達とB国の友達と日本の友達がごちゃごちゃに混ざって遊んでいたりするんです。

    直接会うのが難しいなら、皆でインターネットで繋がって作品を作ったりすれば、お互いに刺激し合えるかもしれない。何より楽しいんじゃないか?と思って。それぐらいの気持ちで始めました。

    ビコマナとの出会いは?

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    ――ビコマナさんとの出会いについて教えてください。

    マボネンのストリートに週1くらいで歌いに来ていました。週末に遅く起きると、窓の外から彼らの声が聞こえるような距離感でした。

    マボネンは頻繁に出入りしていると自然と顔見知りになって話をするようになるような場所で、まずはビコマナの両親と話すようになりました。

    ――家族でパフォーマンスしていたんですか?

    彼らの家族もアーティストなんです。父親はDrumstruckというチームのパーカッショニストで、日本でも何度か演奏をしています。

    母親も歌手活動をしていたし、おじいちゃん、おばあちゃんまでさかのぼっても、みんな音楽をやっているような家庭です。

    彼らも自然と音楽に興味を持って、マボネンに歌いに来るようになったようです。

    ――もともと音楽的素養があったんですね。

    音楽が生活の一部みたいなところがあるので、吞み込みは早いなと思います。何より、楽しそうに音楽と向き合っている気がします。

    ――日本の曲をカバーされていますが、どのような観点で選曲しているんですか?

    ビコマナに限ったことではないですが、選曲の経緯はさまざまです。特に誰が選曲をするかとか、何を狙うかといった決まりもありません。

    私が車でかけていた音楽をたまたまコートジボワールのアーティストが気に入って、それきっかけにカバーしてくれたこともありますし、彼らが知っていた曲をカバーすることもあります。

    ビコマナの『上を向いて歩こう』はある日突然動画が送られてきたんです。それまでその曲に取り組んでいるのも知りませんでした。

    ――とんでもないサプライズですね。

    インターネットやアニメなどをきっかけに、日本の曲を知っていることも珍しくない気がします。コートジボワールのアーティストがたまたま宇多田ヒカルさんを知っていたり。

    ビコマナの場合、彼らのギターの先生や両親とも話している中で、次はこういう曲を勉強したらいいね、みたいな感じで提案をすることもあります。

    あとは、ビコマナの両親と共有している音楽のプレイリストの中からやりたい曲を自分たちで決めていることもあります。

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    ――なぜ邦楽のカバーなのでしょうか。

    アーバンコヒージョンとして活動する前から、お互いの国の音楽を教え合ったりすることが多くありました。時にはそのままその曲のコードやリフを使ってセッションをしたり。

    そういう日々のコミュニケーションの一環から自然に始めてみた感じです。「これをネットにアップロードしたらどういうリアクションが返ってくるんだろう」という好奇心もありました。

    ただ、カバーはアーバンコヒージョンの活動の一部です。洋楽をカバーしたり、オリジナルの曲を作ったり、服を作ってみたり、イベントを開催してみたりと多岐に渡ります。

    ――中でも日本語カバーの反響が大きそうですね。ハマったというか。

    ハマったかは分からないですが、自分達が思っていた以上のリアクションをいただくことはありました。

    ――アレンジも本人たちが考えているんですか?

    ビコマナに関してはほぼ全て彼らがアレンジをして、映像もほとんど彼らの母が撮っています。相談を受ければ最小限のアイディアは出しますが、彼ら自身から出てきたアイディアが最優先されています。

    8ヶ月かけてカバーした最初の曲「ロビンソン」

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    ――曲決めから動画公開まで、一曲どれくらいの期間をかけていますか?

    ケースバイケースです。ビコマナの最初のカバーはスピッツさんの『ロビンソン』でしたが、探り探りで8か月かかりました。

    基本的にチームメンバーは日本語がまったく話せないので、歌詞をローマ字で見て、曲を聴いて耳で雰囲気を掴んでいます。

    ―大変な作業ですね。

    それでも声に出してみた発音で伝わるのかわからないし、YouTubeで求められるクオリティがどの程度かもわからない。とにかく沢山聴いて、時間をかけて取り組んでいました。

    慣れてからは4週間くらいである程度の形になっています。とはいえ勉強など他にもやることがあるので、普段の生活のスケジュール次第というところも大きいです。

    チームとしてはあくまで彼らの人間的な成長が最優先で、その合間に出来る範囲で動画を出している感じです。

    ――邦楽をカバーするにあたり、本人たちが日本の曲で面白がっているポイントなどがありますか?

    色々と発見があるみたいです。日本の曲ってメロディーがすごく大事にされていたり、サビみたいな概念があったりして「なるほどな」と思ったり。「あれ?この曲のコード進行はあの曲と一緒だ!」みたいな。

    他にも、東京事変さんのライブ映像を見てから数日は、ずっとステージングのものまねしたりしていました。

    表現全体を通して、色んなところに面白さを見つけているみたいです。

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    日本の曲には綿密に作りこまれている作品が多く、いろいろと学びがあるようです。音作りだったり、音符の数だったり、曲の聴かせ方を細部までこだわっていたり。

    アーバンコヒージョンは、ジャムセッションのグルーヴを大事にしつつ、その場で変化させていくようなタイプのアーティストが多いので、しっかり作り込まれた作品を聴きこむのは良い経験になっているみたいです。

    そのうえで、カバーをするときは自分達らしいアレンジを模索しています。

    ――音数を抜きつつも原曲を保てるか、みたいなイメージですか?

    ビコマナはアコースティックギターとパーカッションの構成なので、結構抜かないと難しいですね。

    ヒップホップのアーティストの場合、トラックメイキングとしてはそんなに変わらない場合もあります。

    オリジナルを忠実に再現する時もあれば、アフリカの雰囲気やフランス語のラップを足すなど、それぞれ趣向を凝らしています。

    日本での反響、現地での反応は?

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    YouTubeの再生回数が伸びたり日本のテレビに出演されるなど、メディア露出が増えていますが、本人たちはどのような反応でしょうか?

    喜んでいるし驚いていると思います。日本のテレビで取り上げられても現地で放送されるわけではないので、周りの人から声をかけられるとか、そういうのはありません。

    実感はない分、いつも通りの生活ができているというか。逆にそれが安心という部分もあります。

    彼らの生活するヨハネスブルグは治安が良いとはいえず、銃や強盗事件、薬物などは日本より身近にあります。

    でも、彼らの父親のファンだという日本人の方が時々「テレビで見たよ!」と連絡をくれるみたいで、そういうのはすごく嬉しいみたいです。

    ――それは励みになりますね。

    南アフリカにある日本のコミュニティも応援してくれていました。

    日本企業さんの現地法人のイベントで演奏する機会や、日本大使館主催の天皇誕生日のレセプションで『君が代』を斉唱する機会をいただけたりもしました。

    現地の日本コミュニティがサポートしてくれていたので、そういうところでは反響を感じられていたし、日本をより身近に感じられるようになりました。

    ――プロとしての活動が徐々にできていると。

    最近だと、吉本興業さんとNTTさんが作っている新事業のCMジングル制作や、EテレのSDGsに関する番組の企画に参加させていただだきました。

    現時点では公表していない内容でも、新しい挑戦の場を色々といただけています。

    ――本人たちは将来に向けて、もっと音楽を頑張っていきたいという感じですか?

    それはあると思います。ただ、音楽以外の選択肢を狭めたいとは周りも思っていません。

    本人たちもいろんなことに興味があるので、やりたいことをのびのびやれるようにしてあげたいですね。

    ちゃんと音楽やっていく大変さを両親がよく知っているし、音楽がプレッシャーになりすぎて苦しくなるのも、望んではいません。

    邦楽アーティストとのつながりも

    ――アーバンコヒージョンとしてこれまでどんな活動をしてきたのか、具体的に教えていただけますか?

    昨年は日本のプロデューサーやミュージシャンの方と一緒に楽曲制作する機会がりました。

    例えばtofubeatsさんや、Laid Back Oceanさんなどの作品に参加させていただいたんです。

    コートジボワールのラッパーDEFTYを迎えた新曲 Keep on Lovin' You REMIXが配信開始!まだ暑くて困っちゃいますがそんな天気にバッチリな感じです。プレイしやすくなってますのでDJ諸氏もぜひ〜 https://t.co/r5JpKuHPBa

    Twitter: @tofubeats

    もう一つ、未発表ですが日本のヒップホップ系のプロデューサーの方と楽曲を制作させていただいたり、その他海外でも、米国ワシントンにあるシェイクスピアシアターのヴァーチャルライブをはじめ、さまざまな企画に参加させていただきました。

    あとは日本のJELLY→というバンドとの活動です。彼らがデビュー20周年記念で一時的に復活した際、アフリカで一緒にイベントを開催しました。

    ゼリ→ in South Africa OCEANIC LIGHT まだこの日から20日しか経ってないのか もう随分 前の話な気がするなぁ

    Twitter: @x_YAFUMI_x

    アフリカの若いミュージシャン達にとって、とても良い刺激になったようです。

    もともと繋がっていないものが繋がって新しいものが起きる、みたいなことができたのがすごく楽しいです。

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    ――国内外の相互理解も進んでいるという感じですかね。

    そうだと良いなと思います。アーバンコヒージョンというチームの名前は、もともとSocial Cohesion(社会調和)という言葉をもじったものなんです。

    紛争影響地域や移民が多い地域などで社会が分裂したり、対立したりすることの逆にある言葉だと理解しています。

    アパルトヘイトのあった南アフリカや、2011年まで政治的混乱(内戦状態)が続いたコートジボワールのメンバー達も、cohesionという言葉をとても大事にしています。

    「繋がる」ということ、その先に理解し合えることは、この活動の重要なテーマの一つと考えています。

    ――こういった活動を行うなかで、服部さんの行動の原動力となるものは何ですか?

    大義名分でいうと、日本と繋がることでアフリカのアーティストに今までなかった機会を提供できることにやりがいを感じることです。

    日本の良さも知ってもらえるし、アフリカの良さも知ってもらえる。そこが繋がっていくのはとても楽しい。

    昨今はブラック・ライブズ・マターなど人種の話題も多いですが、異なる背景を持つ人同士が、色んな角度の接点を自然と持てることに少しでも貢献出来れば嬉しいです。

    ビコマナのオリジナルアルバムを作りたい

    ――今後の活動予定について決まっていることなど教えて下さい。

    コロナの影響で過去1年あまり動画を出せていないのですが、YouTubeは続けたいです。

    それと、彼らがやりたいこともいろいろと出てきていて。たとえばビコマナの周りでいうと、ビコマナのおばあちゃんが、現地の若い子とか、暴力の被害にあった子達のシェルターをつくって、そこで音楽を教えながら彼らに向き合うような活動をしているんですね。そういう活動とのシナジーも増やしていきたいと話しています。

    若者やコミュニティへのエンパワーメントには、多分アーティストが担える役割があると思うんです。

    アーバンコヒージョンのアーティストがそれぞれ、自分達のコミュニティの人達にもポジティブな影響を還元していけると、気持ちの良い活動になっていくんじゃないかと思っています。

    ――良い循環が生まれそうですね。

    あとはとにかく、現在制作中のビコマナのオリジナルアルバムをどうにか完成させてお届けできると嬉しいです。

    彼らがずっとストリートで歌い続けてきた、ストリートに育てて貰った音楽を今のベストで録音したいと考えています。

    加えて、まだ検討段階ですが、ビコマナは日本の楽曲のカバーアルバムの製作も検討しています。

    ――それは楽しみです。

    他にも色々と構想があってゆっくり動いていますが、今はまだお話しできる段階のものではないです。

    違うところにいる人達が繋がってひとつのものをつくっていくということを、何らかの形で表していきたいと思っています。

    ――大変そうですが、やりがいがありますね。

    とても楽しいです。あとは、日本で演奏する機会をいつか作れたら嬉しいと思っています。

    これまで日本から応援してくれた方々と空間を共有したい、日本でやるのは目標のひとつです。コロナ禍が過ぎたら夏のフェスに呼んでください!