Switch用ゲーム『カブトクワガタ』がいろんな意味で注目を集める。「ヤバいゲーム」から一転、全盲ゲーマーの声で再評価の流れに

    小学館から3月に発売された、Nintendo Switch用ゲーム『カブトクワガタ』が全盲のプレイヤーから絶賛され注目を集めています。独特の仕様はそこまで想定したものだったのか、小学館に聞いてみました。

    Nintendo Switch用ゲーム『カブトクワガタ』が、全盲のプレイヤーから「日本のゲームアクセシビリティの革命」と絶賛されています。

    発売当初はむしろ「ヤバいゲーム」「ネタゲーム」として話題になっていましたが、ネット上では一転して「そういう見方もあったのか」と再評価される流れに。「ゲーム内のあらゆる文字を合成音声で読み上げる」という独特の仕様はどのようにして決まったのか、発売元である小学館に聞いてみました。

    発売当初の反応は「ヤバいゲーム」「あまりにも尖っている」

    『カブトクワガタ』は去る3月15日に発売されたNintendo Switch用ゲーム。小学館の『コロコロコミック』編集部と、『甲虫王者ムシキング』で知られるゲーム開発者・植村比呂志さんがタッグを組んで開発した作品で、さまざまな昆虫を育てて戦わせながら冒険を進めていく――という内容です。

    しかし発売直後からネット上では、「ゲーム内のあらゆる文字を合成音声で読み上げる」という独特の仕様にツッコミが相次ぐ形に(Togetter)。

    開始数秒でヤバさを感じるゲーム初めてかも………… #カブトクワガタ #NintendoSwitch

    Twitter: @MEGASEINOW

    #カブトクワガタ #NintendoSwitch 面白すぎる

    Twitter: @0Na2i7

    【ニュース】Nintendo Switch新作『カブトクワガタ』が“あまりにも尖っている”として注目集める。配分の偏りがすごすぎる低予算パンチ https://t.co/im5MITR57K

    Twitter: @AUTOMATONJapan

    キャラクターのセリフはもちろん、ステータス表示やコマンドといったインターフェース部分、さらには名前入力時の「文字」まで全て合成音声で読み上げる様子はかなりシュール。

    SNSなどでは「腹筋崩壊する」「あまりにも尖っている」などの反応が目立ち、最初はどちらかというと“低予算のネタゲーム”として話題になっていました。

    全盲プレイヤーからは「アクセシビリティの革命」と絶賛

    ところがそれから数日後、ブログ「猫の前足」に『カブトクワガタ』は日本のゲームアクセシビリティの革命であるというレビュー記事が掲載されると、状況は一変します。

    ブログでは全盲のプレイヤーの視点から「(目が見えなくても)今のところプレイしている途中で困ったことが一度もありません!」と、同作の読み上げ機能を絶賛。

    また読み上げ以外の部分でも、次のような点が優れているとして紹介しました。

    • 虫に近づくとマーカーが音で知らせてくれる
    • その状態でAボタンを押すと、これからバトルする虫の種類やステータスを読み上げてくれる
    • 戦闘時、自分側と相手側で効果音が左右に分かれるため、どちらの音かがすぐ分かる
    『カブトクワガタ』ゲーム画面

    このエントリはたちまち話題になり、ネット上では一転してポジティブな感想が多く寄せられる形に。

    「酷評も見たが、こんな観点もあるのね」「違う視点からの評価って大事だねえ」など、見方を変えるだけでガラリと評価が変わることに驚く声や、「興奮冷めやらぬ文章でこちらも嬉しくなった」など、レビューの熱量に胸が熱くなったという声もみられました。

    小学館に「全部読み上げ」の狙いを聞きました

    もちろん、これらの機能が全て、最初から「視覚障害者が遊ぶこと」を想定して実装されていたかどうかは不明です。

    このあたりは前述のレビュー記事でも、同作の原型となったであろう『ムシキング』シリーズの開発経験から、「(小さな子どもなど)だれにでも遊べるような機能」について検討し、「そういう気配りの結果が、こういうところに1つ1つ生きてきているのでは」と推測していました。

    果たしてこの「全部読み上げ」はどのような狙いで実装したのか? 小学館に問い合わせてみたところ、開発者の植村比呂志さんからコメントをいただくことができました。

    『カブトクワガタ』ゲーム画面

    ――全盲プレイヤーの方のレビュー記事を読んで、どのように感じましたか。

    もともと音声合成は、まだ文字がスムーズに読めないお子さんに対するインターフェースでしたが、いろいろな方に役立つことがあるという気付きをいただきました。

    ――「ゲーム中の文字を全て読み上げる」という仕様はどのようにして決めたのでしょうか。実際に視覚にハンディがあるプレイヤーが遊ぶことを考慮はしていましたか?

    前述したように、文字がまだスムーズに読めないお子さんに向けたもので、セリフだけではなく、選択肢ボタンの内容なども読み上げることは最初から決めていました。

    視覚にハンディがある方を考慮したわけではなく、とにかく小さいお子さんにも内容を理解して遊んでほしい気持ちが一番でした。

    『カブトクワガタ』ゲーム画面

    ――声優を使わず、合成音声を使っている点も特徴的です。これについてもさまざまな声がありましたが、合成音声を使うことを決めたのはなぜでしょうか。

    20年近く前に『甲虫王者ムシキング~グレイテストチャンピオンへの道~」という子ども向けのゲームを開発しました。その際に、文字をスムーズに読めないお子さんたちが遊ぶのに苦労しているとのご意見を多数いただいたので、続編(グレイテストチャンピオンへの道2)で、音声合成を採用して、メニューやボタンなども読み上げるようにしました。

    結果、皆さんに喜んでいただけましたので、今回はその経験を生かして、最初から読み上げをしようと決めていました。

    甲虫王者ムシキング ~グレイテストチャンピオンへの道2~

    ――「読み上げのオン・オフを選べるようにしてほしかった」「バトル自体はルーレット方式で進むため“目押し”が必要になってしまう」など改善を求める声もみられました。こうした意見について今後、アップデートなどで対応を行う予定はありますか。

    遊んでいただいたお客様からは、毎回さまざまなご意見をいただきます。新たな気付きもあり、今後の参考にさせていただいております。アップデートに関しては、実施も含め現在検討中になります。決まっていることはありません。

    ――今後もこうしたアクセシビリティへの配慮や取り組みを続けていく予定はありますか。

    まだスムーズに文字を読めないお子さんへの配慮は続けていきたいと思っています。

    子ども向けビデオゲームの開発者として、ゲームから学んで頂けることもたくさんあると考えています。そのためにも、良質な内容と、アクセシビリティへの配慮がある、楽しいゲーム開発を目指します。

    ・・・・・

    植村さんによれば、同作の「ゲーム内のあらゆる文字を合成音声で読み上げる」という仕様はもともと、「文字がまだスムーズに読めない子どもたち」にも遊んでほしいという配慮から生まれたものだったとのこと。

    しかし、結果的にその配慮がこうして全盲のプレイヤーにも届いたことについては、「いろいろな方に役立つことがあるという気付きをいただきました」と逆に感心していた様子でした。

    Nintendo Switch用ソフト『カブトクワガタ』は、小学館から1980円で販売中。4月14日まではリリース記念で、50%OFFの980円で購入可能です

    『カブトクワガタ』紹介映像

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com