コロナに負けない――この夏、1億再生超の人気バンドが横アリで「有観客」ライブを決断するまで

    新型コロナの影響を受け、軒並み中止になったこの夏のライブイベント。先陣を切って5000人規模の「有観客」ライブに踏み切った和楽器バンドが語る決断までの葛藤。

    8月15日、そのバンドは横浜アリーナで観客5000人を集めてライブをした。

    KEIKO TANABE

    ライブ、演劇、イベント、フェス……新型コロナの感染拡大を防ぐため、多くのイベントが軒並み中止に追い込まれた2020年の夏。

    代表曲「千本桜」はYouTubeで1億3千万回以上再生され、老若男女多くのファンを持つ和楽器バンドは、まだ厳しい自粛ムードの中、2日間に渡って「真夏の大新年会2020 横浜アリーナ 〜天球の架け橋〜」を開催した。

    厳戒態勢で開催したライブは、現地で各日5000人、配信で2日間のべ3万5000人の観客を集める。2週間後にはスタッフ、出演者含め感染者はゼロだったと報告された。

    エンタメの火が消えそうな夏、先陣を切って「有観客」ライブに踏み切った彼らは、あの時、何を考え感じていたのか。葛藤の日々を明かした。

    提供写真

    全8人の和楽器バンド。鈴華ゆう子(ボーカル)、黒流(和太鼓)、いぶくろ聖志(箏)、蜷川べに(津軽三味線)の4人に話を聞いた

    「本当にやるのかな?」直前まで拭えなかった不安

    ――まだまだ自粛ムードが厳しかった8月、あの段階でアリーナ規模のライブを決行するのはかなり勇気が必要だったのではないでしょうか。

    鈴華ゆう子(ボーカル):正直、不安は大きかったですね。実家の母も「本当に大丈夫かな」と心配そうでしたし、自分自身も「本当にやるのかな? やれるのかな?」という気持ちが当日を迎えるまでありました。

    黒流(和太鼓):実施を発表した6月末は、緊急事態宣言や「東京アラート」を経て、また少しずつ都内の感染者数が増え始めていたんですよね。

    時事通信

    都道府県境をまたぐ移動が全面解禁後の初の週末を迎えた6月20日、多くの観光客でにぎわう浅草・雷門。規制は少しずつ緩められる一方、都内の感染者数は少しずつ増えており、なかなか先が見通せない状況だった

    ――7月に入ってからまた一気に増えたんですよね。たった数カ月ですがはるか昔に感じますね……。

    鈴華:1カ月先がどんな状況かも見えなくて。今より悪くなっているかもしれない、ライブどころじゃないかもしれない、前日に中止になるかもしれない……。

    それでも、「やるつもりでいる」意志だけはファンのみなさんに伝えたかったんです。

    KEIKO TANABE

    ボーカルの鈴華ゆう子

    ――それは、ライブがない日々が当たり前になるのに抗いたかった、というニュアンスでしょうか。

    鈴華:私、ディズニーランドが大好きで年間パスポートも持っているんですけど、2月末に休園してからずっと苦しくて。

    行けないことより、いつ再開するか、そもそも再開できるかもわからない時間がすごくしんどかったんです。このまま私が好きなものが失われた世界になったらどうしよう……って。

    パークが再開する“かもしれない”という報道があっただけですごくうれしかったし、もし「やっぱりやめます」になってもそれはそれでよかった。前向きな方向を示してくれただけで救われた気持ちでした。

    なので、ライブやエンタメの火が消えそうな今、私たちが「ライブがしたいです」「するつもりでいます」と示すことで、同じように救われる人がいるかもしれないと思ったんですよね。

    声援はなくても伝わる熱気

    ――検温と消毒を徹底し、マスク着用、歓声禁止を求めた厳戒態勢のなか、実際にライブをやってみていかがでしたか?

    KEIKO TANABE

    入場時に一人ずつ検温・消毒する厳戒態勢

    鈴華:始まる前はどんな感じなんだろう? ちゃんと盛り上がるのかな? って自分たちも思っていたんですが……すごかったよね!

    いぶくろ聖志(箏):本当に! 幕が開いたら、「気」が一気に伝わってきて。声を出すのは禁止だからみんな無言のはずなのに、歓声が聞こえてくるような錯覚を覚えました。

    KEIKO TANABE

    鈴華:マスクでほとんど顔が隠れて目しか見えないのに、みなさん笑顔で楽しんでくれているのが伝わってきて……熱いものがこみ上げました。

    「無観客」とその場にお客さんがいてくれるのは全然違う!

    声は聞けなくても、手拍子とペンライトで今この場を一緒に盛り上げてくれることが伝わってきて、すごく楽しかったです。想像以上にいつもと変わらないテンションでできました。

    黒流:強いて言えばMCでスベってる感が出たのはキツかったです(笑)。誰も笑ってくれないから……。

    鈴華:確かにそれはコロナ時代のライブの難点かもしれない(笑)。

    今“だから”できること

    黒流:「コロナのせい」でどうしてもできないこと、制限しなければならないことばかり考えてしまいますが、逆に今だからこそ何かできることを提案したいという気持ちは強かったです。

    例えば、ドラムと和太鼓のセッションを撮影してもOKということにしたのは、「今だからできること」の模索のひとつでした。普段のライブだとコール&レスポンスで盛り上がる場面で、スマホを構えてもらう雰囲気ではないので。

    横浜アリーナ@リハ風景 (撮影・鈴華ゆうこ) #和楽器バンド #ドラム和太鼓バトル #長過ぎる叫び

    ――リモートで“合唱”しているようなアンコールの演出も素敵でした。

    蜷川べに(津軽三味線):これも、今だからこそでしたよね。アンコールはいつも会場のみなさんが合唱してくださるのが定番なのですが、今回はそれができなかったので、事前にみなさんが歌っている映像を募集しました。

    家族みんなで応援してくれている人、コスプレしている人。海外からの投稿も多くて驚きました。たくさんのファンの方の存在を感じられてこれはこれですごくよかったです。

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    youtube.com

    動画を使ったアンコールの様子は2分43秒頃から

    ライブをやってくれてありがとう」

    ――2週間経って、スタッフおよび観客に感染者ゼロと発表がありました。「できるんだ!」という希望になったのでは。

    黒流:本当に皆さんの協力があってこそでした。開演前から誰も喋らず、スタッフが呼びかけることもなく自主的に会話を抑えてくれていて。

    ライブのあと、ファン同士で“打ち上げ”するのが定番だった、それが楽しみだった人も多いと思うんですよ。それも我慢して、感染ゼロで終えることを最優先にそれぞれが行動してくれた。

    ライブってお客さんも含めた全員で作り上げているんだ、という絆や信頼のようなものは普段以上に感じました。

    KEIKO TANABE

    鈴華:当日観に来てくれたアーティストの方々、ライブを作ってくれたすべてのスタッフさんたち、たくさんの人が「ライブをやってくれてありがとう」って口々に言ってくれて。

    「よい前例が作れた」とまでは言いませんが、ひとつ形を示せたのはすごくよかったです。

    黒流:10月末からは東京、大阪、名古屋で新アルバム「TOKYO SINGING」のライブツアーを予定しているのですが、2度目だから大丈夫、と気を抜いてしまうのが一番よくないと思っています。

    十分な感染対策をしながら、エンターテインメントを楽しめるように。何もかも元通り、になるにはまだまだ時間がかかると思いますが、今できる新しい形を作っていきたいです。