8月初め、「渋谷でゲームあるある再現してみた」と題された1本の動画がTwitterで大きな話題を呼んだ。
渋谷でゲームあるある再現してみた
説明通り、渋谷の街で「龍が如く」や「メタルギアソリッド」などのアクションアドベンチャー風にミッションをクリアしていく動画だ。
「動きが完璧」「途中まで本当にゲームだと思ってた」「微妙な違和感の再現がすごい」など驚嘆の声が続々。
スマホの小さな画面で見るとゲームの1シーンのようだが、よく見ると生身の人間が、実際の渋谷の街を走り回っている。

現実世界ではちょっと不自然なプレイヤーの動き、独特のカメラワーク、的確な効果音……再現のクオリティが高すぎる。随所に織り込まれた細かい「ゲームあるある」にもニヤッとしてしまう。
凄い…。障害物(電車)に当たりながら横スライド移動するところとか、地下鉄の入り口シーンで正面の空間が狭いとカメラが人物に寄る撮り方のあたりに尋常じゃないこだわりを感じた…。 https://t.co/1SjljGmAAy
ゲームの違和感を再現する動画はいくつも見たけどこれは抜群に上手くて本気でゲーム画面だと錯覚した。 ・振り返るときの妙な機敏さの再現 ・調べるときに位置合わせのために一瞬変な動きをするのを再現 ・カットシーン用のモーションからインゲーム用のに切り替わる瞬間の違和感を再現 https://t.co/V1PPc1I0sQ
・組み技を使ったときに敵味方とも静止するのも開発上の都合あるある ・プレイヤーの目が全く微動だにしてないのも凄い演技力 ・カットシーンで無駄にカメラが動きまくるのもあるあるすぎる ・全体的に動きが大げさなのもめっちゃあるある
このツイートは97万いいね、30万RTを超える大ヒットに(動画部門で国内歴代1位)。Twitter上での再生数は2000万回、YouTubeで公開したフルバージョンも150万再生を超えた。
YouTubeでこの動画を見る
YouTubeで11分のフルバージョンを公開
この凝りに凝った動画を制作したのは、YouTubeで「駒沢アイソレーション」として活動する2人組のダンサー、ハヤケンさんとがんそさん。
「シーズン1」の全4本を公開し終えた2人に、制作の裏側を聞いた。

「ようやくこの時がきた! って感じ」
――「実写版ゲームあるある」シリーズ、すごく面白かったです…! 2人はもともとどういう関係なんでしょうか?
がんそ:大学のダンスサークルの先輩後輩です。僕が先輩で、彼が後輩。卒業後もずっと仲が良くて。
ハヤケン:2人ともそれぞれストリートダンスで日本一になったことがあって……まあまあ踊れます。
――日本一、まあまあどころじゃない。ということは、チャンネル名の「駒沢アイソレーション」はダンスユニットとしての名前なんですか?
がんそ:いえ、そういうわけでもなくて。むしろ「ダンス以外の面白いことしようぜ!」というノリで1年半ほど前に一緒に始めました。
ハヤケン:ダンスではなくエンタメに振り切ったことをやりたいと思ってYouTuberデビューしました。1年間いろいろ試してきたんですけど、なかなか跳ねるものがなくて。今は「ようやくこの時がきた!」って感じです(笑)。
がんそ:絶対Twitterでバズらせたい!! と思っていたのでめちゃうれしかったです。でもここまでの反響とは思いませんでした……心の準備がないまますごいことになっちゃいました。
きっかけは器用すぎる宴会芸
――街でゲーム風の映像を撮ろう、というアイデアはどう生まれたんでしょう?
ハヤケン:えーっと……きっかけは完全に宴会芸です。僕が「グランド・セフト・オート」(GTA)のプレイヤーの動きをマネするのが得意で。
がんそ:めちゃくちゃうまいんですよ。細かい動きまで本当に器用。
ハヤケン:飲み会で披露すると、いつも大爆笑してもらえるんですよね。一発芸的なネタだったんですけど、ちゃんと“それっぽい”映像にしたら面白いかな? と思って考え始めました。
――この動きできる! が先だったんですね。コロナで渋谷に人が少なくて「今なら撮れる」と思いついたのかなと想像していました。
ハヤケン:あ、でもそれもかなり大きいです。撮影は終電がなくなった深夜帯にやっているんですが、コロナ前だと同じ時間でもおそらくもっとたくさん人がいて、「ゲームっぽい街」を撮るのは難しかったと思います。

あとは、YouTubeでの流行も意識しました。あるある動画は人気が出やすいから「ゲームあるある」はできるだけたくさん入れようとか。
「見るASMR」的な要素もあるかなと思っています。遠方に住んでいる方は特に、今は気軽に都心に来られないですよね。動画を通して、今の渋谷の雰囲気を味わってもらえたらと。
初心者でもわかる「あるある」ネタ
――具体的にアイデアを固め始めたのはいつくらいからですか?
がんそ:5月くらいですね。まずは2人でゲームのあるあるネタ、「わかる!」ってなるやつをリストアップしていきました。最終的に100個以上は出したかな。

――ハヤケンさんは、元ネタにしたゲームたちは実はそんなに知らないとか。
ハヤケン:そうなんです、特段ゲーマーなわけではなくて。一般の男子くらい……友達の間では普通に話題になるし、触ったことはある、雰囲気はわかる程度。
でも、それくらい初心者でも想像できるあるあるの方が多くの方に笑ってもらえるかなと思いました。
――「うまく操作できなくてやたら自動販売機にぶつかりながら走る」とか、「出会ったキャラクターの顔面や身体をアップにしてみる」とか。
ハヤケン:もちろんコアなファンの方にも楽しんでほしいので、マニアックなこだわりはゲーマーのがんそにまかせています。
普通の通行人がエキストラに見えてくる不思議
――「謎の男」についていく尾行パート、段ボールをかぶるといきなりガバガバ判定になって全然見つからなくなるところが最高でした。

がんそ:そこ皆さんに笑ってもらえてうれしかったですね。「お前、それ絶対見えてるやろ!」っていう(笑)。
ハヤケン:なんか、ノリで作るのが大事だなってわかりました。ネタを出しているときに自分たちで爆笑していたものは、動画にしてもやっぱりウケがよかった。
「尾行してる時に道端の段ボールかぶってさ〜、明らかに目の前にいるのにバレてないのおもろくない?」「ヤバい! それめちゃウケるw」みたいな。

――やってて楽しそうなのがすごく伝わってきました。道行く人が、出演者なのかたまたま通りがかった人なのかわからないのも楽しいですね…このアングルで見るとすべてゲーム画面に見えてしまう不思議!
ハヤケン:渋谷編に登場する酔っ払いはほぼ全員、野生の酔っ払いです(笑)。いい感じに路上で転がっている人も仕込みじゃないです。
――工事現場のおじさんがいい味出していて好きです。

がんそ:ダンサーとして外で撮影する時もそうなんですが、通行人に話しかけられないかが一番ヒヤヒヤなんです。今回の撮影なんて、絶対近くで見かけたら「何やってるんだろ?」って気になるじゃないですか。
終電直後のハチ公前広場はまだそこそこ人がいて「お願いだから話しかけないでくれ〜!」と祈りながらカメラを回していました。
ハヤケン:このハチ公の左側にいる2人は、たまたまその場に居合わせた方ですね。

――この2人、エキストラっぽすぎますよね。座っている位置やポーズもどことなくNPC(ノンプレイヤーキャラクター。ゲーム世界の中に存在している操作できない人物のこと)感が……。
ハヤケン:(笑)。そういう意味だと工事現場のおじさんは、カメラを気にせず仕事をしてくれているので、リアルワールドにおける最高のNPCでした。
カメラワークは「とにかく研究」
――細かいネタも楽しいですが、全体通してカメラワークが凄すぎます。
がんそ:ビデオグラファーのしゅんぴくんも、僕らと同じダンスサークル出身です。
ハヤケン:しかも彼、本格的に撮影・編集したの、ほぼ初めてなんですよ。うまいですよね〜。「グランドセフト如くソリッド」のパロディロゴも作ってくれています。

――えっ……!? みなさんダンス以外の才能がありすぎません?
がんそ:機材は結構シンプルで、基本的にはミラーレス一眼レフカメラをスタビライザーで固定して撮っています。
彼もゲーマーなわけじゃないので、カメラワークのイメージは3人で細かく共有しました。YouTubeにゲーム実況動画はたくさんあるので「この動き!」をひたすらグループLINEに貼りまくって。
――それであそこまで「ゲームっぽい」画作りができるんですね。事前にロケハンも綿密にやっているんでしょうか。
ハヤケン:はい、ロケハンは撮影と別日に夜通しやりました。終電が終わるくらいの時間に集合して、朝方まで。
街を歩きながら「ここでコインロッカーあるあるできるね」「こっちから走ってきて、この路地に人がいて…」とシナリオを細かく決めていきました。
がんそ:渋谷って、夜中はいろんなところで工事をしているんですよね。ここ走り抜けたかったけど通れないな、とルート変更したり。
ハヤケン:ゲームなので、ロード画面を挟めば好きな場所にワープできるのでそれは助かりました(笑)。

――そのあたりのシナリオ作り、前準備が一番大変でしたか?
がんそ:いや……やっぱり一番は撮影ですね。朝日がのぼるまでに終わらせないといけないので緊張感がすごかったです。
ハヤケン:基本長回し、ロングカットなのでほとんど途中で休めないんですよ。なるべく一発撮り。
編集しやすいようにアイテム画面でカットを入れていますけど、カメラの位置を動かすと画角が変わって不自然になっちゃうので、なるべくしてません。
路上で立ったまま着替えたりハリセンを持ったりしているので結構忙しいです。全然休憩にはならない(笑)。
動きの「ゲームっぽさ」はどこからきてるの?
――ハヤケンさん演じる主人公、細かい仕草の「らしさ」がすごいですよね。ゲームっぽい動きをするポイントってなんですか?
ハヤケン:なんだろう? 当たり前ですが、とにかくゲームの映像をよく見て、全力でマネすること。ダンサーなので、身体は器用なんですよね。そこはアドバンテージだと思います。

――そうですよね。ダンサーとしての身体性の高さがあってこそのクオリティ。
ハヤケン:あと、撮影中は完全に主人公になりきること(笑)。
だいたいの流れは決めていますが、途中の細かい動きはほとんどアドリブなんです。いきなり道端でかがんだり、虚空にパンチしたり。自由すぎるプレイヤーに臨機応変に対応してくれたカメラマンに感謝です。
最初は2本だったけど…急ピッチで続きを制作
――8月5日、12日に前後編で渋谷編を公開。続く原宿編、お台場編の全4本で一旦「シーズン1完結」となっています。
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チャプター4お台場編。ラストシーンは貸倉庫で撮影。どんどんスケールが大きくなっている…!
がんそ:最初はチャプター2の渋谷編で終わるつもりだったのですが、1本目がものすごく話題になったので「この機を逃しちゃダメだ!」と急遽3本目、4本目にとりかかりました。
ハヤケン:あるあるネタを改めて洗い出すところからはじめて、平日深夜にロケハンして、翌朝そのまま仕事に行って、週末に撮影して……。
人生で一番忙しかったかもしれないです。1週間で1本、ゼロから完成まで持っていった感じでしたね。
――チャプター3のサムネイルにもなっている彼女が最高でした。「ゲームに出てくる美女」感!
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チャプター3 原宿編。自転車や車など小道具が登場
ハヤケン:ステファニーは本当に素晴らしいですよね! 「ダイナマイトセクシーな感じで!」と伝えたら、予想以上に超セクシーな衣装を自前で用意してくれました(笑)。動画公開後、インスタのフォロワーもすごく増えたらしいです。
がんそ:渋谷編はカメラマン含めて4人で撮影していたのですが、お台場では10人以上に。ほとんどダンス仲間で、みんな楽しんで演じてくれてよかったです。

「最高」「よすぎる」世界からも大注目
――最初のツイートには英語やスペイン語、ロシア語でコメントしている人もいますね。世界中で楽しまれているのがわかります。
ハヤケン:海外からの反響、本当にすごいです。英インディペンデントからも「紹介していい?」って連絡がDMできましたし。フォロワー160万人の「YouTube Gaming」にRTされたときは「え!?」ってなりました。
This is too good. YouTuber walks around Shibuya like it’s a video game.
「これはよすぎる」。英語で紹介するツイートも30万いいねに迫る勢い
――この人に見てもらえた! とうれしかった人はいますか?
ハヤケン:個人的には『Dr.STONE』『アイシールド21』の原作者の稲垣理一郎さん。大好きな超おもしろいマンガのクリエイターが目に留めてくれたことがうれしかったです。『アイシールド21』、僕世代ド真ん中なので。
面白いし、逆にこの手のゲームがどうしたらもっと自然になるかの研究にもなりそう笑 https://t.co/Vrucv1hF4R
がんそ:僕はメルカリの社長(山田進太郎さん)がコメントしてくれたのがすごい!ってなりました。
あるある https://t.co/E3XGKCoRLd
――ゲームやダンス界隈ではなくメルカリの社長!?
がんそ:「まさか、あのメルカリの社長が!」…ってシンプルにそれですよね(笑)。自分もいつも使っている革新的なサービスを作った人が褒めてくれている! というのがなんかうれしかったです。
――チャプター4のラストでシーズン2「バイオハザード如くオート」の予告もありました。
ハヤケン:新たにできた予算をフルに使って、さらにスケールの大きい男のロマンを大掛かりに仕掛けていくつもりです。
がんそ:今回元ネタにした「GTA」「龍が如く」に続き、次回の「バイオハザード」も自分の大好きなゲームなのでどう再現していこうか楽しみです。
ゲームをあまりやらない人はもちろん、その作品を好きな人が見ても楽しめるものにしていきたいと思っています!
