2022年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:7月19日)
2022年4月、インターネットの一部で大きな話題を呼んだ「ティラノサウルスレース」をご存知ですか?
ティラノサウルスの着ぐるみを着た人々が、懸命に走るというシンプルな競技です。
風に体をあおられながら必死で走る姿。歩幅がせまく微妙におぼつかない足取り。前後左右に大きくゆれる首。
「シュール」「こういうの大好き」と大反響を呼び、Twitterに上げられた関連動画は合わせて1000万回以上再生されています。
あまりの話題っぷりにティラノサウルスの着ぐるみがAmazonホビー部門1位に急上昇し、人気のあまり値上がりまで。
レースは全国にじわじわと広がり、鳥取では県立博物館とのコラボイベントも開催。「ティラノサウルスデビュー」する人が日本中で続々と増えているようです。
このレースは、鳥取と大阪を拠点に映像関係の仕事をしている川本直樹さんが趣味で始めたものでした。
この狂気の……いや、人を熱狂させるアツいレースはどう生まれたのでしょうか?
ティラノサウルスと鳥取、「全然関係ないです」
――話題沸騰のティラノサウルスレースですが、開催のきっかけは?
数年前、海外で開催されているティラノサウルスレースの映像をニュース番組で見たのがきっかけです。
調べてみると、どこかひとつ大きなイベントがあるというより、誰かがやったのを他の人がまねして、という感じで広がっているようでした。企業や警察署の運動会とか、それくらいの規模で。
見た目もコミカルで楽しいし、「これ日本でもやらないのかな?」と思っていたんです。待っていても一向に誰もやらないので「じゃあ自分でやろうかな」と。
――ティラノサウルスと鳥取と関係があるわけでは…?
全然ないです(笑)自分が鳥取を拠点に仕事をしているというだけです。
逆に、まったく関係ないのがおもしろいかなって。「なんで鳥取でティラノサウルスなんだよ」みたいな。
――4月のレースはネットでも大きな話題になり、テレビや新聞でも多数取り上げられました。
いやぁ、本当に……。ある程度話題になるだろうな、とは思っていたのですが、ここまでウケるとは思いませんでした。みんな疲れていたんですかね!?
コロナもなかなか収束しないし、戦争も起こるし、元気を発散する場や大笑いする場がなくて、こういうただみんなで楽しめるものを求めていたのかなぁと感じました。
――第1回とはいえ、かなりの盛り上がりでしたよね。
参加恐竜は100体募集して、定員いっぱいになり、キャンセル待ちが出るほどでした。
「成獣の部」「幼獣の部」にわかれていて、それぞれ85体と15体がエントリー。成獣はオスとメス半分ずつでしたね。
メスのほうがモーションが速くて、応募開始後、すぐに埋まりました。ティラノサウルスはメスの方が積極的なことがわかりました。
――ティラノサウルスのみなさんは全国からお集まりだったんでしょうか?
県内が多かったですが、県外からもいらっしゃいましたよ。愛媛とか山梨とか神奈川とか。
正直、奇特な恐竜もいるんだな、と思いました。着ぐるみで走るためにわざわざ鳥取まで来るんですからね……。
走ってるだけ、ラジオ体操してるだけでおもしろい
――走っている姿の映像、何度見てもかわいくておもしろくて必死で笑ってしまいます。
走ってる側は至って真剣なんですけどね。笑わせようと思ってないのにコミカルになってしまうのがいいですよね。
着ぐるみには視界を確保する窓がついているんですけど、走ってるとこれが首の部分と一緒にパタパタはためいてずれちゃうんですよ。まったく前が見えなくなる(笑)
――結構怖いですね(笑)
あと、手が前に小さくついているので、どうしても大きく前後に振れないんです。普段走るフォームとは違うので結構難しい。
とはいえ、動画で見るとあまり伝わらないかもしれないですが、走ってる恐竜たちはかなり速いんですよ。観客のホモサピエンスの皆さんは大爆笑しながら「はやー!」ってびっくりもしてましたね。
――ラジオ体操の動画も大好きです。大量のティラノサウルスが息ピッタリで、でもちょっとよたよたと体操してるのがおもしろすぎて……。
開会式のあと、いきなり走るのもなと思って、準備運動としてやってみたんですが面白かったですね(笑)
動画ではドローンからの映像になっているんですが、両足とびのパートになった途端に、今まで左右やタイミングがちょっとずれていた恐竜たちも含めて、みんないっせいにテンポよくジャンプしはじめて。そのシンクロっぷりに会場で大笑いしてしまいました。
心もティラノサウルスになっていく
――川本さんもよくティラノサウルス姿で出歩かれていますが、着てみてわかったことはありますか?
不思議なんですけど、どんどんティラノサウルスらしくなっていくんですよ。
これは僕に限らず、みんなそうです。
――ティ、ティラノサウルスらしく?
例えば、先日鳥取県立博物館の「ティラノサウルス展」をティラノサウルスになって観に行く「ティラノサウルス展を見るティラノサウルス展」というイベントを開催したんですが、平日に40体くらい参加がありまして。
――結構多いな。平日にひまなティラノサウルス…。
最初はみなさん人間だった時の習性を引きずって、直立で歩いているんですけど、だんだん前傾姿勢になって、首を振って、より恐竜らしい動きになっていくんですよ。誰からともなく。
これはティラノサウルスのパワーですね。
――外側がティラノサウルスになると、心まで……。
実際、恐竜になるのって楽しいんですよね。
いつもよりちょっと荒々しく動ける面白さというか、力強い自分になれる新鮮さというか。ストレス発散になる!という方がいるのもわかります。
「運命を感じています」と熱烈オファー
――7月16日に開催されるイベントは県立博物館とのコラボイベントです。これはどんな経緯なんでしょうか?
県立博物館で「ティラノサウルス展」を開催予定であることはレースを準備していた段階では知らなくて、たまたまだったんです。特にタイミングをあわせたわけでもありませんでした。
学芸員の方から「運命を感じています!!」とTwitterでアツいDMをいただいて。
――運命って…学芸員の人も興奮しちゃってる。
最初は「余計なことしてくれてんじゃないよ!」と怒られるかと思ったのですが、ぜひ何か一緒にとお話いただいて、今回の企画に至りました。
――「博物館公認のティラノサウルスを決めるコンテスト」ですが、どんなものが飛び出すんでしょうか。
それは……僕も不安です(笑)どんな雰囲気になるかまったく予想がつきません。博物館の方がドン引きする可能性もあると思っています。賭けです。
「着ぐるみはなくてもいいですか?」という参加竜もいましたし……。いったい何をするつもりなんでしょうか……。
「何もなくてもできる」のが魅力
――鳥取での第2回レースも期待しております!
第2回は、10月開催予定です。今度は海沿いでやるつもりです。
――きっと全国から精鋭のティラノサウルスたちが集まりますね。
4月のレースの後、J3の「ガイナーレ鳥取」がチームイベントとしてホームグラウンドで、第1回の参加者の方が山梨で、ネットで話題を見かけた方が青森で、それぞれティラノサウルスレースを開催しているんですよね。
それもすごくうれしくて、全国いろんなところで勝手にやってくれたら楽しいなと期待しています。
もともと自分も海外のレースを見て「おもしろそう、やりたい」とマネした側ですし。
――毎週どこかでティラノサウルスレースが開催されている世界、アツいですね……。
なんてったって、何もなくてもできますからね。
告知もTwitterで参加フォームもGoogleだし、着ぐるみも参加竜に買って持参してもらってますし。
「何かイベントしたいけど、予算もアイデアもない、何したらいいかわからない」という自治体の方には非常におすすめです。
やって楽しい、観て楽しい、広い場所さえあればできる。老若男女ティラノサウルスになりましょう!