40代で始めたダンスで世界が変わった 着物で踊るおばあちゃんダンサーが語ること

    61歳のTORIさんは、現役のストリートダンサー。ダンスを始めたのは40代後半、子育てが落ち着いてからだった。

    着物姿で豪快に踊る3人のおばあちゃんたち。笑顔で楽しそうに、そしてカッコよく踊る姿が印象的だ。

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    24K Magic - Bruno Marsをおばあちゃんが踊ってみた

    11月末に公開したこの動画は、瞬く間に世界中で話題を集め、1月には100万再生を超えた。

    ブルーノ・マーズ本人もTwitterで言及し、海外からも「かっこいい!」「素敵なおばあちゃんたち」など多数のコメントが寄せられている。

    ブルーノ・マーズ本人が「ありがとう、レディース!」

    This made my day!! Thank You Ladies! https://t.co/kH4ffQvQ3B #24kMagic

    「こんなに反響があるなんてびっくりしました、日本より海外からの反応の方が多いくらいじゃないでしょうか。ブルーノ本人も見てくれてるなんて、あらためてすごいことですよねぇ……」

    この動画に出演するダンサーのひとりが、61歳のTORIさんだ。ストリートダンスの分野で「還暦を過ぎてもダンスは楽しめる」を自ら証明し続けている。

    「体力的にも時間的にも無理しないで、自分の好きなペースで楽しくやれてるのがいいんじゃないですかねぇ。仕事の合間に練習してますし、疲れたら休む。上手くやらなきゃ、ちゃんとやらなきゃ、って思わないこと。全然ストイックじゃないです(笑)」

    「やっぱり、ダンスは楽しい。楽しいからずっと続けられてるんだと思います」

    ダンス入門は、子育てを終えてから

    TORIさんが本格的に踊り始めたのは、子育てが一段落した40代後半の頃だった。興味を持ったきっかけは、さらに10年ほど前にさかのぼる。

    子どもが通っていた小学校で、週1回開催していた母親向けのエクササイズに参加するうちに、身体を動かす楽しさに目覚めた。「やってるうちに体操じゃつまらなくなってきちゃって」。

    いつかきちんと「ダンス」を習いたい――数年間あたためてきたその思いを実現すべく、家から自転車で通える範囲のダンススタジオを探し、扉を叩いた。

    ダンスと一口に言っても、バレエやコンテンポラリー、社交ダンスなどさまざまだ。広く入門クラスを受ける中で、TORIさんが特に気に入ったのがストリートダンスだった。

    中でも、弾けるように身体を動かすポッピンと呼ばれるダンスに“出会った”時に「私がやりたいのはこれだ!」と感じた。道が決まった。

    最初は毎回のレッスンを楽しむ程度だったが、徐々に熱は高まっていく。もっとうまくなりたい。今できないことを、来週までにできるようにしたい。

    昨日よりも今日、今日よりも明日。毎日自宅で練習する日々が始まった。

    スクールで出会った年下の仲間たちとチームを組み、外部のイベントやダンスバトルに参加するようになった。

    今やダンサーとして、企業CMなどにも出演している。「ずっと趣味ですよ、趣味の延長。自分がやりたいように続けてきたら今に至る、です」と控えめに語る。

    「敬うというか、なめんなよ。」

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    2013年、振付師ユニット「HIDALI」の作品「敬老の日」に出演。表参道の路上でキレキレに踊る姿がカッコいい

    年を重ねること、肉体と向き合うこと

    年を重ねていくことは、肉体が衰えていくことでもある。身体をフルに使うダンサーとして、どんな風に向き合っているのだろうか。

    「思うように身体が動かないことなんて、今も昔もたくさんあります(笑)。始めた頃に比べたら長く踊れなくなってきますしねぇ。当然、若い子の方が身体は動くし体力あるけど、そこを比べるだけがダンスじゃないので」

    「世界的なダンサーに限らず、周囲の人を見てても思うんですが、歳を重ねた味って絶対あるんですよ。テクニックだけで決まるわけじゃない

    「ダンスは純粋なスポーツと違って、アートでもあるんです。なので、年を取ることは必ずしも悪いことではないと思ってます

    自分自身のことを話す時は控えめなTORIさんだが、ダンスの話になると目が輝く。魅力や楽しさを言葉を選びながら語ってくれる。

    「ダンスの面白さってなんですか?」と聞くと、こんな返事が返ってきた。

    「行き着く場所がないところ。やればやるほど深みにハマっちゃうんですよ、一歩進んだと思ったらまた戻って……その繰り返し」

    「何か新しいことができるようになったら、また新しい目標が少し先に見えている。気付いたらちょっとずつ先に進んでいるのが楽しいです」

    「楽しさと難しさが半々くらいですね。うーん、でも、難しさも含めて楽しいかも。何年やってても、できないことがあると悔しいし、上手な人を見たらああいう風になりたいって思う。そういう気持ちも含めてずっと楽しい」

    ダンスは若者のもの?

    TORIさんは自分の歩みをさらりと話すが、自分に置き換えて考えると、例えば20代後半の今からダンスを始めようと思ったとしても、なかなか勇気が出ない気がする。

    なんとなく「ダンスは若くてイケイケな人がやるもの」「自分には似合わない」という印象があるからなんだと思う。自分は「そういうタイプ」じゃないし、「そういう年」でもない……と尻込みする気持ちがどうしても先に立つ。

    「そうですよね、私も同じ。最初は周りの目が気になってました。ストリートダンスって、ただでさえ年配の人が少ないジャンルですし。こんなに年が離れた子たちと一緒になって踊るの、世間の常識からしたら変かな? って」

    「でも、意外と自分が思ってるほど周りは気にしてないですよ。本当にそう思います。何かを始めるのに遅すぎるってことはないですし、迷うほど敷居は高くない。とりあえずやってみよう、って私なら言いますね」

    「気づいたらもっとおばあちゃんになってた、がいいな」

    常に楽しみながら、新しい目標を見つけているTORIさん。これから挑戦したいことを聞くと「ベーシック(基本)からもう一度学び直したい」と迷わず答える。まだまだできるようになりたいことはたくさんある、と話す。

    「あとね、楽器やってみたいです。ベースとか。かっこいいから」。――いつかバンドを組む日も来るかもしれない。

    「ダンスを始めてよかったことはたくさんあります。新しい人や新しい音楽に出会えた。でも一番は、人の目を気にしなくなったことかな。やりたいことはやればいいじゃん! 始めてみたらいいじゃん! と思えるようになりました」

    「何歳までに何をやりたいとかは、全然ないです。このまま続けていって、気付いたらもっとおばあちゃんになってた……って感じがいいな」