「まだ大丈夫」が「もう、ムリ」になる前に 「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由

明日、過労で死なないために、知っていてほしいこと。

「死ぬくらいなら会社辞めればいいのに」――過労死による自殺の報道を聞くと、そんな風に思う人は少なくないかもしれません。

なぜ、そうできないのか。どこまで頑張ればいいのか。最悪の事態を引き起こさないためには、どこで引き返せばいいのか。

作者の汐街コナさんは昨年10月に同じタイトルのマンガをTwitterに投稿。10万回以上RTされ「これ私のことだ」「リアルすぎて泣ける」と共感を集めました。

「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由 1/2 むかーしの体験談と、そのとき思ったこと。よければ拡散してください。

このツイートをベースにした書籍版は、精神科医のゆうきゆうさんの監修を受け、多くのマンガを新たに描き下ろし。

過労に悩む人に知ってほしいことをわかりやすくまとめ、「いったいどこまで頑張ればいいんですか?」など、具体的なQ&Aも収録しています。

「なんとなく会社や人生に疲れてきている人や、周囲にそういう人がいて心配だなという方に、お手にとってもらえたらと思います」

汐街さんがそう話す通り、この本のターゲットは「まだ大丈夫」と思っている、今日も遅くまで働いている人たちです。

本を通して、伝えたかったことは。激務に苦しむ当事者に対し、周囲の家族や家族は何ができるのでしょうか? BuzzFeed Newsは、汐街さんにお話を聞きました。

「今電車に飛び込めば、明日は会社に行かなくていい」

――Twitterにマンガを投稿したのは、どんな思いがあったのでしょうか。

自分の経験を、特に今から社会に出る若い方に伝えられればと思ったからです。「いつか描こう」と前々から思っていたのですが、きっかけになったのは電通社員の過労死事件でした。

――「いま電車に飛び込めば明日は会社に行かなくていい」。この感覚は汐街さんの実体験でしょうか?

そうです、中小規模の広告制作会社で2年半ほど働いていた頃の私の実体験です。

あまりの激務で体調不良も日常的。転職したいとずっと考えていましたが、中学時代からの憧れのデザイナー職でしたし、周囲と同じように「頑張りたい」気持ちもありました。

「辞めたところでよりよい会社にいけるのか」「同じ業界で探すべき? いっそ別の業界?」など悩んでしまって後回しに……。

これまで思春期ですら「死にたい」と思ったことがなかった自分がうっかり電車に飛び込みそうになって初めて死の危険を感じ、「大丈夫じゃない」と正気に戻りました。覚悟を決めて転職活動を始めた直接のきっかけです。

「まだ大丈夫」と「もう、ムリ」の狭間

――10万回以上RTされ、多くの反響があったと思います。印象的だったものはありますか。

とにかく「同じ状況です」という方の多さに驚きました。あんな状況で働いている人がこんなにいるのかと……それは想像していませんでした。

「まだ大丈夫」が「もう、ムリ」になるのは、本当にちょっとしたことです。なので、今回の本ではそんな「まだ大丈夫」な方に立ち止まって考えてほしいこと、いつか「ヤバいな」と思った時に思い出してもらいたいことを一歩踏み込んで描いています。

――書籍を作る中であらためて感じたこと、考えたことは?

生活のためには働かなければならない現実的な問題の難しさと、それでも自分の体を優先してほしいという葛藤でしょうか。

Twitterでも「いい転職ができるのは運がいい人間だけ」「辞めて転職してもまたブラックだった」という現実的な反応は印象に残っていました。非常に難しい問題で、私もどう答えてよいか考え続けています。

休め、辞めろと言うのは簡単です。それができない状況だから、これだけ苦しんでいます。

そういう人にこの本が、果たして助けになるのか。かえって苦しめるだけではないのか。そこはずっと悩んでいました。

でも、何よりも大切なのはあなたの命と身体です。過労状況に陥ったら辞める、少なくとも休むのが最善手だと思います。そこは変わらない結論でした。

自分の人生の決定権は自分にある

――テーマごとに数ページで完結するマンガが並んでいますが、特に思い入れが強いものを教えてください。

過労に陥る人やうつになる人には、よくも悪くも、他人を基準にしてしまう人が多いと思います。協調性が重んじられる日本では長所とみなされがちですが、自覚なく本人を苦しめている場合もあるはずです。自分の人生の決定権は自分にあることを思い出してもらえたらと思いました。

それから、実際に過労やうつ病から抜け出した人に話を聞いた「Yさんの場合」「Sさんの場合」。

なぜ「一生懸命働いて、日々の糧を得る」という人間としてごく当然のことをしようとしただけで、こんな目にあうのか……。本当に理不尽に感じました。気配りができる真面目な人が、犠牲になりやすいという辛い現実も思い知りました。

やはり、体験談は重みが違います。今苦しんでいる人も、共感できるとともに、励みになるのではと思っています。

――ゆうき先生へのQ&Aコーナーも「心療内科やメンタルクリニックはどの段階で行けばいいですか?」など、かなり具体的に踏み込んだものが多いですね。

質問は編集の方と相談しながら作成しましたが、ゆうき先生の回答の中で私が特に印象的だったのは「会社を辞めたいけど、家族が理解してくれません」への答えです。

「理解してもらおう」という方向を想定していましたが、先生の回答はそうではありませんでした。

多くの患者やそのご家族を診てこられた専門の先生ならではの、重く現実的なもので、私の期待はずいぶん甘かったのだなと思いました。

それだけ家族と患者さんとの関係は難しく、根が深いのだと思うと同時に、ここでも「自分の人生は自分のもの」という意識の大切さを改めて感じました。

「それ、普通じゃないよ」を伝えてほしい

――家族や友人の過労を心配する人も多いと思います。どんな風に声をかけたらいいか、アドバイスがあれば教えてください。

本の中でも母や友人との実際の会話をマンガにしていますが「それ、普通じゃないよ」「おかしいよ」と、スパッと言ってくれる人は重要だと思いました。

うつ状態になるような過労では、本人はすでに正常な判断ができなくなってきています。特に新卒で入社した会社で比較できるものがないと、何が正常で何が異常なのかわかりません。異常な状態を「これが普通」と受け入れてしまっている可能性もあります。

「それは普通ではない」「あなたは今異常な状態にある」ということを伝えてあげてほしいです。


Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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