「それでもCD売りたいんですよ」ネットでバズる天才、岡崎体育があえて「CD10万枚」を目指す理由

    YouTube2000万再生、Twitterも大人気。それでも「CD売り上げ」を目指すのは?

    デビュー2年目の新人アーティスト、岡崎体育。その名を知らなくてもこのMVは見たことがあるかもしれない。

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    昨年5月に発売したメジャーデビューアルバムの1曲「MUSIC VIDEO」。その名の通り“ミュージックビデオあるある”を題材にした、歌詞自体が脚本になっているような楽曲だ。

    斬新なアイデアと、確かにどこかで見たことあるような構図の映像。ネットやテレビで大きな話題を呼び、公開から1年超で再生数は2000万回を超えている。

    その岡崎体育が6月14日、2ndアルバム「XXL」をリリースした。

    発売前に収録曲の中から3曲のMVを公開。「MUSIC VIDEO」に続く“ネタ曲”「感情のピクセル」は400万再生を超えた。

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    テレビやイベントの出演告知から自虐ネタ、ファンとのコミュニケーションまで、個人のTwitterもフル活用。フォロワーは20万人を超え、数千RTされることも少なくない。

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    ネットのバズをこれだけ味方につけているにも関わらず、今回のアルバムで掲げる目標は「売り上げ10万枚」「オリコンウィークリーチャート6位以内」だ。

    YouTubeもSNSも配信サービスもある中で、あくまでCD売り上げを目標に掲げ、何度も繰り返し宣言する理由は?

    BuzzFeed Newsは岡崎体育に、ネットやSNSとの向き合い方、付き合い方を聞いた。

    バズってよいこと、悪いこと

    ――「MUSIC VIDEO」に続く「あの岡崎体育の新作」ということでプレッシャーもあったのではないでしょうか。

    それはもちろん、ありましたね。

    「MUSIC VIDEO」の時は、発表してすぐにすごいことになったので、監督の寿司くん(映像作家。バンド「ヤバいTシャツ屋さん」のボーカルでもある)にすぐ電話して「ちょっと今からガスト行きましょう」って。地元が一緒なんですよ、同じ中学で同じテニス部。

    その段階で、今回のアルバムに収録した「日本語なのに英語っぽく聞こえる曲」や「かっこいい曲に子どもが思いつくような歌詞」の構想はあったので、次はそのどちらかでやりたいと相談した覚えがあります。

    (注:それぞれ「Natural Lips」「感情のピクセル」として、今回楽曲とMVを製作した)

    【関連記事:どうして「日本語なのに英語っぽく」聞こえるの? 岡崎体育に歌詞の秘密を聞いてみた

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    日本語なのに英語っぽく聞こえる「Natural Lips」

    ――「岡崎体育っていつもバズってるよね」と思っている人も多いと思います。ネットで話題になることで、よかったこと、悪かったことはありますか?

    よいことは、とにかく人の目につくこと。僕みたいな駆け出しのやつがこんなにたくさんの人に見てもらえるのは単純にすごいことですよね。

    もし20年前にアーティストとして出てきたとしても、絶対埋もれてると思います。SNSの使い方も、音楽の幅も、時代の風潮も。インターネットの進化とともに育ってきた“ゆとり世代”でよかったなぁと思うことはありますね。

    悪いことは……バズった面でしか見てもらえない時があること。「ああ、あのネタ曲ばっかりやってるやつやな」って。

    うーん、でも、そんな、言うほどないですね、悪いことは。ないです。

    ネタ曲の真面目な作り方

    ――どうしても“ネタ曲”が話題になりがちだと思いますが、そのあたりはどう考えているのでしょうか。

    もちろんうれしいですよ。お客さんに覚えてもらいやすいキャッチーな曲はインディーズ時代からいろいろやってきましたし、これから短いスパンでどんどん出していきたいと思っています。

    でも、初期に考えていた「ネタ曲を入り口に、普通の曲にたどり着いてもらおう」という構想は、思ったより難しいかもしれない……というのが今の正直な印象です。

    これは世間のせいにしたいわけではなく、僕の実力不足もあるでしょうし、何か他の方法が適しているかもしれない。まだまだ考える余地はあるなぁという意味です。

    でも、「ネタ曲、話題になるキャッチーな曲」「岡崎体育が作りたいものを真面目に普通に作った曲」のどちらかをやめるつもりは全然ないですね。比率はその時々で変わる可能性はありますが、どちらも大事に思っています。

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    アルバムのラストを飾る「式」は“真面目な岡崎体育”の曲。制作には足掛け2年を要したという

    そういう意味では今回のアルバム「XXL」も、前半5曲が「ネタ曲」、短いインタールード(間奏曲)を挟んで、後半5曲が「普通の曲」の全11曲になってるんですよ。

    なので、僕の中では2つのミニアルバムをくっつけた感じです。岡崎体育の2面性を両方楽しんでもらえるようなイメージで作りました。

    ――“ネタ曲”としてやりたいものはまだまだありますか?

    アイデアとしてはたくさんメモってあるんですけどね〜。問題は、自分だけで楽しんで終わるんじゃなく、広くリスナーにわかってもらえる曲にできるかなんですよ。ちゃんと伝わる形にできるか。

    多くのストックの中から、大衆音楽として出せそうなものを精査して作品にしていくのが、結構大変な作業です。

    ――「イケる」かどうかはどう判断するんですか?

    母親に聞かせます。基準は、おかんに聞かせてウケるかどうか。

    おかん、もう50歳過ぎてますし、音楽に詳しくもないし、テレビで新曲を偶然耳にするようなお茶の間に近い存在じゃないですか。

    そういう人がパッと聞いた時の感想は、世に出すかどうかの目安にかなりしてますね。業界にいると、周りにいるのは当然音楽好きな人なのでどうしても麻痺しちゃうので。

    なので、このアルバム作るまでにも“マミーチェック”でボツになった案、いっぱいありますよ。「あーこれあかんわ、わからんわ」って言われたらそこでボツ。

    先入観持たずに聞いてくれ、親バカにならんといて! と言ってます。

    「それでもCD売りたいんですよ」

    ――ネットをこれだけ活用しながら、目標に掲げる数字が「10万枚売る」「オリコンウィークリーランキング6位以内」とCDをベースにしたものなのは意外に感じます。

    何ですかねぇ……盤で売りたいんですよ。具体的な考えもカッコいい思想もないんですけど。

    配信や定額聴き放題の時代なのもわかってますし、自分も使ってるし、フィジカルにこだわりを持つのが前時代的なのもわかってるけど、それでもCD売りたいんですよ。

    CDが売れないと次の作品を作れない。 俺は、長く音楽活動をしたい。 いっぱいくだらない曲を書いて、いっぱいしょうもない曲を書いて、いっぱい好きな曲を書きたい。 その為にはCDを売らないといけない。 絶対10万枚売ってみせます。 俺1人で今の音楽業界、 引っ掻き回したる。

    自分たちくらいが、CDに愛着があるギリギリ最後の世代な気がするんですよね。もっと若い人たちの間には、CDを買う文化が最初からないかもしれない。

    アーティスト本人が発信することで、彼らのあいだでちっちゃい火花くらいでいいから「盤を手に入れる」体験が生まれたらいいなって思いがあります。

    ――「10万枚」「6位以内」もそうですが、いつも目標をハッキリ数字で口に出していますよね。

    今日から1週間、めちゃくちゃ告知とか宣伝とかすると思います。 うるさくTL埋めてしまってごめんなさい! 1週間だけ、すみません! 勘弁してください! 岡崎体育セカンドアルバム"XXL" 本日発売です! 目指せオリコンウィークリー6位以内! 目指せ10万枚セールス!

    僕、ケツ叩かれないと動けないタイプなんです。自分を追い込んで、鼓舞する上でも積極的に宣言するようにしてます。「10万枚、売る!」って口に出すの大事だと思いますけどね、言霊。

    ――大きな目標として「2020年までにさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブ」を掲げていますが、他には何かありますか?

    ないです。それだけ。たまアリだけです。

    俺は30歳までにさいたまスーパーアリーナでワンマンライブをする

    もちろん今回の10万枚みたいな目標は逐一あると思いますが、目指してる先はそこだけです。あと3年、そのためにやりきります。

    ――今の時点での手応えは?

    うーん……40%くらいですかね。YouTubeで見て「こいつおもろいな」じゃなくて、「岡崎体育を見たい」と本気で思ってくれる人を1万6000人集めるには、まだまだ全然足りないです。

    ――そもそも、なぜ「さいたまスーパーアリーナ」なんですか? 武道館や東京ドームを目標にするアーティストはよく聞きますが。

    名前がカッコいいから。「スーパーアリーナ」ってめっちゃカッコよくないですか?

    ――え、そういう理由なんですか!?

    ほんとです。というのと、インディーズ時代に友達に連れられて行った、全然知らない人たちのライブの思い出がありまして。

    ニコニコ動画に動画を投稿している「歌い手」の人たちのイベントだったんですが、会場は中高生で超満員。僕が全然知らない、プロではない人たちに、これだけの若い女の子たちがきゃーきゃー叫んでるのが衝撃だったんですよ。

    上の方の席から見下ろしながら「なんなんだこれは?」「知らない世界に来てしまった」と呆然としました。

    その時、向こうに立ってる人たちからはこの景色どう見えるんかな? と思ったのが、さいたまスーパーアリーナを目指すことにしたきっかけですね。

    たった1人で1万6000人と対峙した時にどう感じるか、音楽活動へのスタンスは変わるのか。あの場所であの空間で、今度はステージの上から知りたいんです。