「あなたのことを一番わかってるのは私よ」 完璧ママの愛と狂気に背筋が凍る

    かわいい一人娘を溺愛するあまり、歪んでいく「仲良し母娘」の関係。2人の行く末は。

    「お母さん、娘をやめていいですか?」

    センセーショナルなタイトルのドラマがNHKで始まった(毎週金曜、夜10時から)。

    「まるで恋人のようだった母娘の関係が、娘がある男と出会うことで一変していく」「娘を手放したくないという思いから暴走してしまう母親と、その母の束縛から逃れようとする娘のバトル」

    ――放映前からヤバいことになりそうだと思っていたけど、いざ蓋をあけたらさらにヤバかった。

    これはホームドラマではありません、サイコホラーです。

    「ほらね、ママの言う通りになったでしょ」

    完璧な母・早瀬顕子(斉藤由貴)と高校教師の娘・美月(波瑠)は、誰もが認める仲良し母娘。

    服やインテリアの好みもそっくりで、休日には連れ立って街へ出る、親友かつ恋人のような関係だ。美月は「ママといるのが一番ラクだし楽しいもん」とあっけらかんと言う。

    母が実現できなかった教師の夢をかなえた“親孝行”な娘。25歳の今もなお、人間関係から職場の悩みまでなんでも一番に母に相談する美月。顕子は「ほらね、ママの言う通りになったでしょ」「あなたのことを一番わかってるのはママよ」と何度も何度も繰り返し言い聞かせる。

    娘を心配するあまり、デートを尾行して監視する。タクシーで先回りして帰ってきて「残念だったねぇ、もっといい人いるわよ」って白々しく言う。問題のある生徒について相談されると、娘が不在のあいだに勝手に部屋に入り、彼らの個人情報が書かれた資料を躊躇なく広げる。要所要所で背筋が寒くなる。「普通」の基準がわからなくなる。

    「今日デートなの? 服、こっちの方がいいんじゃない?」「新しいお家の部屋の壁紙、みっちゃん絶対これ選ぶと思ってたんだぁ」……少しずつ、娘は母に「そっくり」なのではなくて、母の顔色をうかがいながら、喜ぶ方、機嫌がよくなる方を選んできたんだってことが視聴者に伝わる。自分の好みではなく、本当は。

    寝坊した美月が慌てて家を出る直前、玄関でパンプスを2つ並べて「……ねえ、どっち?」と顕子に聞くシーンに震えた。

    いや、別に言葉だけ見れば自然な会話だ。わたしだって、服や靴に悩んで母とそんなやりとりをした覚えは何度もある。でも明らかに、なにか、こう、違和感がある。このざわざわした気持ちは一体どこから!

    愛はモンスター

    「みっちゃんのことはぜーんぶわかるの」とにっこり微笑む、いつも小綺麗にしているママ。彼女の行動も言葉も全部愛ゆえで、自分の中では「普通」で、ほんの少しの悪意もないのだ。斉藤由貴さんの少しだけ狂った演技がすごすぎる。

    臨床心理考証を担当する信田さよ子さんは、母娘問題にフォーカスしてきた臨床心理士だ。

    ドラマに登場する斎藤由貴さん演じる母親も、自分ほど娘のことを思っている母はいないと信じているはずです。そして、常識や世間は「母親の味方」なのです。あんなに娘のことを思っている母のことを悪くいうなんて、ひどい娘だ、わがままだ、恩知らずだと責めるのです。

    誰の立場に立ってこのドラマを見るか、それもひとつの興味深いポイントです。母も娘も、そして父も、この家族の誰もがみんなそれなりに一生懸命生きているのですから。

    そのうえで、母の愛がなぜ娘にとってモンスターのように変化していくかを、回を追ってたっぷり見ていただきたいと思います。

    (ドラマ公式サイトより、「母娘問題の背景について」)

    斉藤由貴さんは「美月の母、顕子を演じるのは、とても疲れます。『こんなこと、ありえないでしょ!?』と思うことがたくさん起こるんです」とコメントしている。

    でも、正直、「ああきっと、こういう家、あるよね……」と胸が苦しくなるシーンがいくつもある。仲良しなんだね〜! と簡単に言えない母娘関係に出会ったこと、誰もがどこかで一度はあるんじゃないか。

    脚本の井上由美子さんは「14歳の母」「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」など、スキャンダラスに騒がれがちな社会問題を過去にも取り上げてきた。

    娘として生まれ、母との関係に悩んだことのない人はいないのではないでしょうか。そして、娘を持った母たちも同じだと思います。

    この物語の「美月」と「ママ」も、そんなどこにでもいる母娘です。ちょっと娘を愛しすぎているだけ、ちょっと母を大事にしすぎているだけ、そして、ちょっと仲がよすぎるだけ。お互いが大好きゆえに悲喜劇は起こります。

    二人の関係にハッピーエンドは訪れるのか? それとも破滅に終わるのか? 母と娘の一筋縄ではいかない「ラブストーリー」を見守っていただければと思います。

    脚本・井上由美子さんのコメント

    母と娘の「ラブストーリー」というのもすごい言葉だ。でも見ればわかる。愛と束縛と独占欲がそこにある。

    あらすじを見る限り、早瀬家の新居の建築を担当する住宅メーカーの松島(柳楽優弥)と娘、そして母の“三角関係”にもつれこんでいくみたいだ。こ、こわい。どうなってしまうんだろう。

    全8回、どこに着地するのか、怖いもの見たさで追いかけていこう。「娘をやめていいですか?」に答えは出るんだろうか。