「ママだってコミケに行きたい!」「でも子どもが小さいから…」
子育て中のオタクママを支える託児サービス「にじいろポッケ」はそんなリアルな悩みから生まれました。
主催するのは、自らも現役で同人活動を楽しむ2児の母、四辻さつきさん。企業や団体ではなく個人が主催というのにも驚きます。
BuzzFeed Newsは、コミケ1日目の託児に密着し、四辻さんや利用者のパパママの声を聞きました。
子育て中でもコミケに行きたい!
毎年夏冬の2回、50万人以上が集う「コミックマーケット」。今年の「夏コミ」は8月11〜13日の3日間、東京ビッグサイトで開催されました。
アニメや漫画の二次創作から、特定のジャンルへの愛をしたためたものまで、アマチュア作家たちによるたくさんの同人誌が並びます。
日本のオタク文化を支える、同人作家たち。オタク文化がこれだけ広がり、ネットも発達した今、子育てしながら漫画や小説を発表している人も少なくありません。
創作物を発表するだけならばWeb上でもできますが、実際に同人誌を購入したり、同じ作品やジャンルを好きなファンたちと交流できるのはリアルイベントならでは。
しかし、多くのイベントは土日の朝早くから。協力的なパートナーや周囲の人の助けがあればよいですが、なかなか預けられる人がいない……という人もいるはずです。
そんなニーズに合わせ、イベントの時間に合わせ、会場近くで、プロの保育スタッフが預かる臨時託児サービスが「にじいろポッケ」です。
今年1月に初開催し、3月、5月の大型イベントでも実施。今回初めてコミケの3日間に合わせて開催しました。
パパママはコミケへ、子どもたちは託児ルームへ
託児会場は、コミケ会場の東京ビッグサイトからほど近いお台場地域のある商業施設の中。普段はダンススタジオとして使われている場所なので、走り回れるくらい広い!
記者が到着した午前9時過ぎには、みんなすっかり安心した顔で思い思いに遊んでいました。一番早い子は午前7時半に到着したそうです。早起きですね……!
11日(コミケ1日目)の託児申し込みは計11人(1歳3人、2歳4人、3歳1人、4歳3人)。兄弟そろって、というケースも比較的多かったのが印象的でした。
保育スタッフは、NCMA,Japanが認定する「チャイルドマインダー」の資格を持つベテランシッターさんたち。みなさん、普段は個々に在宅保育や訪問保育を受け付けています。
広い部屋の中で本を読んだりお絵かきしたり、
電車やおもちゃで遊んだり。
お昼ごはんは持参したものをそれぞれ食べます。
眠くなったらお隣の部屋ですやすや。
子どもたち1人ずつ、時間帯ごとに何をしていたか、トイレやごはんの様子などを詳しくレポート。専門シッターさんならではの丁寧なお仕事です。
夫婦でコミケ、の夢も叶います
お迎えの時間もそれぞれ、お昼過ぎくらいからちらほらと来始めました。
4歳の男の子と2歳の女の子を預けていた女性は、夫婦でコミケにやってきたそう。「毎回、どちらかはお留守番だったので2人で来たのは久しぶりでした」。
「朝家族みんなでお台場まで車で来て、子どもたちをここに預けて、2人でビッグサイトへ。つかの間のデートタイムでした。……入り口で『じゃあ、頑張って!』と分かれるんですけど(笑)」
お昼過ぎと早めにお迎えに来た理由は「お台場で遊んで帰ろうと思って」とのこと。夏休みのお台場でコミケを満喫した後に、家族で遊ぶのとっても素敵ですね…!
4歳の女の子は、午後2時半頃にパパがお迎えに。朝8時前と早い時間から1日頑張りました!
パパは今回のコミケ、3日間フル参戦。「普段は妻と都合をつけあってお互いのオタク活動をしているのですが、今回は彼女が仕事なので利用しました。自分の買い物に夢中で、妻に頼まれたものを買い忘れてしまったのが今日のミスですね……明日リベンジします」
「妊娠中に深夜アニメにハマって…」
主催の四辻さんも、4歳と1歳の男の子を持つお母さん。「にじいろポッケ」を企画するきっかけは、次男妊娠中に出会ったある深夜アニメでした。
それまでもアニメや漫画は好きだったものの、同人活動を始めるほどハマったのは初めて。pixivで二次創作を読み書きし、Twitterでオタク仲間と交流する日々が始まります。
「読むのも書くのもすごく楽しくて、妊娠中、子育て中のストレス解消になりました」
ネット上で同人活動をする中で、イベント参加にも興味が芽生えます。2016年4月、妊娠中に初めて即売会にサークル参加(同人誌を制作・頒布する側)。出産数カ月後にもイベントに足を運びました。
「私は幸い、夫や義母も協力的な環境でしたが、それでも2人の子どもを同時に預けるのは忍びない気持ちもありました。イベントって週末や連休ですし、朝早いですし……」
Twitterで交流する人の中にも子育て中の人も。「預けられる場所」のニーズはあるのでは? と考え始めます。
ないなら自分で始めよう!
早速リサーチをはじめ、イベント時の臨時保育は法的に可能と知ります。
企業や専門家、Twitterなどで知り合った同人ママたちに話を聞きながら「個人でもできる方法」を模索し始めました。
「ママになっても同人イベントを楽しみたい!そんな方のために企画しました」。11月末、Twitterで初開催を告知。このツイートは現在までに9000RTを超えています。
大きな反響のほとんどは「すごい!」「助かる人がたくさんいそう」と応援・肯定するものでしたが、「子どもが小さいなら我慢したらいいのに」「命を預かることを気軽にやるなんて」など否定的な声もありました。
「でも、リスク管理が最も大切なのはその通り。お言葉をいただいてあらためて気が引き締まりましたし、一層気をつけるようになりました」
初開催の1月は、利用者は3人。夏コミの3日間は各日11人、5人、6人の申込みがありました。
どうしてもある程度値段が高くなってしまうため「正直、最初に想定していたよりは利用は少ないです」。人数が少ないと赤字も出てしまいます。
「でも、他に手段がなくて利用している方もいると思うので。もう少し継続してやっていきたいです、少しずつ認知も広がれば」
「お菓子作りや料理、ベビーマッサージやホームパーティ……一般的にイメージする“ママの趣味”って画一的すぎませんか? みんながみんな、そういうことが好きなわけじゃない。子どもが寝たあとにアニメ見たっていいですよね!」
関東圏だけでなく、静岡や京都など遠方から親子で“遠征”してくる人もいるとか。
イベントに合わせて東京に来て、週末のもう1日は子どもと遊んで帰る――という過ごし方もできます。
「自分の趣味や遊びのために小さな子どもを預けることに罪悪感や抵抗感がある人は少なくないんじゃないかな……。でも、イベント参加は年に数回のことですし、自分の時間を作ることでリフレッシュして楽しくいられたら、子どもたちも家族もハッピーですよね」