「“バディ”のような男女コンビを目指して」30年続くNHKの看板番組の裏側

    放送開始から約30年の「クローズアップ現代+」。新年度からリニューアルし、キャスターを一新。社会問題からカルチャーまで幅広く扱う“看板番組”ができるまでを聞きました👀

    NHKの報道番組「クローズアップ現代+」が新年度からリニューアルしました。キャスターは4年間務めてきた武田真一さんから、30代の男女アナウンサーのコンビに。

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    新キャスターの井上裕貴さんと保里小百合さん

    スタジオも一新し、CGを活用したフルバーチャル空間になりました。

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    フルバーチャルでCGや地図、グラフなどのビジュアルが表示されるスタジオ(追跡!オンラインサロン コロナ禍でハマる人たち、2021年3月31日)

    週3回の放送で毎回30分、ひとつのテーマを深堀りしている「クロ現プラス」

    その日、その週のホットなニュースを取り上げるだけではなく、長期に渡る地道な取材に基づく報道が多いのが特徴です。

    2021年4月から、テレビ朝日「報道ステーション」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」が並び、報道番組の激戦区になった平日午後10時台。

    クロ現はNHKにおいてどんなポジションなのか? リニューアルで目指していくものは? 制作スタッフの皆さんに聞きました。

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    赤上真チーフプロデューサー:「クローズアップ現代+」デスク。ほとんどの生放送でスタジオに入り、キャスターの補佐を務める。仙台勤務が長く、ディレクター時代は震災関連のドキュメンタリー制作多数。

    神浦奈津子ディレクター:「クローズアップ現代+」デスク。これまで「あさイチ」などを担当。ディレクター陣の編集に積極的にアドバイスし、時にはロケにも同行する現場型。

    西山泰史ディレクター:新年度リニューアルをメインで担い、フルバーチャルの演出などを考案。これまで「米大統領選」「香港デモ」「熊本地震」などを取材・制作してきた。元新聞記者。

    武井美貴絵ディレクター:デジタル展開担当。TwitterなどSNSの運用に取り組み、新たなスタイルを開発中。ディレクターとしても、NHKスペシャル「メガクライシス」などを制作。

    積み重ねてきた4500回

    ――「クロ現」の放送開始は1993年。もう30年近く続いているんですね。

    赤上:そうなんです。放送時間や曜日は少しずつ変わりつつ、これまで4500回以上放送してきました。

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    1993年4月5日の第1回放送

    ――4500回!改めて言われるとすごい数ですね。

    赤上:ですよね。名実ともにNHKの看板番組の一つであると自負していますし、この番組に憧れて入局してくるディレクターも少なくありません。

    「いつかクロ現で取り上げられる企画をやりたい!」というモチベーションを持っている若手も多いです。

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    放送当初はこんなタイトルロゴだった

    ――ドキュメンタリー的な要素も強く独特の存在感がありますよね。NHKの報道番組の中ではどんな位置づけなんでしょうか。

    赤上:オフィシャルな説明でいうと、「社会のいまに正面から向き合い、世の中の関心に応える」「ジャンルを問わずテーマを深掘りし、混とんとする社会の羅針盤になることを目指す」……とされています。ただ読み上げただけですみません(笑)。

    一番大事なのはまさに「テーマを深堀り」するという点ですね。30分かけて丁寧に取材の過程を見せることで、カメラの向こうに生きる人たちの声を伝える。

    制作者の自分たちがまずきちんと寄り添った上で、視聴者の皆さんにも「他人事じゃないな」と感じてもらうことを意識しています。

    公式サイトより

    2020年12月の放送テーマ。新型コロナについてが多いが、国際情勢から性暴力の実態、少惑星探査についてなどテーマはさまざま

    番組としての特徴のひとつは、関わるスタッフの幅広さでしょうか。

    中心になって制作しているスタッフはいますが、東京でも地方局でも、はたまた海外の総支局でも、勤務地に関係なく企画の提案ができます。

    ディレクターや記者、カメラマン、編集マンなどあらゆる部署・職種の人間が、実際に制作に携わっています。

    その結果、地方局で入社間もない若手のディレクターが中心に取材してきたものを取り上げたり、「あさイチ」(生活食料番組)や「ガッテン」(科学番組)、Eテレの「ハートネットTV」(福祉番組)と協働したり。

    さまざまな視点で関わる人がいるからこそ、広いテーマを取り上げられている面は大きいと思います。

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    映画という文化にフォーカスした回。2020年4月に亡くなった映画監督・大林宣彦さんは、バブル期にデビューした4人の年下の監督たちに遺言を残していた(“未来を変える力”を問いかけられて~大林宣彦からの遺言~、2020年10月8日)

    ――確かに社会問題や政治から、カルチャーまでさまざまですよね。放送する企画はどうやって決まっているんですか?

    赤上:最初からクロ現に提案が持ち込まれることも多いですが、これは面白そうだ、と思った題材は、まずは「おはよう日本」や「ニュースウオッチ9」内の5分ほどの特集や、地方のローカル番組などからスタートすることもかなりあります。

    この場合、短めの枠で放送し、反響が大きかったものが全国からクロ現に提案されてきます。クロ現の放送後、さらにもっと取材を重ねる価値があるとされると、「NHKスペシャル」でより長尺の番組になることもあります。

    ――なるほど。報道番組における縦のラインがあるんですね。

    赤上:同じテーマがより多くの人に届くように、縦で掘り下げていくのがNHKスタイルかもしれません。

    なので、クロ現は報道ディレクターたちにとっては、目標であり、通過点である――という感じですね。

    「夜の街」の内側で見えたもの

    ――みなさんが特に印象に残っている、反響の大きかった回はありますか?

    赤上:この1年は新型コロナ一色でしたよね……。最新の情報をいち早く伝えるスピード感も重視しつつ、医療現場の現状や、貧困など、時間をかけて現場を取材したものも取り上げてきました。

    個人的に印象に残っているのは、歌舞伎町の今を切り取った回(“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町〜、2020年9月30日)でしょうか。

    撮影は2020年の夏、第2波が到来する中、感染が蔓延している場所として「夜の街」という言葉がしきりにメディアで使われていた頃です。

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    老舗ホストクラブの代表の言葉

    神浦:万が一取材中に感染したらいけない、こちらからウイルスを持ち込んでもいけない、ということで取材班はかなり気を使っていました。自分たちだけでなく、歌舞伎町という存在の信頼に関わりますから。

    ディレクター陣は1ヵ月くらい新宿付近のホテルに缶詰になって、自宅にも帰らず取材を重ねていましたね。たった半年前ですが、今とはずいぶん空気が違いましたね。

    ――年末にはNHKスペシャルでも歌舞伎町の特集をやっていましたよね。

    神浦:そうです! これはまさにクロ現からNスペに展開した例ですね。クロ現の放送後、Nスペのスタッフと一緒に、さらに取材を深めて年末に放送しました。

    赤上:この回で改めて感じたのは、カメラの向こうに必ず生身の人間がいること。

    こんな状況でも夢をかなえようとしている人、自分の店や従業員を必死で守ろうとしている人、歌舞伎町という街を精神的な拠り所にしている人……等身大の人々の生きざまが見られて、クロ現らしいアプローチだなと思いました。

    「夜の街」なんて、わかったような言葉で外からひとくくりにしてはいけない。報道する側としてそんな反省もありました。

    ネットならでは? 検索されまくるあの話題

    ――「ここまで反響があるとは思わなかった」と予想外だった回もありますか?

    武井:こんな話題になり方もあるんだ、と思ったのは「改名」の回(“改名”100人~私が名前を変えたワケ~、2019年9月4日)ですね。

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    年間4000人以上が名前を変えている今。さまざまな理由で実際に改名した100人に取材している

    放送自体は2019年なので結構前なのですが、Webで内容を書き起こしたものがものすごく見られているんです。未だに毎月のようにクロ現のWebサイトのアクセスランキングトップ10に入ってきますね。

    ――すごい! ネットと相性がいい話題なんですかね。

    武井:そうですね。放送後は飛び抜けて寄せられた声が多かったわけではないので、媒体によって相性はあるんだと思います。「キラキラネーム」に関わる事件やニュースがあると、顕著に流入がドンと増えます(笑)。

    ――面白いですね。他にもネットならではの手応えを感じることはありますか。

    武井:TwitterやFacebookでは短くダイジェストした動画も出しているのですが、こちらも番組の反響とはまた少し違いますね。テレビの視聴者とはまた違う層に届いている印象もあります。

    先ほどは改名の例を出しましたが、ネットだからポップで身近なものがいいというわけでもないです。

    例えば、一番これまでに再生数が多かった動画の1つである「ひきこもり死」は、非常にシリアスなテーマですが、現在までに500万回近く再生されています。

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    長年ひきこもりを続け、「自分でなんとかしたい」と行政の助けを拒んだ男性。自治体職員は連日足を運んだが、栄養失調による衰弱死で56歳で亡くなった

    他にも、最近ではコロナ禍で心中した家族を追った動画などもよく見られ、たくさんのコメントが寄せられました。

    普通のニュースでは大きく取り上げられないけれど、苦しんでいる人がいる――。社会の「陰」の部分、「生きづらさ」には関心を持ってもらいやすい印象があります。

    弱い立場の人の“声”を聞く、情報を届ける

    神浦:番組を通して、実際に困っている人、苦しんでいる人に届いた実感があると「やってよかったな」と思いますね。

    「パパ活」という言葉を通して、女性の貧困にフォーカスした回(“パパ活”の闇 コロナ禍で追い詰められる女性たち、2020年12月1日)は、放送中に当事者が相談できる窓口や支援団体をまとめたWebページのQRコードを表示していたのですが、思っていた以上にアクセス数がありました。必要な人にリーチできたという手応えは大きかったです。

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    ――あの回は「パパ活の実態!」と面白おかしく煽るのではなく、そういうライトな言葉でオブラートに包んでいるけど、実態は“個人売春”であり貧困問題だ、と問題視し「国の支援が問われる」と結んでいましたよね。

    神浦:行政への提言という意味では、コロナ禍でニーズが急増している職業訓練を紹介した回(“コロナ失業” 職業訓練は雇用を救えるか、2021年1月27日)もよく覚えています。

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    職業訓練のメリットと同時に、訓練期間中に支給される給付金は月10万円で、受け取りの要件も厳しすぎることを指摘しました。

    欠席や早退がほぼ許されず、他のアルバイトもできないとなると、10万円だけでは都心では到底生活できないですよね。利用したくてもできない人も多いという制度の欠陥を取り上げました。

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    この放送を受け、国会でも取り上げられましたし、実際に給付の要件が緩和されたんです。

    弱い立場の人の声をすくい上げて、いい意味で政策に影響を与えられる。多くの方に注目いただいている「NHKの報道番組」としての、クロ現の役割のひとつだと思います。

    ――Webサイトに掲載されている毎回の放送ダイジェストが丁寧にまとまっていて、読み物としてもおもしろいです。ネット戦略の面でこれから強化していきたい面はありますか?

    武井:どうしても30分に収めなくてはいけない放送時間の中で、泣く泣く削っている要素が少なからずあるので、そのあたりはネットをうまく活用したいですね。

    すべてを放送できなかったインタビューの全貌や、取材したディレクターの声など、補足的な情報を積極的に出していきたいなと思っています。

    ――テレビもネットも対応しなくてはならない時代、ディレクターさんたちも大変ですよね。

    武井:そうですね、やることは2倍に……(笑)。でも、デジタルでアーカイブしていく意義は年々高まっていますし、現場もみんなそう思っていると思います。

    TV番組も作るしデジタルコンテンツも作る、両刀使いのディレクターになるべく頑張ります。

    “バディ”のような2人を目指して

    ――「反響が大きかった」という意味では武田キャスターによる二階幹事長へのインタビューが記憶に新しいです。

    赤上:聞きたい人に聞きたいことを聞く、というのは報道番組として当たり前の姿勢ですからね。

    武田キャスターからのメッセージ。 動画でもお届けします。 #クロ現プラス #武田真一 #クロ現卒業 🌸

    Twitter: @nhk_kurogen

    ――そんな武田さんから交代した、キャスターの井上裕貴さんと保里小百合さんはお二人とも30代です。

    西山:一気にフレッシュな印象になりましたよね。自分たちがこれから生きていく社会について考えていける、言葉にしていける人にしようと考えて、一緒に番組を作っていくことになりました。

    ジェンダーの意味でも、これまでのニュース番組によくあった「メインに年上の男性、サブに若い女性」の構図ではなく、対等な2人に見えてほしいなと思っています。刑事モノの“バディ”のような……と僕らの中では言っているんですけど。

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    新年度は、#井上裕貴 #保里小百合 キャスターとお伝えします! 前任の #武田真一 キャスターは何を大切にし、何を託そうとしたのか。 バトンを受け取った2人はどのように向き合おうとしているのか。 3人が対談の場で、番組にかける思いを語りました。 https://t.co/heBIZp1GIh #クロ現プラス

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    ――バディ! いい言葉ですね、どんな雰囲気になっていくのか楽しみです。

    西山:ともに海外経験が長く、英語も堪能なので、海外の専門家などに直接取材するような機会があってもいいですよね。

    ちなみに、井上さんはクロ現の初代キャスター、国谷裕子さんの大ファンだそうで、「僕の名前、国谷さんと同じ『裕』なんです!」と喜んでいました(笑)

    保里さんは「あさイチ」での経験もあるのか、生活者目線、視聴者目線がしっかりあると感じています。試写の段階で「視聴者からすると、このあたりが気になるのでは」と積極的に指摘してくれて心強いです。

    武田さんからのバトンを受け取った2人がどんなクロ現を作っていってくれるのか楽しみです。

    生活に欠かせない生理用品。 でも日本では軽減税率の対象ではありません。 イギリスではすでに 生理用品の課税廃止や 無償配布が実現。 きっかけとなったのは20代の女性が始めた署名活動でした。 国を動かした、そのカギは? https://t.co/DxJCSDWPOa #クロ現プラス #生理の貧困   #みんなの生理

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    4月6日は「生理の貧困」について放送


    バズフィード・ジャパン ニュース記者

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