「最強エンタメは街のスナック」ネット時代に“売れる”スターの条件

    「もはや、テレビや映画だけがゴールじゃないですよね」

    「会いに行けるアイドル」が新鮮だったのも10年以上前。

    今や、距離の近さや親密さは、タレントの人気獲得のひとつの指標だ。無名の一般人がSNSやネット配信でファンを増やし、ブレイクするケースも少なくない。

    テレビを中心とした既存の「芸能界」と異なるムーブメントは他にも出てきている。

    マンガ・アニメ・ゲームを原作に、キャラクターを生身の俳優が演じる「2.5次元」、ネット配信で生計を立てる「配信者」……若者層を中心に人気を広げているとはいえ、まだまだ「知る人ぞ知る」ニッチな世界だ。

    細分化していく芸能界で、新時代の“スター”は一体どこから生まれるのだろうか?

    ミュージカル 『テニスの王子様』(以下テニミュ)、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」など多くの2.5次元ミュージカルを手がけるネルケプランニングの松田誠会長と、“ギフティング”という形でパフォーマーを金銭的に支援できる特長を持つライブ配信サービス「SHOWROOM」を運営する前田裕二社長と考えた。

    後編は「『2.5次元ミュージカル』から生まれたスターは誰か?」から話はスタート。

    「テレビや映画はもはやゴールじゃない」「最強のエンタメは街のスナックなのでは?」――そんな言葉の真意は。

    【前編:「2.5次元」から次のスーパースターは生まれるか? 細分化する“芸能界”のこれから


    「キャラを主役」にできる役者

    ――松田さんの考える、2.5次元ミュージカルから生まれたスターはどなたですか。

    松田:そうですね、今は佐藤流司かなぁ。

    ミュージカル刀剣乱舞 幕末天狼傳 無事に65公演全てが終了いたしました! 加州清光と駆け抜けてきた長い月日は、本当にかけがえのないタカラモノです。 俺たちはいつも本丸にいるから、会いたくなったらいつでも呼んでね。

    (編集部注:22歳の俳優。代表作にミュージカル『刀剣乱舞』加州清光役、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」うちはサスケ役など。Twitterのフォロワー数は12万人を超える)

    「テニミュ」も含めていくつも弊社制作の舞台に出演してもらっていますが、どんな役をやらせてもキャラクターとして成立するんです。簡単そうに聞こえますが、誰にでもできることじゃない。

    若い役者ってどうしても演じる役を自分に寄せてしまうんですが、彼はいい意味で自分を消せる。俳優として優れた素質を持っています。きちんと「キャラを主役」にできるので、新しい役を演じる度にどんどんファンを増やしている。

    スタッフやファンの間ではとても評価が高いですが、世間一般の知名度はないですよね。テレビを情報源にしている人は知らない役者です。

    そんな彼がこの前写真集を出版したんですが、初版の時点で有名俳優に匹敵するような部数でした。世間的に見ると知ってる人の方が少なくても、熱いファンがこれだけいる。

    エンタメの「民主化」

    ――なるほど、どこを「売れる」の基準にするかですね。

    松田:地上波の連続ドラマに主演したらスターなのか? って話だよね。「ミュージックステーション」に出ているバンドマンや、テレビドラマに出て名前や顔はそこそこ知られてる俳優でも、実際はアルバイトで食いつないでいる人はたくさんいるわけで。

    似たような話を最近違うところでも聞いて、例えば漫画家でも、商業誌でやらずに同人活動で食べている人がそれなりにいるんだってね。「自分が好きなものを好きなように描いて、読んでくれる人がいて、そこそこ儲かっているのでこれで十分」って。

    一昔前は「少年ジャンプで連載したい」が誰もが目指すトップ・オブ・トップだったのかもしれないけど、ゴールの選択肢が増えてる。エンタメ全体がそんな風に「民主化」している傾向はあると思います。

    メジャーとインディーズ、2つの市場ができている感じですよね。

    テレビの世界だけがゴールじゃない

    ――となると、新時代のスターはどこを目標に置くのでしょうか。ここまでの話を聞くと、少なくともテレビではないような……。

    松田:もちろん、テレビや映画を目指すのが悪いわけじゃもちろんないですよ。でも、大博打だよ、とは思います。そもそも、歌手も役者も世の中にそんなに数いらないですからね。

    僕はテニミュの卒業生全員に「中途半端な気持ちならやめた方がいい」って必ず言ってるんです(笑)。他の道に行った方が絶対幸せだよ、人生1回しかないのにそんな分の悪い賭けある!? って。

    キャラクターと原作の力を借りて、千秋楽まで走りきったところで、やっと役者としてスタート地点。そこから先が初めて“努力”ですからね。

    ただ頑張るだけでもダメ、努力の仕方も含めて自分で考えないとダメ。やり方もゴールもいろいろあるはずなんです。まだ多くの人は売れた先に従来型のゴールを見ていると思いますが。

    前田:そうですよね、そもそも例が少なくて想像しにくいですし。「売れる」の方法がどんどん多様化してるのは間違いないと思います。カリスマ性や虚構の姿ではなくて、親近感を感じてもらうファンの作り方ってこれからもっと大事になるんじゃないでしょうか。

    松田さんが見ているところとは少し違いますが、僕はSHOWROOMを通じて、これまで家でおせんべいをかじりながらテレビでアイドルを見て「あんな風になりたいなぁ」と憧れていた普通の子たちに、新しくて楽しい職業や生き方を作ってほしいと思っているんです。

    松田:「楽しく生きていってほしい」は僕もすごくわかるな。そうやってエンタメ自体の市場が大きくなっていけばいい。どっちが上とか下とかなくてね。

    前田:YouTuberや実況主も含めて、ネットでエンタメを生業にできる人は着実に増えていくはず。そこからテレビや映画の世界に、従来の「スター」の世界に飛び出す人はもちろんいるでしょう。逆に「テレビなんてダサい」って価値観も出てくるかもしれないですよね。

    松田:結局、自分が楽しまなきゃ仕方がないよね。全員がスーパースターを、誰もが知ってる有名人を目指す必要ってない。

    ――「夢がない話」と感じる人もいそうです。

    前田:きっと、思い描く「夢」そのものが変わっていくんじゃないでしょうか。だから、新しい夢の形やステージを見せなくてはいけないな、とは思います。

    最強エンタメは街角のスナック

    前田:歌手になるためにオーディションを勝ち抜くには運も実力も必要だけど、歌が好きだ! って気持ちをぶつけてカラオケ配信したら100人はファンがつくかもしれない。

    松田:そう、100人でいいのよ。小さく始めればいい。

    前田:そんな風に狭いコミュニティで成立するのを、最近「スナック化」と言ってるんですけど。

    松田:ああ、よく言ってるよね、それ。

    ――スナック……? あの、商店街のはずれにあるスナックですか。

    前田:そう、地方のどんなさびれた街でも絶対スナックはあるじゃないですか。特別、料理がおいしいとか雰囲気がいいとかじゃなくて、基本はどこに行っても同じ乾き物。柿ピーとか。

    スナックって、ママを囲んで常連同士で話す空間自体に意味があって、かっこよく言うと家庭でも職場でもない「第3の場所」なんですよ。

    松田:前田さんに連れられて行ったことあるけど、愚痴っぽくなくてみんな幸せそうなんだよね。ファミリーだから。どんどん儲けようとか、全国にチェーン展開! とか多分誰も思ってない。

    前田:うん、小さくて顔が見える規模感なんです。地方に行くとタクシーの運転手さんに「お気に入りのスナックに連れていってください」と言うんですけど、みんな絶対一つは持ってるんですよね。それぞれの「行きつけのスナック」があるのって素敵じゃないですか。

    松田:いいよねぇ、エンタメもそうなっていくだろうね。求めるものやクオリティの定義はいろいろあっていい。スナックに高級でおいしい料理なんて最初から求めてないわけで。テレビや映画もありつつ、違う評価軸の新しい何かが生まれたらいいよね。

    前田:カウンターしかない小さな店のママだって、誰かのアイドルでスターなんです。共感や人のつながりをビジネスにできているスナック、本当に強いんですよ。このエッセンスを抽象化したものが、インターネットでもっと広がる気がしています。