同僚と直接会うのは、年に1度の忘年会だけ。「オフィスはいらない」完全テレワークな会社の経営哲学

    創業から10年以上オフィスはなし。社員全員が在宅勤務。全員で会うのは年に1度の忘年会だけ。そんな異色の会社に、完全テレワークでうまく仕事を進める極意、聞きました。

    新型コロナウイルスの影響が長引く中、テレワーク(リモートワーク)を本格的に導入する企業も増えてきました。

    しかし、自宅で集中して仕事をするのはなかなか大変……。何かうまくやっていくコツはあるんでしょうか?

    長年リモートワークを取り入れている企業に、離れていてもうまく仕事を進めていくコツ、聞きました。

    直接会うのは年に1度、忘年会だけ

    iOS向け辞書アプリや日本語ワープロソフト「egword Universal 2」の開発を手掛ける物書堂は、2008年の創業以来、完全リモートワーク。オフィスを持たず、現在5人のスタッフ全員が自宅で働いています。

    社員全員が顔を合わせるのは、なんと年に1度の忘年会だけ!

    代表取締役、廣瀬則仁さんは、「コストが抑えられること」「ストレスが減ること」がこの働き方を選んだ理由と話します。

    「ストレスが減るのは健康にもいい」

    創業時、まったく迷わずに「オフィスなし」を選びました。理由は、圧倒的にコストが抑えられるから。家賃や光熱費に何万円も使うなら、その分1人雇えた方がいいな、と。

    今回の新型コロナ騒動、その前には東日本大震災の時にも強く感じましたが、「オフィスに来なきゃ仕事ができない」体制って、実はリスクが大きいんですよね。

    分散して働く方法を確立するのは、何かあった時のリスクヘッジという意味も大きいと思います。会社は何があっても前に進んでいかなきゃいけないので。

    今多くの皆さんが実感していると思いますが、オフィスで働くって、集中して仕事できる面もあるんだけど、実は見えないプレッシャーもありますよね。

    ちゃんと始業時間に間に合うか、保育園のお迎え時間に間に合うように終われるか、子供が熱を出した時に休めるか――。

    僕も会社員時代に経験していたのですが、仕事そのものとは関係のない細かいプレッシャーから解放されるのは、個々の生産性をあげる上でもすごく大事なことだなと思っています。ストレスが減るのは健康にもいいですよね。

    1.なるべく仕事を独立させる

    社員同士が直接会うのは年1回の忘年会だけ。全員集まってのSkypeミーティングも週1回のみ。

    もちろん必要があれば連絡しますし、チャットやグループウェアでの情報共有は随時していますが、基本的には対面コミュニケーションはこれだけです。会議の時間はかなり少ないと思います。

    これが可能なのは、個々の仕事が独立しているから。弊社の場合、1つのアプリを1人が担当し、「自分の作業が遅れたら次の人が何もできない」という状況を回避しています。

    全員が同じオフィスにいる時のように頻度高く、密なコミュニケーションはできない。そういう前提で、1人ずつの裁量が大きい「リモートワーク向けの仕事分担」に切り替えていくのがコツだと思います。

    2.勤務時間は柔軟に

    自分は朝が弱く、集中したら一気に作業したいタイプ。遅めに起きて仕事を始め、気分がノッてきた夜中から明け方にかけて作業を進め、明け方寝ることもあります。

    従業員の労働を監督する立場でここまで極端なことはOKしにくいですが(笑)自分の調子や都合に合わせて多少ずらしてもらうのは、無条件でOKしています。

    通院で2時間中抜けしたいとか、今日は昼間抑えめにしてその分子どもが寝たあとに集中してやりたい、とか。いわゆる「9時5時」の働き方が向いている人だけではないですから。

    労働時間の柔軟性については、法律の整備が追いついていない部分もあるので、リモートワークの普及で変わっていけばいいなと思います。

    3.「人生そういうもんだよ」と受け入れ合う

    とはいえ、いろいろ事情があって思うように仕事が進まないこともあります。進捗がよくない人には、必ず事情を個別に聞くようにしています。

    自分の体調のこと、親のこと、子供のこと……必ず何か理由があるはずなので、まずはその解決を目指します。「成果主義=何があってもなんとかして間に合わせろ」ではありません。時には納期の方をずらせないかも含めて検討します。

    そして、差し支えない範囲で事情をチーム全員に共有する。僕だけでなく、周りも理由がわかっていれば「なるほど、それは仕方ないね」って思えますからね。

    長い人生、人間、ずっと100%の力で働き続けられるわけないですよね。

    今は健康で、週5日フルタイムでバリバリ働けている人も、いつ何が起こるかわからない。「今は大変な時期だよね」「人生そういうもんだよ」とお互い許し合う空気は意識して作っています。

    4.それぞれのプライベートを尊重する

    あとはやっぱり、子育て――子供が小さい時は特に、僕が家にいることでプラスだったことはすごく多かったです。

    東日本大震災の時、すぐに子供たちを学校に迎えに行けたことは、強く印象に残っています。あの時、都心のオフィスから帰宅するだけで大変でしたもんね。

    子供が大きくなったら、今度は介護の問題に直面しました。施設から突然連絡が来てすぐ向かう……なんてこともしょっちゅうありましたから、普通の会社で働いていたら、体力的にも精神的にもかなりキツかっただろうなと思います。

    会社と違って家で働くのは、プライベートとの境が薄くなることですから、やっぱり気が散ることも多いです。出せるパフォーマンスはせいぜい8割くらいかな。

    でも、先ほどの話にも通じますが、最初から「そういうもん」だと思って、そのバッファを見込んでスケジュールを組み立てていかないと。会社の姿勢としてこれから大事になると思います。人生、仕事がすべてじゃないですからね。

    5.セキュリティに優先順位をつける

    社内のコミュニケーションは、Facebookが提供するビジネス向けツール、Workplace from Facebookのチャットやファイル共有機能を使っています。

    他社のクラウドサービスを利用する以上、絶対に情報流出のリスクがないとは言い切れません。でも、僕らの普段の業務連絡や資料は、国家機密レベルのものでもないですし、ある程度そこは許容しています。

    その代わり、事業の命であるアプリのソースコードや辞書コンテンツのデータは、自室のサーバーで厳重に管理し、社員が接続するにはVPNが必要です。

    ソースコードは各自のマシンにコピーされているので、もし火事でサーバーを失ったとしても、開発が止まってしまうことはありません。どこかにサーバーを立てればすぐに共同作業を再開できます。

    セキュリティを高めようと思うと、自由にアクセスしにくくなります。情報をガチガチに守ろうとして、結果的に生産性が大幅に下がってしまったら元も子もありません。

    会社のシステムのオンライン化を進める上で、全ての情報が本当に最高レベルのセキュリティで守られなくてはいけないのか? は考えて整理する必要があると思います。