ある共演者の演技に「ちょっと本気で落ち込んだ」。松岡茉優が俳優をやめたくなった日

    天才たちと、自分の才能と、向き合い続ける世界で生きること。

    黒羽政士

    “映像化不可能”と言われた原作に、挑む。

    恩田陸の同名小説を原作とする映画『蜜蜂と遠雷』が10月4日に公開された。

    国際ピアノコンクールを舞台に、世界を目指す若き4人のピアニストたちの運命を描く。

    松岡茉優演じる栄伝亜夜は、かつて世間を騒がせた天才少女ピアニスト。母の死をきっかけに、表舞台から消えて7年。再起をかけ、このコンクールにエントリーする。

    俳優という仕事は、劇中のピアニストと同じく日々「才能」を突きつけられる仕事でもある。松岡自身も、圧倒的な才能を前に俳優をやめたくなった瞬間があるという――。

    黒羽政士

    巡ってきたからには手放したくなくて

    ――栄伝亜夜は「元天才少女」。松岡さんにとっては演じやすい役、演じにくい役、どちらでしたか?

    演じなくてはいけない役……でしたね。「やりたい」より「やらなくては」という思いが強かったように思います。

    ©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

    原作小説は、一読者としても恩田先生の新境地を感じた1冊でした。音楽を小説にするってできるんだ! って、みんな驚きましたよね。

    今回のお話をいただいた時、私も多くのファンの方と同じく「これをどうやって映画化するの?」と思いました(笑)。原作の凄さを知っているからこそ、正直、プレッシャーも大きかったです。

    でも、自分のもとに栄伝亜夜という大事な役が巡ってきてくれたからには、絶対手放したくなくて。

    私より演技がうまい同世代はたくさんいますし、天才と呼ばれる彼女との共通点だってほとんどないけれど、少しでも先生の描いた亜夜に近づけるように、と思って挑みました。

    ――恩田先生も「絶対に小説でなければできないことをやろうと書き始めた」からこそ「映画化の話があった時は無謀だと思った」とおっしゃっていましたね。

    なので、どうご覧になるか本当にドキドキしていて……。予告映像で恩田先生のコメントを目にした時、うれしすぎて号泣しちゃいましたもん。その日、お昼過ぎに起きて、寝ぼけ眼でスマホで再生したのですが、もうベッドの中で大泣きでした(笑)。

    映画化は無謀、そう思っていました。

    「参りました」を通り越して「やってくれました!」の一言です。――恩田陸

    ©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

    ――普段から小説はよく読まれるんですか?

    小説、好きです! かばんには何かしら1冊入っていることが多いです。漫画も大好きですが、漫画は呼吸、小説は栄養って感じ。

    恩田先生の本も『六番目の小夜子』『夜のピクニック』をはじめ、小さな頃からたくさん読んできました。職業的には、3人の女優が登場する『中庭の出来事』が印象的ですが、一番好きなのは『Q&A』かな。

    タイトル通りQ&A形式のインタビューだけで紡がれる、主人公不在の物語に「何これすごい!」と衝撃を受けたのをよく覚えています。これは誰だって映像化したいですよね。まだされてないのが不思議なくらいです。

    ――今のセレクトからも本当に読書家なんだと伝わってきます。恩田先生とは今回何かお話されましたか?

    一度、撮影現場にいらしてくださって、その時に少し。クライマックスの演奏シーンの直前にいらしたのですが、私と目が合った瞬間「亜夜ちゃん!」と声をかけてくれて。

    メイクをして衣装も着ていたので、確かに外見は「栄伝亜夜」ではあったんですが、先生からそう言ってもらえて、お墨付きをいただけたようで本当に本当にうれしかったです。自信が持てました。ここからの大事なシーン、120%出しきれる! と勇気が出ました。

    黒羽政士

    俳優をやめたくなった日

    ――松岡さんにとって、彼らにとっての音楽やピアノのような存在は。

    亜夜にとっての音楽は、私にとってはお芝居だと思います。彼らのピアノくらい、命を削ってやっていこうと思うものは。

    ――俳優のお仕事もこの物語と同じく「天才」「才能」という言葉が飛び交う世界だと思います。

    いや〜、もうたくさんいますよ。同世代にも年下にも「天才だ!」と思う人、何人もいます。

    とはいえ、この仕事のよさは、比べられはするけど絶対的な一番がないところだと思います。その年の映画賞はありますが、「この役はこの人にぴったりだったね」とか「私はこの人の演技が好き」とか評価の基準がたくさんあるので。

    明確に順位を突きつけられるピアニストの世界の残酷さ、緊張感とはまた違うなと思いました。

    黒羽政士

    ――誰かと比べて、悔しくなることもありますか?

    「くそう、天才め〜!」とかは思いますね(笑)。自分にないものを持っている人はやっぱり羨ましいです。

    そういう時は「彼女にやれないことは、私にできるはず」と思うようにしているかな。大丈夫、私にだって何かある! って。

    ――嫉妬心を溜め込まないためにしていることは?

    思う存分友達に話して、発散する。なんならその日のうちに呼び出して、気が済むまでバーッと話す!

    最近だと『万引き家族』の初号試写で安藤サクラさんの演技を見た時に、かなり落ち込みました。本当にすごすぎて、圧倒されて。……正直、ちょっと俳優やめたくなったくらい。

    その時は親友の伊藤沙莉に「今日これから空いてる?」と即連絡して、ひとしきり話を聞いてもらいました。

    「もしかして私この仕事向いてないかもしれません、一緒にやめませんか?」「絶対に観てほしい、けど、おそらく落ち込みますからなるべく元気な時に観てください」って(笑)。

    そんな風にめそめそ話していると「すごかった」「私には無理だ」から「あの人に追いつきたい」「頑張るぞ!」にいつのまにか変わっているんですよね。

    だから、モヤモヤをなるべく早く認めて言葉にして、気持ちを切り替えるようにしています。

    黒羽政士

    ――『蜜蜂と遠雷』は天才ピアニストたちのストーリーですが、自分とは縁遠い高尚な世界と感じる方も多いかと思います。

    気持ちはとってもわかります! 私もクラシックのコンサートに行ったことありますが、どうしてもちょっとハードル高いですよね。

    今回、監督は最初から「疾走感がある作品にしたい」とおっしゃっていたんですよ。どういう意味だろう? と思っていたのですが、完成したものを観たら納得しました。演奏シーンが大迫力で、アトラクションのような仕上がりになっているんです。

    ピアノが面白いのは、同じ曲でも弾く人によってまったく違うものになるところ。映画の中でも、それぞれが自分の個性を爆発させる技と技のぶつかり合いになっています。もうほとんどバトル漫画ですよ、「かめはめ波!」「ゴムゴムのピストル!」みたいな(笑)。

    ピアノやクラシック音楽がわからないから、と敬遠せずに、スポーツ観戦のような気持ちで楽しんでもらえたらうれしいです。

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    松岡茉優(まつおか まゆ)

    1995年2月16日生まれ、08年本格的デビュー。主な映画出演作に『桐島、部活やめるってよ。』『勝手にふるえてろ』『万引き家族』など。

    モーニング娘。をはじめ、「ハロー!プロジェクト」のファンとしても知られている。