話題を集め続ける分散型SNS「Mastodon」(マストドン)。インスタンス(サーバ)別のユーザー数を見ると、日本最大の「mstdn.jp」、ピクシブが運営する「pawoo.net」が1位と2位を占めている。
日本語圏の勢いが目立つが、国際的なインスタンスは、この状況をどう見ているのだろうか?
BuzzFeed Newsは、3万人超のユーザーを抱える、世界4位(24日時点)の海外インスタンス「mastodon.cloud」の日本向け広報の良篠(Yoshino)さんにコンタクトし、理念や現状を聞いた。
愛称は「クラウド女学院」?
「mastodon.cloud」の管理者は、フランス語話者の@Valentin_NCさん。マストドンが4月10日前後に日本で話題になった頃にはすでに立ち上がっていた、最初期のインスタンスのひとつだ。
日本のユーザーのあいだでの愛称は「クラウド女学院」。管理者も「学院長」と親しまれている。
しかし、一体なぜこんな名前に?
マストドンの情報を集めるWikiによると、英語やフランス語を中心としていた「mastodon.cloud」に、突如日本人が大量に流入したことがきっかけだったという。
「フランスのインスタンスが日本人に占拠された」という声に対し、「私たちはフランスのJKJCである」とネタ的に返したことで「女学院」の概念が生まれていったようだ。
実際、現在、ローカルタイムライン(所属ユーザー全員の発言が流れるタイムライン)を見ていると、かなりの割合が日本語。
管理者の元には「日本語ばかりで邪魔」という声も届いているようだが……。国を超えてユーザーを抱えているからこそのこの問題をどう考えているのだろうか?
社長も女子高生もフラットに
――良篠さんはどこにお住まいの、どんなバックグラウンドの方ですか。
私は、日本国籍の学生です。人文科学に関する分野を学んでいます。
マストドンの存在は、ニュースやTwitterで知り、4月15日頃に使い始めました。いくつかのインスタンスを見比べる中で.cloudの思想や運営理念、Admin(管理者)の優れたセンスに惚れ込み、日本語圏に向けた広報をしていきたいと接触した次第です。
――mastodon.cloudの運営チームは現在、どんな体制なのでしょうか。
Admin(@Valentin_NC)と日本語話者のエンジニア、計2人としかやりとりしておらず、正確な規模はわかりません。チーム内であっても、情報管理は厳密におこなわれています。
――マストドンの魅力や面白さは。
今現在マストドンに集まっている日本語ユーザーの中には、Webの未来を担えるような、優れたインフルエンサーを素質を持つ若い人々がたくさんいると感じています。これは大変素晴らしいことです。
しかし、最大インスタンス「mstdn.jp」はTwitterと似た性質を持っているように見えます。つまり、リテラシーレベルがあまり高くない人々もそのまま流入しており、何か新しい動きが起こっても、さまざまな要因でなかなか発展しにくいように思える……という意味です。
私が今強い関心を抱いているインスタンスは「mastodon.cloud」と、エンジニア兼漫画家のビタワン氏が運営する「mstdn-workers.com」です。
これら2つのインスタンスでは、マストドン上での振る舞いのみで判断されます。ユーザーの「リテラシーレベルの高さ」と「インフルエンス能力の高さ」が、ほぼそのままサーバー内での地位の基準として認識されている点に注目しています。
企業の代表でも、本物の女子高生でも、優れた思考力と技術を併せ持ち、それを発信する人間であれば、尊敬とフォローを集めることができます。
既存のSNSで有名(あるいは無名)であることや、現実世界での社会的な地位、生物学的性別などで「区別」されることはほとんどありません。
このフラットな状況を最も重要なものと捉え、マストドン全体で巻き起こっているムーブメントをあらゆる脅威からできるだけ保護したいと考えています。
「“あの頃の2ちゃんねる”に似ている」
――良篠さんがmastodon.cloudに対し、特に共鳴した部分はどのあたりですか。
日本人が参入し始めた数日間で、ニュー速VIP黄金期とも称される“あの頃の2ちゃんねる”に酷似したムーブメントが巻き起こっていました。あの匿名掲示板はさまざまな問題がありましたが、先鋭的な「流れ」の質の高さは素晴らしかった。
黎明期のユーザーたちは、インスタンスを「クラウド女学院」、自らを「クラウド女学院の生徒」と呼び、盛大な悪ふざけを装いながら、凄まじい勢いで政治体制を発明していきました。
たった2日で文化を築き、この気風に同調したユーザーにAdminへの資金的援助を促すシステムも構築しました。「学院長」である彼に経緯を表し、アカウント名でフランス国旗を掲げるユーザーも少なくありません。
――Adminは、日本語ユーザーの“悪ふざけ”や、ミームやスラングが生まれていることをどう捉えているのでしょうか。
非常に喜んでいます。私たちは「おふざけ度」もあまり気にしません。リベラリストでも、2ちゃんねらーでも、友好的かつ協力的であれば誰でも歓迎します。
住民たちは「女学院」が存在するらしい、という程度であればアレルギー反応はありません、が、馴れ馴れしくされたり、アクセス数稼ぎに利用されたり、“物見遊山”的に近づいてこられることに対しては抵抗があると思います。
――インスタンス別のユーザー数を見ていると、日本だけ局地的に盛り上がっているようにも見えます。
これは私見ですが、日本語圏Webで活動している人々は、TwitterやFacebook、そして2ちゃんねるやまとめアフィリエイトブログの現状に不満を抱いているのではないでしょうか。よって、新しい何かを求めていた日本から盛り上がり始めるのは必然でした。
マストドンが上手く軌道に乗れば、誰でも自由に、インターネット上のコミュニティーをよりよくするための意見を発信できるSNSとして機能するのではと考えています。
「すべての人が英語を話せるわけではない」
――mastodon.cloudの今後の展望は。
私たちは、インターネットで発信を試みるすべての分野・立場の人々を全力でバックアップしていきます。我々の理念に共感し、応援してくださる方々が手を差し伸べてくれるならば、それ以上にうれしいことはありません。
学生でも社会人でも、意思さえあれば世界規模の活動に参加できるのがマストドンの最大の魅力です。
――趣味趣向に応じて細分化するインスタンスが多い中で、言語や国境を超えたアプローチは興味深く感じます。
Adminのトゥート(発言)の中で私が特に感銘を受けたものを以下に掲載します。
「大勢の日本人がMastodonへ流入してきている事に対し、不満を言う人たちがたくさん居る。しかし、これはむしろ喜ばしいことです! あなたがあなたの母語しか流れてこないタイムラインに所属したいと思うならば、あなたは母語を使用するサーバーの運営者に従い、その運営組織の発言を自分のローカルタイムラインに表示しなければならないのです」
「mastodon.cloudはあらゆる言語の使用者を歓迎します。ようこそ、すべての人が英語を話せるわけではないインターネットの世界へ」
――このトゥート、本当に素敵な結びの言葉だと思いました。
素晴らしいです。私はこの一言で「このインスタンスのためなら何でもできる」と思いました。
Adminの発言にあらわれているように、私たちのインスタンスには英語やフランス語、そして日本語のユーザーがいますし、ここ数日はスペイン語を使う人々が増えています。
今後、世界の主要言語すべてでアナウンスしていくことを目指し、スムーズな翻訳体制を準備しています。日英の公式ブログも近いうちに開設するつもりです。