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「同じ絵画を何度も描きたくはないんだ」巨匠リュック・ベッソン、映画を撮り続ける理由

「やりたいことをやるだけ。そうじゃないと何の意味もないですよ」

『レオン』『グラン・ブルー』などの代表作を持つリュック・ベッソン監督の最新作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』が3月30日に公開された。

原作は、監督自身が10歳の頃に出会ったSFコミックシリーズだ。50年分の愛を込めて実写化に挑む。

独自の世界観に熱狂的なファンを抱えるリュック・ベッソン監督。一度は引退も表明した59歳の巨匠が、今、映画作りに懸ける思いは。

想像力と恋心

原作の『ヴァレリアン』は、バンド・デシネ(フランス語圏における漫画)の古典的名作のひとつ。

連載開始は実に1967年、50年以上にわたって世界中で愛され、ビジュアル面や世界観でスター・ウォーズにも影響を与えたとされるSFコミックの金字塔だ。

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ベッソン監督は子どもの頃から同作の大ファン。『フィフス・エレメント』(1997)では作画担当のジャン=クロード・メジエールをデザイナーとして起用したほどだ。

多くのバンド・デシネがある中で『ヴァレリアン』がここまでリュック少年を魅了した理由はなんだろうか?

「僕が育ったのは地方。親の方針で家にテレビはなくて、家の周りには牛が闊歩しているような環境でした。そんな中で、突然ヴァレリアンの世界に出会ったらどう感じるかわかりますか? 宇宙船、エイリアン、世界を救う冒険......僕の人生において本当に重要な出会いで、素晴らしい心の栄養になったと思います」

「両親はスキューバダイバーだったので、毎年バカンスは違う国で過ごしていました。ビーチには当然おもちゃもテレビも映画館もない。遊びたいなら、石ころと木の枝で想像するしかなかった!」

「想像力って、筋肉なんです。そうやって強く強く鍛えたことが今の仕事につながっていると思います」

時は西暦2740年、主人公は、宇宙の平和を守る連邦捜査官のヴァレリアン(デイン・デハーン)とローレリーヌ(カーラ・デルヴィーニュ)。

惑星間を飛び回り、たくさんの異星人たちと出会い戦いながら、"地球人"の男女2人が助け合って冒険を続ける。

ベッソン監督は、壮大な宇宙の世界に夢中になっただけでなく、ヒロインのローレリーヌに恋をしていたとも話す。

「もちろんプラトニックな恋心だよ、まだ10歳だったから(笑)。ただただ一緒にいたかった。彼女と一緒に宇宙を飛び回りたかった。彼女は、僕のヒーローだったんだ」

確かに彼女は、守られるヒロインでなく自ら戦うヒーローだ。

「でも、同時に恋人・ヴァレリアンのことも必要としているんですよ。男女がお互いにお互いを尊敬し、助け合っている関係がすごく好きだと子どもながらに思っていました」

「当時、周りの友達はみんなサッカー選手のファンだったけど、自分は正直それがよくわからなくてね。足でボールを蹴ってお金を稼ぐ人たちってかっこいいのか? って」

「素敵な女の子がセクシーにカッコよく、強いエイリアンたちをボッコボコにして地球を救おうとする姿の方がクールじゃない? ボールを追いかけるよりずっと、人生の目標として大きい気がしたんだよね」

愛したものを愛し続けること

10歳の頃から愛し続けた作品を、数十年越しに自らの手で映画化する――何らかの作品のファンであれば、誰もが憧れるシチュエーションだろう。

とはいえ、多くのファンを持つ漫画の実写化に厳しい目が向けられる傾向は、日本だけではない。

監督は原作者との対談の中で「ファンの批判は気になるか?」という質問に以下のように答えている(日本語版は、小学館集英社プロダクション刊『ヴァレリアン』に収録)。

<バンド・デシネが映画化されるたびに、寺院の番人きどりのファンたちが、何者もここを通しをしないといった態度を取るわけです。私は彼らに毅然と立ち向かいますよ。私だってファン・クラブの一員だとね! 私だって、10歳の頃からヴァレリアンとローレリーヌのファンなんだ。君らと同じバッジを掲げる権利があるとね......。>

<問題は、彼ら(注:実写化に反対する人々)がその映画を気に入るかどうかじゃないんです。彼らは、自分たちの作品だと思っていたものを、多くの観客と共有しなきゃいけないことが嫌なんです。残念な反応ですよ。あるキャラクターなり、ある世界なりが好きなら、それを共有して、同好の志を増やすべきなんだ。>

子どもの頃好きなものを、一途に好きで居続ける。言葉では簡単だが、時には「幼稚」で「子どもっぽく」捉えられるかもしれない。

「ナンセンス! 子どもの感性を持ち続けていることと、子どもっぽいことはまったく違いますよね。僕は会社を率いているし、子どもも5人いるし、母の世話もしているし......ちゃんと"大人"ですよ」

「でも、子どもの自分が考えていたこと、感じていたことはよく覚えているし、常に心の中の少年リュックと対話しています。彼を忘れたことは一時もないし、彼も僕を好きだと思うな。そうやっていい関係を築いていることと『幼稚である』ことは全然違う」

「むしろ、大人になるとシニカルになってしまうのはなぜなんでしょう? 大人は子どものことをナイーブだね、ピュアだね、なんて言いますが、僕からしたら大人たちがシニカルすぎるだけ。大人はお金のために人を殺すことだってあるだろうけど、子どもたちは絶対しないでしょう」

「シニカルさとナイーブさ、どちらかを選ばくてはいけないなら、僕は少しも迷わず後者をとります」

世界を救うのはスーパーヒーローじゃない

長年『ヴァレリアン』映画化への思いはありながら「今の映像技術ではこの世界を再現するのは無理だろう」と思い続けてきたという。

心を決めたのは、ジェームズ・キャメロンに連れられ『アバター』(2009)のセットを見学した時と振り返る。

「あの映画の技術革新のおかげで、限界があるのは自分の想像力だけになった。いつの日か、自分もSF映画をもう一度作ろうと決めたんだ」

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メイキング映像

映画を通して初めてSFの世界に触れる子どもたちもいるかもしれない。自分のように夢中になってほしい、想像力の翼を広げる一助になれば、という思いはあるのだろうか。

「いや、子どもたちに伝えたいことは何もないよ。信頼しているから。自分の目で観て、自分なりに楽しんでもらえればそれでいい」

「むしろ、両親にはいっぱいありますよ! 映画や漫画には、人生に大切な学びや愛が詰まっている。これから大きくなる彼らにはとてもよい栄養になると思う」

ハリウッドのSF大作は、もうしばらくするとその良質さを失ってしまうのではないか。そんな危惧もあるという。

「人類の歴史を見ても、たった一人のスーパーヒーローで救われたことはないですよね? 人類史の中で偉大な人々は――ガンジーも、マンデラも、マザー・テレサも――超人的な力を持ってマントをひるがえす人たちじゃない。僕らと同じ普通の人々だ」

「ヴァレリアンとローレリーヌも、普通の地球人。迷いながら失敗しながら、少しずつ成長していく2人の背中に学ぶことはたくさんあると思います」

「同じ絵画を何度も描きたくはないんだ」

ダイバーの経験を生かした『グラン・ブルー』(1988)、名作と語り継がれるナタリー・ポートマンの出世作『レオン』(1994)をはじめ、SFだけでなく、カーアクションや実在の人物を描く伝記映画、アニメーションを取り入れたものまで、幅広く手がけるベッソン監督。

「自分が作りたいもの」と「人から求められるもの」。映画を作る上でどうバランスをとっているのか。

そう問うと、間髪入れずに「バランスなんてないよ!」と返ってきた。

「やりたいことをやるだけ。そうじゃないと何の意味もないですよ! もし、求められるものに応えていたら今頃『レオン9』を撮っていたんじゃない?」

「何かを作って提案して、皆さんに気に入ってもらえればうれしい、そうじゃなければ悲しい。ずっとそれだけです。誰かのためにやっているわけじゃない。僕の頭の中を、作ったものをシェアしているだけ」

「人は、ある状態を気に入るとずっとそこに留まっていてほしいと思うものみたいなんだよね。『レオン』だけじゃない、『グラン・ブルー』も『LUCY/ルーシー』も『続編は?』の声を何度もらったことか!」

「誰かが望んだとしても、同じところに留まるわけにはいかない。僕の中で合点がいかないから。同じ絵画を何度も描きたくはないんだ」

以前から「映画を10本撮ったら引退する」と公言し、実際に2006年には一度引退を表明した。結果的にその宣言は撤回し、59歳の今も精力的に作品を産み続けている。

今、彼を映画作りに駆り立てるモチベーションは一体どこにあるのだろうか。

「僕は計画的にキャリアを作ろうと思っているわけじゃないからな......。ただ毎日描きたい絵を描いているだけ」

「まぁ、朝ものすごくやる気があっても、寝る時は『もうダメだ』と戦意喪失していることだっていっぱいあるよね。わくわくさせてくれる出会いがあれば一気にモチベーションが高まるし、すべての目的が見えなくなって『なんでこんなことやっているんだ』みたいになる瞬間もあるし」

「ストーリーがポンと生まれて、すぐに沈んでしまっても、半年後、3年後にまたふわっと浮かんできたりする。その時もう一度捉えられたら、それは僕にとって作らなければならない物語なんです」

アーティスト、リュック・ベッソンの筆は、まだまだ新しい絵を描き続けそうだ。


※この記事は、Yahoo! JAPAN限定先行配信記事を再編集したものです。

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