京都アニメーションが、新作映画のクレジットで放火殺人事件の全ての犠牲者と負傷者の名前を出す――そんなニュースが流れ、ファンの間に動揺が広がっている。
結論から言うと、この表現は間違ってはいないが、ミスリードを誘う内容ではあったように思われる。経緯をまとめる。
「事件の全ての犠牲者と負傷者の名前を出す」
本件をいち早く報じたのは共同通信。午前11時23分にYahoo! ニュースに配信された以下のような短い一報が、午前11時45分にYahoo! ニュース トピックスに取り上げられた。
京アニ新作、全ての犠牲者と負傷者の名前
京都アニメーション放火殺人事件で、6日公開の新作映画のエンドクレジットに、事件の全ての犠牲者と負傷者の名前を出すことが5日、同社側への取材で分かった。
これまで被害者の実名を積極的には公開しないスタンスを取っていた京都アニメーションが、一転「全ての犠牲者と負傷者の名前を出す」としたと取れるような報に、ファンは困惑。
確かにこの短い文では、明示的に「犠牲者と負傷者の名前」を公表するようにも受け取れる。
これを受け、同社の代理人弁護士の桶田大介さんは以下のようにツイート。「特掲などを行うものではありません」と強調している。
どういうことだろうか?
共同通信が、追って午後0時15分に各社に配信している、「京アニ新作映画に全犠牲者名 『全員の生きた証し』負傷者も」と題する第2報を読むと意味がわかりやすい。
京アニの代理人弁護士によると、作品は事件前日の7月17日に完成。通常、エンドクレジットに名前が出るのは1年以上の経験があるスタッフだが、今回は全員が対象。犠牲者と負傷者の全員が含まれ、京アニは「制作に参加した全員の生きた証し。末永くお楽しみいただけたら幸い」としている。
この記事を元に、各社が掲載している記事は以下だ。見出しだけではわかりにくいが、本文まで読めば上記の内容も含まれている。
- クレジットに全犠牲者名 京アニ新作映画、負傷者も(日経新聞、午前11時48分配信)
- 京アニ新作映画、クレジットに全犠牲者と負傷者の名前掲載(サンスポ.com、午後0時34分)
つまり、まとめると、
- エンドクレジットに「全ての犠牲者と負傷者の名前を出す」ことは事実
- 通常の劇場作品のエンドロールと同じ形で、名前の掲載基準が異なる(1年以上の経験があるスタッフのみ→全員)
- 犠牲者や負傷者を明示的に目立たせるような形で「特掲」するわけではない
となる。
また、スタッフの中には仕事上は筆名を使っている人も含まれる。その場合はもちろん筆名での掲載だ。
以上を踏まえると、例えば「京アニが新作映画を機に、犠牲者・負傷者全員の実名を公開すると決めた」などと理解するのは間違いだ。