「予測不能エンターテインメント」を掲げ1年間走り続けてきた、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が、12月18日に最終回を迎える。
衝撃のタイトル「オンベレブンビンバ」はどう生まれた? 「トキューサ」呼びはなぜ? 三浦義村の“あの仕草”はずっと伏線だったの?
インタビュー前編、後編に続き、制作統括を務める清水拓哉さんに、『鎌倉殿』ファンが聞きたいことをぶつけた。
(取材は11月21日、オンラインで実施した)
Q.毎週考察も盛り上がっていますが、制作陣が仕込んだものの、視聴者に気づかれてなさそうな小道具や演出はありますか?
(北条)時政さん(坂東彌十郎)が最後に登場するシーン(第42回「夢のゆくえ」)で、伊豆にいる時政を泰時が訪問した際に、縁側にそろえてあった草履は、八重さん(新垣結衣)が生前に作ってプレゼントしたものでした。
物持ちがよいですね。
Q.第37回のタイトル「オンベレブンビンバ」が大きな話題になりました。カタカナ!?とびっくりしたのですが、これはどう決まったのでしょうか?
理由はシンプルで、いい言葉だったからです。この回の主役である時政を象徴する言葉は、絶対これだと思ったので。
各話のタイトルは、三谷幸喜さんの脚本を読んだ上で、毎回制作スタッフで考えています。脚本の時点で印象的でしたし、時政の愛らしさも、北条家が集まった時の温かい雰囲気も感じられるすごくいいフレーズだったので採用しました。
亡くなってしまった大姫(南沙良)が教えてくれた「元気になるおまじない」を北条家みんなで一致団結して思い出そうとするんだけど、結局間違っているし、それでも盛り上がっているのが悲劇でもあり喜劇でもある。
そして、間違っているから、その呪文はきかないんですよね。家族みんなで幸せにはなれないし、時政は追放されてしまう。元気は出ません。
久しぶりに北条家が集まった微笑ましい家族団らんでありながら、辛い未来がすぐ側に迫っているのを感じて切ないですよね。面白いけど泣けるし、ほっこりするけどこのあとを考えると悲しいし……。
あのおまじないがここで出てくるのか!という脚本の巧みさにも唸りましたし、「鎌倉殿」らしい場面だったと思います。
――この回もそうですが、シリアスな展開の中に笑えるシーンもしっかり入っていますよね。前回(第44回「審判の日」)の冒頭も……。
十二神将像のまねをみんなで真似するところですね。それぞれのポーズは俳優さんにおまかせしていたようです(笑)
第21回に出てくる阿弥陀如来像は3DのフルCGでしたが、この回の戌神像は美術さんが本当に作っているんですよ。
運慶が造立した当時の「十二神将像」は失われているのですが、それを模したとされるものは複数ありまして、それぞれの特徴をミックスしてオリジナルの1体を作りました。
あまりに大変すぎて12体は到底用意できなかったという事情もあり、三谷さんに「なんとか1体だけなら作れます…」と伝えたら、あの回の「まだ届いていない」状態になったんです(笑)
とはいえ、仏像1体しかないことを逆手に取って、空の台座を使ってみんなで仏像の代わりにポーズをしてみるって発想がさすがですよね。
身内(源実朝)が右大臣になるってめちゃくちゃ嬉しいでしょうし、北条家の浮かれている感じ、儀式が刻々と近づいてきていることも伝わってきて、いいシーンだなと思います。
Q.北条時房(瀬戸康史)の「トキューサ」呼び、ついに上皇様にも届いていて笑いました。そもそもなぜカタカナのそんな呼び方に?
これは台本通りで、最初からカタカナではっきり脚本に書いてあったので、なんで?と聞かれると三谷さんに聞くしか……(笑)
時連(ときつら)が時房と改名したことを報告する(第30回「全成の確率」)シーンで、りくさん(宮沢りえ)が間違えて「トキューサ?」と聞き返すんですよね。
僕もなんで?と思ったのですが、おもしろいからいいや、と思ってここまで来ました。
初登場時のフックとして出てきたあだ名かと思ったらどんどん存在感を増してきまして、ついに上皇様まで。まさかここまで浸透するとは!
瀬戸さんも現場で皆さんから「トキューサ」とあだ名で呼ばれていましたよ!
Q.第44回で「あいつは言葉と思いが別の時、必ずこうする」と北条義時(小栗旬)が三浦義村(山本耕史)の嘘を仕草で見破る一幕がありましたが、これは初期から仕込まれていたんでしょうか…?
これはですね……もともと山本さんが、義村の役作りの一要素として、襟を気にするような仕草を序盤から入れていたんですよね。
明確な意味を意識してではなく、その時のお芝居で自然に出てくる振る舞いとして、ですね。
三谷さんがこの回の脚本を書いている時に「義時が義村は嘘をついていると見破るシーンを書きたい、何かアイデアはないか?」となりまして、「あの仕草、どうかな」と思い至ったんですよね。
それで、初回から義村の出てくるシーンを脚本取材スタッフの加納ひろみさんが全部見返してくれて……。結構あって大変だったので、もし自分も見返そうという方がいらしたら頑張ってください(笑)
各シーンに共通して、何かをごまかそうとしている時、含みがある時の仕草と言えなくもないな、と。山本さんに「演じている感覚として、どうですか?」とお伺いしたところ、「確かにそうかも」と。じゃあこれにしましょう、ってなったんです。
なので、序盤から仕込んでいたわけではまったくなく、山本さんに助けられた出来事でした。
Q.第1回でドヴォルザーク「新世界より」、源平合戦でヴィヴァルディ「四季」などクラシック曲が要所要所で使われています。何か意図があるのでしょうか。
これはチーフ演出の吉田(照幸)の発想ですね。ある種の「古典劇」らしい重厚さを出したいと思っていたのでぴったりでした。
曲は吉田が指定して、エバン・コールさんにアレンジしていただいています。
例えば、比企の館を襲撃する時にはバッハ「無伴奏チェロ組曲」が流れているのですが、あえて勇ましくない音楽をセレクトしました。
人間の所業を突き放してみている、神の目線で――というのが音響効果チームからエバンさんへのリクエストでした。ぜひアレンジにも注目してほしいです。
そして、音楽面だけでなく、実はシェイクスピアや平家物語から引用しているセリフや演出は結構あるんです。
気づく人が気づいてくれればいい……くらいのささやかな入れ方なのですが、「歴史劇」として全体の重さを形作るのには、音楽と並んで一役買っているかなとは思います。
Q.三谷さんはインタビューで「ゴッドファーザー」「シェイクスピア」「ゲーム・オブ・スローンズ」などインスパイアされた具体的な作品や作家の名前を度々出されていますが、制作陣はどれくらい意識しているのでしょうか。
ガッツリ意識しているわけではないですが、三谷さんの想像するトーンの方向性がわかるのはありがたい。そういう感じですかね。
「ゲースロ」もそうですけど、今は海外配信系の世界的ヒットドラマとすぐに比べられる状況になっているので、並べるクオリティでありたいとは意識しています。
映像面でもそうですし、飽きさせないストーリーという意味でも。娯楽に使える時間が限られているなかで、強力な競争相手ですから。
そういえば、最初に三谷さんと相談し始めた時に「最近どういうの面白いですか」「どういう大河やりましょうか」って話をしていて2人同時に出てきた名前は「ブレイキング・バッド」なんですよ。
あの展開の見事さ、参考にしたいよね、という話をした記憶があります。