目が見えなくても、メイクはできる、料理もできる。27歳、全盲の彼女の日常

視覚障害者のあいだで「ここは危険」と話題になる駅は、新宿駅でも東京駅でもなく……

目が見えない女性は、毎朝のメイクはどうしているのでしょう? 考えたこと、ありますか?

そんな素朴な疑問に答える動画をフリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)が公開しました。

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説明するのは、全盲の職員、石田由香理さん。

下地、ファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、アイライン、チーク……一般的に「メイク」と言うと想像するような手順とまったく同じように、慣れた手つきでお化粧していきます。

目が見えない状態でメイクする、なんて、鏡ありきの私には正直うまく想像ができません。が、彼女にとっては毎日繰り返すごくごく普通のこと。

料理の仕方、名刺交換、洋服の選び方、色をどう認識しているか――石田さんは他にも、「視覚障害者の暮らし」シリーズとして、自分の日常を動画で解説しています

BuzzFeed Newsは石田さんに、普段なかなか知り得ない日常生活の様子や、街中で目の見えない人に出会った時に私たちができることを聞きました。

メイクも料理も通勤も。目が見えない彼女の日常

石田さんは、1989年生まれの27歳。1歳3カ月で全盲になり、高校まで盲学校に通いました。

国際基督教大学(ICU)で4年間学んだ後、英国サセックス大学の修士課程に留学。現在、フリー・ザ・チルドレン・ジャパンでフィリピンの障害者を支援する事業を担当しています。

――石田さんは現在、一人暮らしなんですよね。

はい、そうです。都内で一人暮らしをしています。通勤を含む日々の外出や料理や掃除などの身の回りの家事、買い物などは基本的に自分でやっています。

私の周囲の視覚障害者にも、一人で暮らしている人は多いですよ。物件探しが大変ですが……100件、200件あたって受け入れ可能のお返事をもらえるのは数件だけです。

――メイク動画、この言葉が正しいかわかりませんが、すごく興味深かったです。普段自分が当たり前にやっていること、目が見えないとどうなるだろう? と考えたことがなかったなと思いました。

そうですよね、私にとっては当たり前のことなのですが!

――絶対、自分じゃできないな……と思いました。

(笑)。アイラインとか特に難しいと思います。目に刺しちゃいそう! ってなっちゃうはずです(笑)。

お化粧の仕方は、高校生の頃に盲学校で学びました。化粧品会社の方が来てくださってレクチャーしてくださるんです。

――焼きそばを作る、料理の動画も興味深かったです。調味料や油を入れる時は直接フライパンに触るんですね。「IHなので触っても大丈夫」は豪快だなぁ! と思いました。

ガスコンロだと熱いかもしれないですが、IHならやけどすることはないので平気です。一人暮らしするならIHが断然安心。

でも例えば、私の実家はガスですし、小学校の頃は火で調理していました。盲学校でも調理実習や理科の実験の時間がありますし、どうしたら安全か、少しずつ学んでいくんですよ。

――今日は石田さんの日常生活を聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。


Q.駅や街中で白杖をついた方を見かけた時、私たちはどうするのがよいのでしょうか? 混んだ駅では、何か声をかけたり手を引いたりしてお手伝いした方がいいのか、迷います。

これはですね、よくされますが、一番困る質問のひとつです!

なぜなら、一概に断言ができないから。

割合的には声をかけてもらった方がいい人が多いと思いますが「特別扱いされるのは嫌」という人も少なくないと思います。

例えば、電車やバスの座席が明らかに空いていると雰囲気でわかりますが、どの座席が空いているか、具体的な場所は私たちはわからないのでなかなか座りにくいです。

そんな時「ここ空いてますよ」と手を取って案内してくれるとうれしいという人もいますし、いきなり手や腕に触られるのは嫌だという人もいます。

それは、障害があってもなくても同じですよね。個人の感覚なので難しいところです。

――では、声をかけてもらうと助かるタイミングは?

9割以上の人がありがたいと思うのは、人身事故で電車が止まっているとか、工事中でバスの乗り場が変更になっているとか、いつもと違うことが起きている時。

電光掲示板や標識で案内があっても、私たちはわからないので……。そういう時は声をかけて教えてもらえると、とてもうれしいですし、安心できます。

Q.利用のハードルが高い駅はどこですか?

私たちのあいだで「ここは危険」と話題になるのは、JRの御茶ノ水駅ですね。

御茶ノ水駅は、まずホームの幅が狭くて、ホームドアもないのが怖いです。加えて、飯田橋なんかもそうですが、電車とホームの幅がすごく広い。

あと、ホームの左右で高さが違って、中央付近に縦に段差があるんです。真ん中を歩いているつもりが突然段差に……。

――意外な名前でした、大きなターミナル駅が難関なのかと。

新宿駅や東京駅も使いやすくはないですが、慣れれば勝手がわかってきますね。

ホームを長い距離歩くのはなるべく避けたいので、この改札はあんまり使わないようにしよう、とかはあります。

――ホームドアがあるかないかでまったく安心感が違いそうです。

そうですね。なので、ホームドア設置が進んできた東京メトロ系は、比較的使いやすいです。

私は通勤に京王線を使っているのですが、片側ホームが多いのでありがたいですね。壁に沿って歩いていれば絶対に落ちないので。

Q.趣味はなんですか?

体力をつけたいので、最近は週に2回くらい、近所の公園でランニングをしています。

――アクティブ! それも、お一人ですか?

いえ、伴走者の方と一緒に。パラリンピックの競技にもありますが、わっかになったロープを2人で持って走る方法があるんですよ。

視覚障害者の中には、趣味は運動という人は結構多いと思います。走ったり、泳いだり。

私は他には……ネットサーフィンして動画を見るのが趣味ですかね。映画鑑賞や音楽鑑賞という方もいますし、買い物が好きな人も。みなさんいろいろです。

Q.技術の進化で役にたったものは?

なんだろう……Suicaかな? 運賃表が見えなくても、切符を買わなくても電車に乗れるようになりました。

ここ数年だと、スマホのアプリでしょうか。カメラをかざすと対象の色を教えてくれるアプリとか、冷凍食品や洗剤のラベルを読み上げてくれるアプリとか。私も、服の色がわからなくなった時などに使っています。

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カメラを使って色を判別するアプリは、この動画の3分50秒前後に登場

――なるほど。……そもそも、石田さんのように小さな時に視力を失っていると、どうやって色の概念を理解するのですか?

それもよく聞かれる質問ですね。私には当たり前のことなのでどう言葉で説明したらいいのか、いつも難しいです。

一番最初は幼稚園の頃、先生や親に「太陽やいちごは赤、明るくて強い色」「海や空は青、涼しげな色」とイメージで教えてもらったと思います。

小学校に入ってから絵の具を使うようになって「赤と青を混ぜたら紫」「全部混ぜたら黒」と、知識として覚えていきました。

――服はお店で買うことが多いのでしょうか? 触ってデザインを確認して、色を店員さんに確認して……?

私はECサイトで買うことが多いです。自分の身体のサイズが小さすぎて、お店だとあまり合うサイズがないんですよ。

――また意外な回答でした。私がECサイトを見る時は、画像に頼りきりです……!

そうですね、その分、文字情報でどんな服なのかな? を想像します。

例えば、楽天のトップページから検索して、商品情報のページに辿り着いたあとからやってみましょうか。

「160センチ前後の方用」「短めですっきりとしたジャケット」――こんな風に商品説明がテキストで書いてあるサイトだと、買い物できます。

こういう特徴が全部画像に書き込んであるタイプだと、ダメですね。読み上げられるものがなくて。

ECサイトってだいたい、上の方にキャンペーンのバナーや広告があるじゃないですか。それをスクロールしていくのが大変です。広告バナーが多いページとか、商品情報に全然たどり着かないし、たまに見失っちゃう(笑)。

「あれ、もう商品レビューだ!」「このページは画像説明だけだったみたい」って何度も上下に行き来します。

――特別なものを使うわけではなくて、普通のECサイトで買い物するんですね。

はい、普通に検索して、選びます。購入者のレビューもかなり参考にしていますね。テキストの説明が丁寧なお気に入りのサイトがいくつかあります。

――こうして話を聞いていると「目が見えないと難しそう、大変そう」とこちらが勝手に想像していることの多くが思い込みなんだ、と感じました。

そうなんです。目が見える人と同じようにできるわけではないですが、一人暮らしができる程度には日常生活は営めます。

私が今なぜこんな風に自立できているかというと、盲学校で生きるための基礎的なスキルを学べたからなんです。

ほとんどの家庭にとって障害がある子を育てるのは初めてですから、教え方はわからなくて当然です。コップに水を注ぐとか、洗濯物をたたむとか、教えてもらう機会さえあれば、目が見えなくてもちゃんとできるようになるんです。

実は、最初にメイクの動画をあげたきっかけは、フィリピンの盲学校に行った際に、現地の人に「私は日本で一人暮らしをしている」と言ったら質問攻めにあったことでした。毎日どう過ごしているかなんて、自分にとっては日常すぎてどう説明したらいいのかわからなくて。

まだ教育が行き届いていないフィリピンでは、本人も家族も「この子は何もできない」と思い込んだまま育ち、ごはんは食べさせてもらうまま、着替えは与えられるまま――ということは少なくありません。

でも、そもそも「できる」ことを知らなければ、想像できなくて当たり前ですよね。きっとこの動画を日本でご覧になってくださったみなさんもそうだと思います。

私たちがどうやって日常生活を送っているか、「できること」をどう広げているか、この動画を通して知ってもらえたならうれしいです。


Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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