Updated on 2020年8月9日. Posted on 2020年8月8日

    「嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒」歌舞伎町のホストが詠む“31文字”の愛の歌がエモい

    「短歌って、酒場でする会話に似てるんですよ」

    現代の光源氏、歌舞伎町のホストたちが短歌を詠んだ――そんな一風変わった歌集『ホスト万葉集』が発売された。

    短歌研究社、講談社

    お金で結ばれた「姫」たちとの関係について考え続ける王子様……もといホストたち。この「愛」は偽りなのか、本物なのか。……そもそも、愛ってなんだ?

    嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名サヨナライツカ

    あと十万届かなかったナンバーワン 全然減らないオーパスワン

    七夕に会いに行くね。と姫が言う 年イチじゃなくて毎日来いや

    「姫」との愛の歌はもちろん、男同士のライバル関係や友情、仕事帰りやオフの日の過ごし方をテーマにしたものも。華やかな生活の「B面」も垣間見えるのがおもしろい。

    ただの“お遊び”ではなく、中身は本格的な歌集。俵万智さん、野口あや子さん、小佐野彈さんというプロの歌人3人が選者を務める本気っぷりだ。

    この異色の1冊を手がけたのは、歌舞伎町でホストクラブや飲食店など10店舗以上を経営する「スマッパ! グループ」会長の手塚マキさん。

    提供写真

    手塚マキさん

    本屋「歌舞伎町ブックセンター」をオープンするなど、これまでもホストが文学や文化と接点を持てるよう模索してきた。そんな手塚さんが「短歌はホストにぴったり」と感じている、その理由は?

    140文字では長すぎる

    ――「ホスト万葉集」、タイトルからして最高です。ホストが短歌を読む、という発想はどこから生まれたのでしょうか。

    きっかけは2018年7月、「歌舞伎町ブックセンター」で(歌人の)小佐野弾さんの第一歌集『メタリック』の発売イベントをやったことです。

    その場でホストに即興で短歌を詠ませて、プロに講評してもらうコーナーを設けたのですが、それが予想以上に面白くて。

    ホストが初めて短歌を詠む会。 @suzukakeshin 鈴掛真さん@dantpe 小佐野弾さん@ayako_nog 野口あや子さんに批評して頂くという贅沢な会でした。 定期的に開催を期待!!!

    自分はずっとホストをやってきて、ある時から経営者になりましたが、若いホストたちにもっと「教養」を身に着けてもらいたいとずっと考えてきました。

    泣きたい時、笑いたい時、静かに話したい時。お客様のさまざまな感情に寄り添うためには、ホスト自身が人間として深みがあることが重要だと思うからです。

    なので、本を読もう、映画を見ようとずっと言ってきたんですけど……まぁ、当然読まないんですよ、本なんて(笑)。

    漢字が読めない、長い文章に抵抗があるヤツらでも、詩や短歌のような短いものなら読む気になるだろうか、と思ったのが最初でした。

    提供写真

    ――まずは「詠む」より「読む」対象だったんですね。

    そうなんです。でも「詠む」方をやらせてみて、短歌という表現はホストにぴったりだと感じました。31文字って分量が、彼らの思考を形にするのにちょうどいいんですよね。

    LINEの1行では短すぎる、Twitterの140文字では長すぎる。

    一瞬の気持ちを描写するのにちょうどいい。論理的な文章を書くのが苦手なホストたちでも、この文字数なら素直に自分の気持ちを書ける。

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed

    「短歌は女性を口説く実用品」

    ――選者の野口あや子さん、俵万智さんによる「光源氏は元祖チャラ男、ホストは現代の光源氏だ」「短歌は女性を口説くために使われた愛の実用品だった」という見立ても面白かったです。

    ですね。お客様のちょっとした一言、LINEでのやりとりで気持ちを通わせるのがホストの仕事ですからね。なるほどな、と思いました。

    ――2018年の秋から年末にかけ、営業前のホストクラブで定期的に「歌会」を始めます。参加者は自然に集まったんでしょうか。

    いや、全然。僕が指名して強制です(笑)。「お前まだ来てないよな? じゃあ次」みたいな。

    店のホストたちが全員1回は参加するよう順番に呼んで、特にセンスがありそうなうまいやつは何度も呼んで。

    素人が集まって見様見真似でやってみるのもできると思ったんですけど、あえてプロに入ってガチンコで指導してもらった方が楽しいなと、毎回ゲストを招いて講評してもらいました。

    短歌を通して、僕自身も彼らの知らない面に触れられておもしろかったですね。「へえ、こいつこんなこと考えていたんだ」「こんな繊細な言葉遣いするんだ」って。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    出勤前に集まって…歌会の様子

    短歌、酔っ払いにぴったり説

    ――姫、売掛、シャンコ……ホスト特有の専門用語がたくさん使われているのも、短歌という古風なフォーマットとどこかアンバランスでおもしろかったです。

    姫帰りシャンパングラスを片付ける 祭り終わった朝霧の感じ

    こころから会いたい会いたい捜してたやっと見つけた売掛はらえ

    シャンコする姿がかっこいいなんていうなら君が入れればいいじゃん

    ホスト撮影

    (※姫:足繁く通う得意客のこと)

    (※売掛:ホストクラブで使った代金をお客が店にツケられるシステム。踏み倒すと、担当ホストの給料から引かれる)

    (※シャンコ:シャンパンコール。シャンパンを注文すると店のホスト全員が姫のテーブルで独特のマイクパフォーマンスでコールしてくれる。つまり、その間、店のホストを独占できる)

    略語ができるくらいですから、ホストの世界ではそれぞれ重要な言葉。字面以上の思いを込められますから「短歌向き」の単語ですよね。

    同じ言葉を使っても、そこに懸ける思いの強さが一人ひとり違うのもいいですよね。例えば「ラスソン」と言っても、どれくらい思い入れがあるかは人による。その差が個性になるんですよね。

    曖昧な「イエス」でラスソンラブソング 消えぬ残像姫の横顔

    夜の街 学歴不問期待して もがいて摑むラストソングを

    (※ラストソング:その日の売上ナンバーワンのホストが、閉店時の最後にステージで歌うこと。ホストにとって晴れ舞台)

    何度も歌会をやってみて思ったんですけど、短歌って酒場でする会話に似てるんですよ。

    ――酔っぱらい同士の?

    そうそう。飲んでいる席でする会話って、テンポよくリズムを作る、レスポンスをつなげていくことが最優先じゃないですか。「つまり」とか「だから」とか出てこない。

    その刹那的なエネルギー、瞬発力のようなものが、短歌ってフォーマットと近いなって思ったんですよね。

    お酒飲みながら軽口を叩く感覚で紡げるから、ホストたちの思考回路にマッチしてたんじゃないかなと。なんだろう、パズルやクイズっぽいというか。

    ――短歌、酔っ払いに向いている説! 私は手塚さんのこの歌がすごくいいなと思いました、物語を感じて……。

    「ごめんね」と泣かせて俺は何様だ 誰の一位に俺はなるんだ

    ありがとうございます(笑)。これ、最後の歌会で1位に選ばれた歌ですね。

    担当編集 國兼さん:これは俵万智さんも大絶賛でしたね。

    「ごめんね」と泣かせて俺は何様だ誰の一位に俺はなるんだ 手塚マキ ホストという仕事は、誰もの一位になることを目指す。でも恋愛は、誰か一人の一位になれればいい。仕事と恋の間で揺れ動く心に、グッときます。 #ホスト万葉集 #私のお気に入り

    《ある日の歌会で、掲出の一首に出会い、心を鷲掴みにされた。「もし、この歌会から歌集が生まれる日が来たら、間違いなく代表作になると思う。私ならオビに使う」と興奮して述べたことを思い出す。》(連載「俵万智の一首一会」より)

    ――最後の歌会で“ナンバーワン”をかっさらっていくの、めちゃくちゃカッコいいですね……!

    はは、ナンバーワンへの本能が(笑)。歌会は毎回参加していましたが、本気でやるといつも自分が1位になっちゃいそうなんで、最後だけ本気出しました。

    ――さすがですね、代表の余裕。

    (笑)。まあ、僕けっこう真面目に勉強しているんで。「NHK短歌」も毎週録画してちゃんと見ていますからね!

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    この歌が1位を獲得した歌会の様子は動画でも残っています

    変わったことは「マジでない(笑)」

    ――ホストたちに短歌をやらせてみてよかったな、と思うことはありますか? お客さんとのコミュニケーションが変わったとか。

    変わったことは……ないです! これは胸を張って言えます、マジでない(笑)。

    ――潔い言い切り(笑)。

    でも、逆にそれがいいなと思ってて。「売れる」「ナンバーワンになる」と違う次元で評価される機会になっていることに意味があるんですよ。

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed

    巻末に「作者紹介」としてホストたちの宣材写真が載っているのもおもしろい。ときめいた短歌があったら、その作者に会いに行ける

    僕はホストをやっている子たちが大好きで、本当にいい子たちだなぁと常々思っているんですよね。素直で頑張り屋、今目の前のことを全力で楽しむ姿勢があって、計算なんかせずにいつも全力。

    でも、一般社会で生きていない、生きていけなかった後ろめたさや自信のなさがどうしてもあるんです。確かに、学歴や論理的な思考力はないし、一般的な意味で仕事がデキるとか頭がいいかと言えばそんなことはない。

    だから、この世界の外で褒められることがほとんどない。どうしても売上やナンバーだけを競い合う価値観に縛られてしまう。

    短歌は、その枠の外にあるのがいいんですよ。正直、短歌がうまくてもホストとしての売上には直接つながりません。

    でも、この本を読んだ一般の人が「こいつの短歌、おもしろいな」とは思うじゃないですか。外から「この人いいじゃん」「素敵だな」と思ってもらう経験って大事だと思うんですよね。

    ――なるほど、外からの目線。彼らにはこの本や短歌への感想は届いているんでしょうか?

    どうだろう、そもそもあんまり興味を持ってない気がする(笑)。というか、褒められるものだと思ってないのかな。僕のもとには「おもしろかった」って声たくさん届いていますけどね。

    『ホスト万葉集』からの一首。お客様からの甘い駆け引きにはのらず、でも「好き」で着地するところにグッときます。 https://t.co/tlsDe290xO

    でもね、だからと言って僕が直接褒めてもダメなんですよ。これは「親戚のおじさん理論」って言ってるんですけど、田舎の親戚のおじさんとか、地元の友達とか、予想もしていなかったところから褒められて初めて実感がわくと思うんですよね。

    ――それはちょっとわかります……!

    でしょう。「お? 褒められた?」と素直に受け止めるには、ある程度距離がある人じゃないと。

    何度も歌会をやる中で「こいつはうまいぞ、才能あるかも」と感じるホストも何人かいて。例えば彼らがゆくゆく個人の歌集を出す未来があってもいいですよね。「副業・歌人」のホスト。どんな人なのか気になりません?

    別に短歌じゃなくてもいいんです。ホストがみんなが同じ軸で競う必要はない、自分だけの武器や魅力を持ってくれたらいいなと思っています。

    【手塚マキ(てづか・まき)】

    1977年、埼玉県生まれ。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、26歳で企業。現在は歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など十数件を構える「Smappa! Group」会長。

    手塚氏とともに、今回短歌を作ったのは、同グループの在籍ホスト75人。月に1回のペースで短歌を作って評価しあう「ホスト歌会」をおこなってきた。新型コロナウイルスで歌舞伎町が危機に陥ったときも、Zoomを使って歌会や勉強会を続けた。