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隣人は元殺人犯。あなたなら“友達”になれますか?

移住者は全員、元殺人犯。ありえるかもしれない未来を描くサスペンス映画「羊の木」吉田大八監督インタビュー。

さびれた港町に同時期に移住してきた男女6人。彼らは全員、元殺人犯だった。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

刑務所のコスト削減、そして地方の過疎対策として、仮釈放された元受刑者たちを“住民”として受け入れる――。

そんなセンセーショナルな設定の映画「羊の木」が2月3日に公開される。監督は「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」などの代表作を持つ吉田大八だ。

原作は、山上たつひこ(原作)といがらしみきお(作画)による同名漫画。ギャグ漫画のレジェンドたちが挑む骨太な社会派ストーリーは評価が高く、2014年(第18回)文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した。

硬派なテーマでありながら「描きたかったのは“友情”」。そう話す吉田監督に見どころを聞いた。

吉田大八監督
Haruna Yamazaki / BuzzFeed

吉田大八監督

答えを出すまで生きて帰れない

――原作漫画を知ったのは連載中の2012年、プロデューサーからすすめられたのがきっかけとのことですが、映画化したい、とピンときたポイントはあったのでしょうか。

いえ、最初はむしろ難しいなと思いました。漫画界の巨匠2人がこれだけやりたい放題やった作品ですから、歯ごたえが強すぎて映画として消化できる自信は正直なかったです。

「羊の木」第1話より
©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社 / Via evening.moae.jp

「羊の木」第1話より

――そうなんですね。映像のイメージがパッと浮かんで……ではなく。

自分からやりたくて企画を持ち込むパターンもありますが、お話をいただいた上でお受けするものは、いつも「無理かも」から始まりますね。特に原作があるものは「気は重いけど、自信はないけど、やってみたい」というスタートのことが多いです。

でも、だからこそアグレッシブになれるところもあると思います。捨て身の勢いというか、ダメなら潔く諦めようと踏ん切りがつくというか。「答えを出すまで生きて帰れない」問題を出される感じ。

映画を作るには自分が一生働いても返せないほどのお金と途方もない数の人が動くわけですからね。「この映画、イマイチかも」と思っているとそのプレッシャーに耐えられない。自分自身を説得できる程度には「これはイケる」と確信できなくてはならないので。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

“普通”の主人公は初めて

――難航したプロセスはありますか?

脚本作りですね。2年ほどかけました。世界観や設定は、原作をほぼ踏襲しているのですが、映画として何を軸にしたらよいのか、自分はスクリーンで何が見たいのかをクリアにするまで時間がかかりました。

原作ではギャグの要素も多いので、最初に練っていたバージョンではもう少しコミカルなシーンも多かったんですよ。

その方向性で1年くらいやりとりして、だいぶ完成に近づいていたのですが「自分が見たかったのはこれだっけ?」」と考え直し、すべて捨てる決意をしました。結末だけは揺るがなかったのですが、そこに至る道筋はほぼ書き換えました。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

そこまで積み上げたものを捨てた瞬間に、方向性が定まったと思います。これはある種のサスペンスだ、まずは見ている人を不安にさせよう、その不安の中をどう進んでいくかで物語を紡いでいこう、と。

――「主人公が“普通”なのは初めて」とおっしゃっていましたが、撮り方は変わりましたか?

そうなんですよ。主人公がどこかで爆発しないと映画自体がはじけないのではという不安がこれまであって……。内面に強烈な自我や狂気を抱いた人物を描くことが多かったので、最後まで普通の感覚を保つ主人公を据えるのは新鮮でした。

彼の身体を通して「何かちょっと変だな」という違和感を味わうことで、観客が映画を体験できる。こういう撮り方もできるのかという発見がありました。……でもきっと、これが普通なんだろうな(笑)。

――主人公・月末一役、錦戸亮さんのいい意味での普通っぷりがすごくよかったです。

素晴らしいですよね。「普通の人」と言ってもただ普通じゃつまらない。普通の人ならではの華や色気が必要で、それが彼にはある。

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しかも、あまりに自然にやっているから作為の後が全然見えない。「いつもの自分と違うことやっています!」とさえ見えない。強烈すぎるキャラクターたちに囲まれて、最初から最後まで翻弄され続ける、「普通の人」で居続けられる才能は天性のものだと思いました。

――個性的な元殺人犯たち。思い入れのある人物はいますか?

それぞれにあるんですが……今日の気分で言うと、市川(実日子)さん。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

ストーリー全体の中で1人だけ浮いているのですが、市川さんの独特の佇まいがあるからこそ、孤立していてもあれだけ映画の中心線となる存在感があったのだと思います。タイトルである「羊の木」にダイレクトに関わるのも彼女。ある種シンボル的な存在ですよね。

――物語のテーマを「友情」としていますが、真意をもう少し詳しく教えてください。

より大上段の社会派なテーマとして「共生」、違う種類の人たちとどう生きていくかという面は確かにあるのですが、脚本を書き直していくうちに「誰かと一緒に生きる」をより捕まえやすいサイズにしたいと思い始めたんです。

他者と出会って交流する中で、人の価値観はどう変わっていくか。「共生」よりもう少し噛み砕いた言葉で、観る人が想像しやすい距離にしたいと考えていました。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

映画作りで一番楽しいのは…

――劇場作品は今作で7作目ですが、映画を作っていて、一番やりがいを感じる瞬間はどこですか?

音楽録音している時ですね。

……あ、これで大丈夫ですか? 「お客様の反応を初めて見た時」とかの方がよいでしょうか?(笑)

――いえいえ(笑)。でも、意外な答えではありました。

もともと音楽好きというのが大きくて、スタジオで作業しているだけで幸せになる(笑)。

音楽的な素養があるわけではないですが「ここでこういう音がほしい」「もう少し余韻を残したい」など、出てきたものに対してはかなり細かく、素人なりにしつこくオーダーを出します。

© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

音楽って最後の難所で、いい映像が撮れていい編集ができても、下手したらすべてが台無しになる大事なプロセスなんですよね。だからこそ、ほしい音が見つかると気持ちがいいし「この瞬間に向けて作ってきたんだ!」と思えます。

自分の作品は音楽を褒めていただけることが多いのですが、今回もかなり満足できる出来になりました。

――確かに劇中で何度もリフレインされるあのおどろおどろしい音、頭に残りました……。

ああ、よかったです。あの音色を発見するまでに時間がかかりました。よく聞くと後ろでサラサラと水が流れているんですよ。雰囲気が出るように、スピードや音数を細かく調整しました。

途中まで、冒頭に出てくるひとつの音色を少しずつ変化させながらじわじわ進んでいきますからね。サウンドトラックも、ある意味変わった、チャレンジングな……いや、画期的なものになったと思います。

――だいたい同じ曲がずらり……?

いや、決して同じではない!(笑)マジな話、名盤なのでサントラ買ってください。

BuzzFeed JapanNews