「ボディポジティブ」という言葉、ご存知ですか?
「太っていても、痩せていても、自分のありのままの身体を受け入れて愛してもいいんだよ!」という考え方やメッセージです。
海外で生まれ、プラスサイズモデルのインフルエンサーやSNSを通して、少しずつ日本でも広まりつつあります。
太っていることがずっとコンプレックスだった私が、「ボディポジティブ」という考え方に出会って、少しずつ変わっていった――。
そんな体験を描いたコミックエッセイ『自分サイズでいこう 私なりのボディポジティブ』が発売されたのは、2021年6月のこと。
作者のharaさんのもとには、刊行から1年以上経つ今も、同じように体型に悩む女性たちから「この本を読めてよかった」「気持ちが軽くなりました」などの感謝や共感のメッセージが届いていると言います。
もともと海外のファンが多かったharaさん。11月には、英語版の発売も決まり、一人の悩める女性の変化が、海を越えてより多くの人に届こうとしています。
たった1年、されど1年。社会の変化は感じますか? 日々発信を続けるharaさんに聞きました。
「太ってるのにおしゃれなんてできるわけない」
――プラスサイズの女の子たちのイラストを描き出したきっかけはありますか?
書籍の中でも描いたのですが、一番のきっかけは『ラ・ファーファ』というぽっちゃり女子向けのファッション雑誌を知ったことでした。
当時の私は「太ってるのにおしゃれなんてできるわけない」という思い込みが強かったので、「身体の大きい人もかわいい服を着ていいんだ!!」という衝撃は本当に大きかったです。
そこからいろいろ調べているうちに、海外のプラスサイズモデルの方を通して「ボディポジティブ」という言葉に出会ってとても励まされました。
「太っていたらおしゃれなんて…」「なんかみっともない」みたいな気持ちの壁があったけど、それって思い込みだったな、そんなことないな、とようやく思えるようになったんです。
イラストを描いてアップし出したのは3〜4年前で、その頃は海外の方からの反響が大多数でした。
当時、日本では「ボディポジティブ」という概念はまだまだ知られてなかったと思います。
大きなリボンに憧れて
――第1話の「セーラー服のリボン」のエピソードは、体が大きいと単に着られるものが少ないだけでなく、「用意された規格に合わない自分がいけないんだ」と尊厳を傷つけられる感じが迫ってきて、本当に辛かったです。
おっしゃる通り、「太ってる自分が悪い」という自責の念が強かったです。
10代って世界も狭いですし、ちょっとしたことでもろに傷ついちゃいますよね……。
あのエピソードを公開後、いろいろな反応いただいたのですが、「むしろうちの学校はリボンちっちゃいほうがおしゃれでした〜!」って反応があって。
――学校の中のかわいさやルールなんて「そこだけ」の話で。
そうそう、そうなんです。今となってはそんなことで悩んでいたんだなぁと思えますけど、当時は「大きいリボンにできない自分はダメだ」と本気で思っていましたから。
それ以外の価値観があるなんて、想像もしなかったですよね。
やればやるほど成果が…のめり込んでしまったダイエット
――過度なダイエットで過食と拒食を繰り返していたという話もありました。当時を振り返って、そこまで自分を追い込んでいた原因はなんだと思いますか。
もともと真面目で、やり出すと周りが見えなくなるくらいのめり込んでしまう性格なんですよね。
ダイエットを始めたのもちょうど受験勉強が落ち着いた頃でした。時間もあるし、この勢いでダイエットも頑張ってみるか、って。
――合格目指して勉強する感じで。
実際、ダイエットってやればやるだけ数字で成果が出るじゃないですか。ある意味でやりがいはあるんですよね……。むしろ、自分できちんとコントロールできているような気持ちにすらなります。
当時はうつとかメンタルヘルスなんて考えはまったくなかったので……なんだろう熱血タイプ?(笑)努力に限界はない!みたいな。
結果的に、半年で20キロ体重が減りました。
――周りに心配されませんでしたか?
むしろ、褒められた思い出のほうが強いですね。「こんな短期間で痩せてすごい」とか「かわいくなったね」とか。
――ああ〜、なるほど……。
やっぱりそう言われると「あ、これが正解なんだ」「私、頑張ってる!」って思っちゃいますよね。
でも、それは周りの人が悪いとか煽られたとかではなくて、私含めみんなに「痩せてないとかわいくない」という価値観が染みついていたんだと思います。
「何日間で激痩せ!大変身!」みたいなバラエティ番組もたくさんありましたよね。
そういった価値観に関係なく、心配してくれたのが当時の保健室の先生で。
一人呼び出されて、同年代の成長グラフと比べるとちょっとまずい、あなた一気に痩せ過ぎだよ、太ってるのは悪いことじゃないよ、とお話してくれて。
――その言葉で何か変わりましたか?
正直、当時は聞き流してました(苦笑)
「リボン普通に結べるのうれしいな」の方が強かったです。
でも、「これが正解」と思い込んでいる私に、違う価値観を示してくれる人が一人でもいたのは大きかったかもなぁ、と後から思いました。
今SNSやマンガを通して、自分より若い人たちの「保健室の先生」でありたいな、という気持ちはありますね。
「私がいる!」海外ファンからのうれしい声
――11月には英語版が発売されます。反響、大きかったですよね。
もともと海外のフォロワーの方が多かったので、英語で届けられることがすごくうれしかったです。
単行本が出たときに「日本語は読めないけど、あなたの絵が好きだから買ったよ」という方もいらっしゃったくらいなので。
「やっと読める!うれしい!」という言葉はたくさんいただきました。
――英語圏ではボディポジティブという概念はもっと広がっていて、関連本もすでにいろいろ出ているのかなと、なんとなく思っていました。
ですよね、私もそう思ってました。
でも、「ちゃんと私がいる!」「自分みたいな体型の人が出てくるイラストは初めて」なんて反響が予想以上に多くて。まだまだ“私の話”として語ることは求められているんだと感じました。
インスタなどではなく、マンガのフォーマットなのも珍しかったのかもしれないですね。
「ポジティブ」の圧力
――単行本発売から1年が経ちましたが、haraさんの考え方や周囲の反応の変化は感じますか?
私自身の考えは特に変わってないんですけど、ボディポジティブに限らず「他人の体や容姿にどうこう言うのはやめようよ」という空気は少しずつ広がっているんじゃないかなと思います。
広告のコピーにも「自分らしく!」みたいな文言増えてますよね。自分らしさを大切に、自分を愛そうというような風潮は感じます。
ただ……私がマンガを描いていたとき、本を出したときには、こういうポジティブな考えは世の中に必要だよな、もっと広まったらいいなと思ったんですけど、また少し風向きは変わっているような気もします。
「無理して自分を愛することもないよ」「嫌いでもいいよ」という流れもありますよね。
――「ずっとポジティブでいるのも疲れるよね」という雰囲気はあるかもしれません。
「ボディポジティブ」じゃなくて「ボディノーマティブ」という言葉もよく見かけるようになってきましたよね。
――haraさんご自身は、そのあたりをどう考えていますか?
私は、そこは“日替わり”でいいんじゃないかなと思っています。
ずっとポジティブでいないといけないってことはないし、もちろん他人に押し付けられることでもないし。だからといってその考え方を完全に否定しないでもいいんじゃないかなって。
誰だって、自分の体を好きな日もあるし、嫌いな日もありますよね。「そんな毎日キラキラできんよ」って気持ちはよくわかります、私もそうだから(笑)
だから、その日しっくりする考え方を選んでいったらいいのかなと思っています。
“昔の自分”を救うために
――haraさんの変化は多くの人が参考になると思いますが、自分の苦しみや葛藤を描くのは勇気も必要だったのではないでしょうか。
そうですね……。そこは「ボディポジティブ」という考え方をもっと多くの人に知ってもらいたいという気持ちが大きかったと思います。私は私なりにできることをやらなきゃ、と。
それまでイラストで発信しても海外からのリアクションが多くて、あまり日本語圏に届いている感じがなくて。
「デブ」とか「痩せてから言え」とか嫌なこと言われるかもって怖さもあったんですけど「昔の自分のような誰かを、少しでも励ませるなら意味はある」と信じていました。
最初に自分のマンガをTwitterにアップする時はめちゃくちゃ緊張しましたね。勢いで投稿して、スマホ投げ捨てて、その日はもう寝る!みたいな。反応は見ずに……。
結果的には、共感やポジティブな反応が多くて安心しました。
――やっぱり、嫌なことを言われることもありますか?
あります。私自身ではなく創作イラストにすら「もっと痩せたほうがいい」とかぶつけてくる人もいるんですよ。絵の中の女の子に!
英語でそういうコメントがつくと、私は翻訳機能で内容を把握するので精一杯で……。どうしたらこちらの意図を説明できるだろう? と悩んでいる間に、海外のフォロワーさんが「それはちょっと違うんじゃない?」など、代わりに返信してくださったことが何度もありました。
――心強い! でも、それはどういう理由なんですかね…?「みっともない」とか…?
私の体感的には一番多いのは「不健康だから痩せろ」ですね。これは日本語だけじゃないです、英語でもそうです。
――肥満は体に悪い、ってことですね。
もちろん、医学的な肥満はそういう面もあると思うんですけど……。
でも、私が一番痩せていた頃って、心はズタボロだったし、確実に「健康」ではなかったです。見た目だけでその人が健康かどうかわかるわけじゃないですから。
――今はこんな風に冷静に言えますけど、10代のharaさんだったら…。
もう絶対、100%大真面目に受け取っていたと思います。「太っていたらダメなんだ」って。
SNSで見かけたイラストにすらそんな風に言ってくる人がいるってことは、現実にそういう言葉や視線をぶつけられている女の子たちがいるはずですよね。
だから私は「ボディポジティブ」って言葉はまだまだ大事だなと思っています。
あの頃の私のように、自分の体に対して「嫌い」の一択しかなくて、「自分の体を好きな日があってもいい」なんて発想すらしたことない方が、きっとたくさんいるはずなので。
そういった方に向けて、優しい選択肢をひとつでも増やせたらいいな…という気持ちです。