NHKが新番組「不可避研究中」を12月27日夜に放送します。MCは稲垣吾郎さん、第1回のテーマは「ジェンダー」。番組Webサイトには「スマホとテレビでお届けする実験報道プロジェクト」と説明があります。
この番組、公式Twitterで毎日のように短い動画を投稿しているのですが……正直、どんな番組なのかよくわかりません!
タイトルも不思議だし、中身も不思議。真面目なテーマですが、バラエティにも見えるし、情報番組にも見えます。
NHKとしては、どんな思惑があるのでしょうか? チーフプロデューサーの安田達一郎さんとディレクターの藤田盛資さんに聞きました。
コントにEテレ風…いろんな形で「自由研究」
番組タイトル「不可避研究中」は「世の中の不可避なテーマを自由研究する」の意。
第1回は、「ジェンダー」という大きなテーマを軸に、5人のディレクターが考えた5つの企画を放送予定です。Twitterは、月〜金でそれぞれ担当をわけ、短い動画コンテンツを発信しています。
コント形式の「美少女戦士レイワヤン」、Eテレ科学番組風の「ミトコンドリアのミトさんと、」、街頭インタビューで男女双方にモヤっとしたエピソードを聞く「#女だからとか疲れた #男だからとか疲れた」など、アプローチや見せ方はさまざまです。
「同世代に届いている感覚がなくて…」
そもそもこの番組、どういう位置づけなんでしょうか?
「難しく語られがちな社会問題を、そうか、自分にとってもこれは『不可避』な問題なんだとより多くの人に感じてもらえる、今の時代のジャーナル番組に挑戦したかったんです」(安田さん)
「テレビを見ない人がいつも何を見ているのかと言ったら、やっぱりスマホ。その人たちに届けるには何が必要? というところから立ち上がった企画です」(安田さん)
「テレビの仕事をしていると、悲しいですが、自分と同世代には全然届いていない実感があって……。どうしたら振り向いてもらえるのだろう? というのは、この番組が動き出す前からずっと課題に感じていました」(藤田さん)
「若い世代にも届く、ネット連動型のジャーナル番組を」。若手のディレクター有志を中心とした部署横断プロジェクトが発足したのは2019年夏頃でした。
ドキュメンタリーや報道、朝の情報番組、Eテレの科学番組など、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集結。
“部活”感覚で、局内での集まりやチャットアプリでの議論を重ね、テーマや方法を探っていきました。
「クロ現」D、コントに挑戦
「美少女戦士レイワヤン」を担当する藤田さんは、普段は「クローズアップ現代+」などを担当する報道局のディレクターです。
いつもはいかにも“NHKらしい”硬派な番組に携わっていますが、今回は一転、「コント」に挑戦しています。
登場するのは、3人の美少女戦士。そのうち1人は「男子」です。
仲良く平和を守りながらも彼の存在に違和感を感じていたあるメンバーが「それって、変じゃない?」と指摘したことから、「なんで(男が美少女戦士で)ダメなんだっけ?」を掘り下げていきます。
「え、ごめん、なんでダメなの?」
「ええ……。ほ、ほら……『美少女、なのか〜?』ってところはあるじゃん?」
「そう? じゃあ逆に、ヤンカはなんで美少女なの?」
当初は性的マイノリティー当事者の「あるある」ネタを盛り込んだミュージカルを考えていた藤田さん。
「世の中とLGBTのグッとくる接点をもっと」をコンセプトに活動するクリエイティブ集団「やる気あり美」の代表・太田尚樹さんのこんな声を踏まえて、一緒にコントに落とし込んでいきました。
「LGBTについて伝えること、知ってもらうことはいろいろやってきた。もう一歩踏み込んで“考えて”もらうことはできないか」
「例えば、自分の中にヘイトする感情が正直ある人が『なんで自分ってイヤって思ってたんかな』と立ち止まってもらえるような」
「普段の自分だったら、短い尺の中でなるべく情報を増やしたい、実際の経験を盛り込みたい、わかりやすく伝えたい――と思ってしまったと思います。今回はコントという形もあり、むしろ直接的なメッセージは減らす方向で考えていきました」
「『取材する側、される側』ではなく、当事者のみなさんと一緒に作り上げたからこそで、発想が広がりました」(藤田さん)
番組は30分ですが、「美少女戦士レイワヤン」のコントのフルバージョンは約8分。
……これ、全部放送したら時間足りなくないですか? 他にもいろいろコーナーがあるのに!
「その通りです(笑)。なので、フル尺はWebのみ。しかも、放送前に先行公開しています」
他の企画に関してもテレビで放送予定のコンテンツを、放送よりもむしろ長尺で紹介しています。「予告編」ではなく、「本編+α」という捉え方です。続きは番組で、ではなく、続きはTwitterで!
SNSの声をリアルタイムに反映
制作の過程でもスマホやSNSを活用しました。ほとんどの撮影をiPhoneやタブレットで行った企画もあり、Twitterの映像編集もディレクターが自ら行っています。
専門家にぶつける質問をアンケートで決めたり、寄せられたリプライを参考に『ここはもう少し言葉を足して説明しよう』『この点はもう少し深堀りしよう』とブラッシュアップアップしたり。
藤田さんも、新たな手法の番組作りにこれまでと違った新鮮さがあったといいます。
「『クローズアップ現代+』の『性暴力を考える』の回など、ネット上の反響の大きさで続編が決まることもありますが、かなりの熱量と、またゼロから生み出す時間が必要。SNSでリアルタイムに意見を聞き、スピーディに反映していけるのは、制作者としてはやりがいがありました」
「美少女戦士レイワヤン」に対しても、すでにさまざまな反響が寄せられています。放送前と考えると、たしかに新鮮です。
「メッッッチャ感動してる今 これに出会ってよかった」
「いつの間にかモヤモヤが残り、自然と考えられる感じ」
「『美少女』の中に男性がいたら『美少女』じゃなくて何が当てはまるのかな?」
テレビもネットも「どちらもメイン」
タイトルの「研究中」には、「制作側の僕らも、視聴者の皆さんと一緒に研究していく」という意味合いも込められています。
「テレビがメイン、ネットで補足、ではなく、『どちらもメイン』。夜中にテレビで見かけてTwitterを覗いてもらってもいいし、たまたま流れてきたツイートを目にして『なんだこれ』と番組を見てもらってもいい」
「テレビは最もマスに届けられる“打ち上げ花火”ですが、それ以外もさまざまな伝え方を試していきたいと思っています」(安田さん)
第1回の放送は、NHK総合で12月27日午後11時50分から。第2回は2月28日、第3回は3月27日にそれぞれ放送が決まっています。