「クリスマスケーキの当日販売、やめました」1年で一番売れる日になぜ?あるお菓子屋さんの決断

    「クリスマスは大忙しが当たり前」だったけど……。異色の挑戦をするお菓子屋さんが話題です。

    クリスマスケーキの当日販売、やめました――。

    ある洋菓子店の異色のチャレンジが注目を集めています。理由は「スタッフたちにもクリスマスを楽しんでもらうため」

    確実に多くの売上が見込める時期に、なぜ? 経営者としての思いを聞きました。

    毎年24日夜は当日販売のケーキを買うために1時間並んでもらっていました。去年社員に対して「なんでケーキ買うのにこんな並ばなあかんねん!」という大声を1人のお客様から聞いてしまった。お客様のxmasが大事なようにうちの社員にも大事な人たちがいる。悩んでた当日販売を辞める事を決めた瞬間でした

    ケーキ屋の息子は「クリスマスがないのが当たり前」

    兵庫県尼崎市で父の代から2代続く洋菓子店「リビエール」を営む西剛紀さん。

    ケーキ屋の息子として育ってきた幼い頃から「クリスマスはないのが当たり前」の生活でした。

    「小さい頃は、クリスマスシーズンはずっとおばあちゃんの家に預けられていましたし、小学校高学年くらいからは自分もお手伝い側に。パティシエになってからは、深夜3時4時まで準備が終わらない年もありました。時代はずいぶん変わって、今はそこまでのことはないですが」

    クリスマスは、ケーキ屋さんにとって書き入れ時。たくさんのお客さんが訪れるのがありがたい反面、秋頃から「あの大変な時期がまた来るのか……」と憂鬱にもなっていたのが正直なところだと言います。

    イブの夜は大行列。お客さんもイライラ…

    特に混み合うのは12月24日、クリスマス・イブの夕方以降。リビエールの場合、ピークタイムには1時間以上並びます。

    「寒い中並ぶのも大変ですし、お客さんもどうしてもイライラしてくるんですよね。家族をおうちで待たせているお父さんらしき人が『まだ並んでるんだよ』と不機嫌な声で電話をしていて申し訳なくなることもありました」

    「中には店員にキツく当たる人も。ギスギスした空間になるのはこちらとしてもしんどかったです」

    「何より、せっかくのクリスマス。スタッフにもお客さんにも、もっと幸せな温かい気持ちでこの日を迎えてもらいたいと思ったんです」

    1年で一番売り上げる日を“捨てる”勇気

    スタッフの長時間労働をやめるために。お客さんにも余裕を持ってケーキを手にしてもらうために。

    クリスマスの数日間は予約販売のみにして、当日販売はやめられないか?

    そう夢想したものの、当日販売は売上額としては決して少なくありません。それを“捨てる”には勇気が必要でした。

    「クリスマスの売上に依存せず、健全な経営ができる体制を作ろう」。実現するため、西さんは1年前から意識して努力してきたと言います。

    結果的に2020年の売上は、コロナに負けず好調。宣言通り、クリスマスケーキは予約販売のみに留めました。

    12月23日〜24日は、予約分の受け渡しをする一部スタッフを除き、多くがお昼で退勤できるようになりました。

    事前に作る数が決まっていたからこそのメリットもありました。

    「これまで、忙しい中ではどうしても簡素化せざるをえない工程もあったのですが、今年は作業量に余裕があったため、例年よりも1台にかける手間を増やせたのもよかったです」

    「売れ残ったケーキを廃棄する作業がなかった点も、フードロスの意味でプラスでした」

    人生初・家族と過ごすクリスマス

    西さん自身も23日はお昼以降お休みし、家族でクリスマスパーティーを開催。「クリスマスを家族と過ごせたのは人生で初めて」と笑顔で語ります。

    クリスマスに家族と家で過ごすのは産まれて初めてで、いつもよりいいお店で食材を買いに行ったり、テーブルのお花を用意したり、お料理を少し手伝ったり、家族に喜んでもらえてる気がする。ボクも楽しい。あとで娘たちとクリスマスケーキを作ります。自分の決断はきっと間違ってないと思う。

    娘たちと作ったキレイではないこのお菓子がなんとまぁ美味しい。

    スタッフたちからも好評で「家族や恋人と過ごせた」「子どもとクッキー作りを楽しんだ」「ケーキ屋になった以上、クリスマスを楽しむのは諦めていたのでうれしかった」などの声が寄せられていると言います。

    来年も「ぜひ続けたい!」と話す西さん。

    「もちろん、そのためには12月までの1年間できちんと結果を出していることが必要です。気を引き締めて、また頑張っていきます」

    「お客さんには多少ご不便をおかけすることにはなりますし、すべてのケーキ屋さんは同じようにできる、すべきとは思わないですが、こういうお店がひとつくらいあってもいいかな……と」

    「お菓子業界の人も、クリスマスが楽しみになればいいなと思います」