年収300万円以下が4割…「やりがいはある、でも続けていけるかはわからない」アニメ業界の赤裸々すぎる現状

    「食費すら厳しい」「備えをする経済的余裕がない」…アニメ業界で働く人へのアンケート調査「アニメーション制作者実態調査2019」が発表された。労働環境への不満や不安が語られている。

    一般社団法人「日本アニメーター・演出協会」(JAniCA)が11月11日、「アニメーション制作者実態調査2019」の調査結果を発表した。現場で働く人々の声からは、低賃金かつ不安定な労働環境が垣間見える。

    年収300万円以下が4割

    回答者は、アニメーション制作に関わる仕事に従事する382人。年代は20代〜50代以上まで幅広く、男女比は男性57.6%、女性41.4%だった。

    低賃金労働、長時間労働、給料未払いなど、労働環境の悪さがたびたび取り沙汰されるアニメ産業だが、今回のデータからもその様子は見てとれる。

    2017年の年収は、300万円以下が41.1%。100万以下という回答も8.3%あった。平均年収は440万円、中央値は370万円で、600万円超と回答した人は19.4%だった。

    就業形態は、約半数(50.5%)がフリーランス。続いて、自営業が19.1%、正社員が14.7%となっている。

    「備えをする経済的余裕がない」

    フリーランスや自営業者の多さは、健康診断の受診状況にも表れている。

    健康診断を「毎年受けている」人は42.9%、「数年に1度くらい」は23.3%にとどまった。「過去に受けたことはあるが今は受けていない」「今までに受けたことがない」は合わせて3割を超えた。

    老後の備えについては、3割近く(28.8%)が「備えをする経済的余裕がない」と回答した。

    それでも「仕事が楽しいから」

    仕事を続けている理由を聞くと、「この仕事が楽しいから」(68.6%)が「お金を得るため」(70.2%)に肉薄。多くの人が志を持って従事していることが察せられる。

    今後の展望としては「働ける限り、アニメーション制作者として仕事を続けたい」が6割を超えた一方、「アニメーションをやりつつ他の収入源を探したい」「アニメをやめる気はないが、量を減らし副業を始めたい」という声もあった。

    「ずっと続けられるとは思いません」「根底にあるのはルーズさ」

    自由回答では、労働環境への不満や要望など、赤裸々な現場の声が多数寄せられている(一部表記を読みやすく修正)。

    多かったのは、賃金への不満と、過密スケジュールによる疲弊。この点は、年代や職種によっても多少実感は多少異なるようだ。

    金銭的・時間的に余裕がなくなることで、技術面を磨く余地がなくなることへの言及も多かった。

    デジタル化が進む中、新たなテクノロジーやデバイスにどれだけ順応できるかの不安の声もあった。

    “アニメの制作本数が多すぎる”と常々感じています。1本あたりの利益率が低いのだから仕方ないと言われたりしますが、そこで思考を停止してほしくないです。ただでさえ少ない時間・資金・人手が作品の乱立によって分散され、業界内だけでなく社内ですら人手の奪い合いになり、お客を奪い合い、とても効率が悪いと思います。(女性、30代、作画監督)

    キャラクターデザインという役職で、チームをまとめ、誇りを持って仕事をしてきたつもりですが、毎月の給料は20万いくかいかないか。どんなに頑張っても見てもらえない。正社員になれる基準も判らないまま、この会社で働いていくモチベーションは低いです。(略)我が社では、中堅アニメーターが今年だけで4人辞めていきました。自分もやってみたいこと、挑戦したいこと、いろいろあったはずですが、絵描き・作品のトップにあたるであろうキャラクターデザインを担当したところで給料の限界も知ってしまいました。転職することもすでに検討している段階なのでいろいろあきらめてます(何年経ってもいい話を聞けない業界体質、恥ずかしいですね)。(女性、30代、版権)

    アニメーターの賃金の低さがよく話に上がりますが、仕事人としてしっかりとスキルを身につけている人たちは「普通」に稼げています。仕事に向いてない人が簡単に業界に入って仕事をもらえてしまう、しかしアニメの仕事には向いていないので、苦労する上に稼げない。そんな人が業界の7割くらいいるように思います。(男性、50代、演出)

    基本的に、アニメーターの収入にしても、作業環境や制作との軋轢にしても、問題があるのはアニメーター(もしくはクリエイター全般)だと思っています。(略)今一番の問題は平均して原画マンが下手だということで、業界全体の危機です。講習会とか下手な人は全然いかない。20代の若手ならともかく、30〜50代で全く使えない原画マンがあふれているというのが現実です。(略)正直なところ、5年後に手描きアニメーターが必要かと言われたらいらないと答えます。3Dがほぼ追いついているので、3Dの方たちにいろいろ教えた方が有意義だと今は言います。(男性、40代、不明)

    この先もアニメ制作へ関わる仕事を続けていきたいですが、デジタル化への対応、手描きからCGアニメへと主流が移るのではないかなど、地方にいて技術革新についていけるのか、不安に思っています。東京に出る予定はなく、ITの活用などが地方で働くことのデメリット軽減に生かされてくれればと思います。(女性、30代、原画)

    アニメーターだけが低賃金で仕事をしている風にメディアに取り上げられるのはおかしいと思う。低賃金で仕事をしているのは他のセクションだってあります。メディアで取り上げて問題提示するなら全体的に平等に扱ってほしいです。(女性、40代、色彩設計)

    2018年の新卒として動画をしています。働く前はいろいろと厳しいような話を聞いていて、実際働くと収入面はもちろん厳しいのですが、自分が思いのほか食いついていけるのでとても仕事が楽しいです。新人をちゃんと教育してくれる機会が多いからだと思います。今は若さと実家暮らしという環境にものを言わせ、がむしゃらに働くことができています。この状態を脱し、いかに安定した収入を得られるかが今後の不安です。ずっと続けられるとは思いません。(女性、20代、動画)

    3DCGやゲームなどのアニメ化に携わる機会が増え、アニメ業界の制作工程の管理のルーズさを改めて知ることが増えました。(略)現在のアニメ業界の低賃金の根底にはスケジュール遅延も多く関係しているので、それぞれの会社のプロデューサーや社長・経営者の意識だけでなく、技術的・能力的工場が必要だと思っています。(略)監督をしながらも、人集めやコミュニケーションの活性化のための飲食を個人でしている身としてはそろそろ限界を感じていますが、この国の文化のため、将来の子どもたちの未来のために頑張りたいです。(男性、40代、監督)

    やっぱり仕事として生きていくには金銭的に不安が大きい。やりがいはある、でも続けていけるかはわからない。(女性、20代、原画)

    目まぐるしい作品スケジュールと、それを管理し動かす周りの人間、日々の生活に、どんどん減っていく貯金残高。そんないろいろなモノに急かされて闇雲に頑張っていたら、いったい自分はアニメの何が好きだったのか、なぜこの業界にしがみついているのか…時々わからなくなるようになりました。心も身体も時間もお金も全て余裕がないのです(女性、20代、動画)

    いやらしい話ですが「お金」がすべてです。技術とか、仕事する時間、休日、健康だってそう。お金です。無いから、技術を得る講習会に参加できない。働くので精一杯でそんな時間がとれない。病気になってもお金がないので自然治癒で治す。(略)アニメを作る制作会社に十分な「お金」「権利」を得られるようにしないと末端までそれが行き渡らないと思う。(男性、40代、背景美術)

    労基が入ったり、海外の映像ストリーミング配信事業者などの新たな制作費の得方が増えたりなど、業界が少しずつ変わっているように見えますが、フリーランスの待遇を変えようとは思っていないように思います。社内のみ労基のために改善するのであれば、社内にのみ予算がつぎ込まれます。このままの中途半端な改善でフリーランスが取り残されてしまえば、もっと状況が厳しくなるのではないかと危惧しています。(女性、30代、L/Oラフ原)

    日本のアニメが好きで、留学して日本のアニメ業界に入りました。でもなかなか好きな作品に携われないです。めちゃくちゃなスケジュールで画力を上げる時間(練習する時間)が確保できません。それで原画になれません。収入低いので、保険、年金どころじゃなくて、食費すら厳しいです。この状況は私たち外国人だけでなく、日本の方も同じです。この1年くらいだんだんよくなった感じですが、一般社会と比べてまだ差が大きいです。特に動画マンが辛いです。自分の努力不足がすべての原因ですかね。(男性、20代、動画)

    JAniCAは、「本調査結果を踏まえ、アニメーション制作者がともに課題や問題意識を共有し、 相互に理解を深めるのみならず、建設的な議論へと発展していくことが期待されます」とコメントしている。