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AbemaTVはニコニコといかに差別化するか? 将棋チャンネルから見るそれぞれの戦略

開局から1年が経ち、成長を続ける「AbemaTV」。動画配信の世界を引っ張ってきた 「niconico」といかに差別化していくのか。それぞれの特色を同じジャンルで比較した。

動画配信サービスの領域を切り開き、大きなシェアを占めてきたのは、ドワンゴが運営する「niconico」だ。

依然として存在感は大きいが、競合の増加に伴う勢いの低下を指摘する声もある。2016年末の決算では、プレミアム会員(有料会員)の数が、2006年のサービス開始以来初めて減少に転じた。

AbemaTVは、ニコニコの“次の時代”を作ろうとしているのだろうか? それぞれの今後の戦略は?

2つのプラットフォームの個性と違いについて考えるべく、「将棋」という同じジャンルにフォーカスして比較してみよう。

BuzzFeed Newsは、ニコニコ生放送とAbemaTVの将棋チャンネルチームと、プロ棋士の遠山雄亮五段に話を聞いた。

ニコニコが作ったネット×将棋の文化

将棋のネット動画中継という文化をゼロから作り上げたドワンゴ。コンピュータソフトと棋士の対局「電王戦」も主催してきた。

サービス全体で見ても、将棋ジャンルの存在感は大きく、川上量生会長は2013年に「ニコニコの三大コンテンツはアニメ、政治、将棋」と言及している。

ニコ生で初めて将棋関連番組を放送したのは2010年。将棋ソフト「あから2010」と清水市代女流の対局だった。視聴者の関心は高く、将棋をいちジャンルとして扱うことに手応えを感じたという。

反響を受け、日本将棋連盟の米長邦雄会長(当時)を中心にネット活用を推進。翌年にはタイトル戦のライブ中継が始まった。

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人工知能への関心が高まる中、マスメディアでも広く報じられ、将棋ファン以外からも注目を集めた。

2011年は年間で20番組、累計視聴者数100万人程度だったところ、年々成長を続け、2016年は年間150番組、1500万人になっている。

対して、AbemaTVの将棋チャンネルは2月に立ち上がったばかり。

開局当初から麻雀チャンネルを担当してきた塚本泰隆プロデューサーがチームを束ねる。麻雀好きの棋士、鈴木大介八段から「将棋のチャンネルもぜひ」という声かけがあって開設に至ったそうだ。

ニコ生と同じくタイトル戦や公式対局の中継をおこなうほか、最年少でプロ入りした14歳の藤井聡太四段が各世代のエースに挑むオリジナル番組「炎の七番勝負」を放送中だ。

羽生善治三冠との最終局を残し、現時点で5勝1敗という強さを見せている。公式戦でないとはいえ、ファンの注目は高い。

ニコ生が重視する「参加感」

どちらもチャンネルの主軸にあるのは、公式対局のライブ中継と、オリジナルの企画だ。

一見すると、なかなか差は出しにくいように思える。どんな特色があるのだろうか。

両運営に話を聞くと、ニコ生は「視聴者参加型」、AbemaTVは「より初心者向け、受け身でも見られる番組」を重視していることがわかる。

初期から将棋チャンネルの企画・運営に携わるドワンゴ広報部の松本晶子さんは「番組作りでこだわっているのは、視聴者と出演者のコミュニケーション」と話す。

視聴者からのコメントを積極的に拾うのはちろん、アンケートも活発に使用してリアクションを促す。

戦型や昼食、おやつの予想に加え、時には棋士の愛称をアンケートで決めることも。三浦弘行九段の「みうみう」、香川愛生女流の「番長」などはニコ生で決まり、ファンのあいだに広まった。

「運営側とファンが一緒になってうまく盛り上がると、“共通言語”ができる。ニックネームやお決まりの言葉が弾幕になって画面が埋まると一体感があります」

より初心者向け、テレビ的なAbemaTV

一方、AbemaTVは、コメントを取り上げて進行することは比較的少ない。

ライブ感もありつつ、初心者の存在を意識したひとつの番組として完成しており、テロップや図説なども含め、よりテレビ的な印象を受ける。

塚本プロデューサーは「AbemaTVの特徴のひとつ、各チャンネルを気軽に行き来できること。アニメやスポーツを見る人が、将棋チャンネルに目に留める可能性を考えている」と話す。

確かに、アプリ内でスワイプしてザッピングできるAbemaTVは特定のURLにアクセスするニコ生より、意図せず目にする確率が高そうだ。

将棋の知識がない人が見ることを前提に「そもそも、名人戦とは?」「挑戦者になるまでは?」など、将棋界の仕組みから解説。今どんな対局を放送しているのかが一目でわかるよう、画面に示す情報にも注意しているという。

ニコ生の番組は対局中継以外でもライブ配信が多いが、AbemaTVの第1弾オリジナル企画である藤井四段「炎の七番勝負」は事前収録。このあたりにも、番組作りへの姿勢の違いがあらわれている。

お互いの番組についてはどう感じているのだろうか。

「作り手としては、番組の性格、視聴者の楽しみ方などの部分で、大きく違いを感じています」と話すのは、ドワンゴの松本さん。

「1つのテレビの中でチャンネルを奪い合う時代ではないですし、ファンのみなさんにとっては、見るものが増えた、どちらも見る、という感覚では」

「将棋に関しては、収益というより、今見てくださっているユーザーの方を飽きさせないよう魅力的な番組作りに注力している。引き続き、将棋ファンの拡大にも貢献できればという思いも強い」

塚本プロデューサーは「ニコニコだけでなく、有料チャンネルや、テレビ棋戦を中継するNHKも含めてライバルとは捉えていない。将棋の楽しみ方を広げたいという目的は同じ」と話す。

「電王戦のような看板になりえる企画を目指すのではなく、ひとつずつの番組を丁寧に面白く作っていきたい」

「業界全体に危機感があるんですよね」

これだけ積極的な番組作りができる背景には、将棋連盟と棋士の協力がある。当事者としてはネットの盛り上がりをどう捉えているのだろう。

「ニコ生、そして電王戦でファンが増えた手応えは確実にある。特に若い層と女性が増えた」

「ニコニコの功績は本当に大きいが、コアなファンも多くなってきた。また違う場所で、違う層に向けて何かできればという思いで新たなチャンネルを立ち上げた」

将棋連盟の公式アプリなど、ネットを利用した情報発信に初期から関わってきた遠山雄亮五段はそう答える。

AbemaTVの将棋チャンネル開設は、ニコ生から“乗り換える”つもりではなく、将棋の魅力をアピールするチャンスをできるだけ増やしたいという狙いだったそうだ。

遠山五段はニコ生には「めちゃくちゃだけど愛のある企画力」、AbemaTVには「初心者向けも含めた王道の番組作り」を期待したいと話す。

「ドワンゴさんは、僕らだけでは絶対に出てこない視点の企画が多くて面白い。棋士で人狼をしたり、実際の車を駒に見立てて対局したり……バラエティ番組のよう。棋士のキャラクター性を理解してくださっているからこそ、ですよね」

「AbemaTVはまだ始まったばかりですが、王道の易しい解説番組を目指しているように見える。ユーザーには若者が多いと聞いているので、まったく将棋を知らない人にも興味を持ってもらうきっかけになれば」

予定調和を恐れない

棋士が出演する番組を見ると、将棋から離れたものも多い。伝統あるボードゲームである将棋界が保守的にならず、これだけネット発信に積極的なのには理由があるのだろうか。

「このままあぐらをかいていてもファンは増えない――業界全体にそんな危機感があるからだと思う。ただ勝敗を争うだけでなく、棋士個人に愛着を持ってもらうチャンスを作りたい」

「ネット活用のコツは、予定調和を恐れないこと。出演側が最初から予想できる範囲で収めても、視聴者も面白くないし、無茶振りに応える中で新しい可能性が生まれる。電王戦も、炎の七番勝負も、そういう姿勢だから実現できたと思う」


バズフィード・ジャパン ニュース記者

Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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