テレビCMがようやく「読める」ように!?「コマーシャルになると取り残された気分に」耳が不自由な人が感じてきた疎外感

    字幕が付いているテレビCMの割合は、わずが1パーセント。一方で、難聴を自覚する人は全国で「3人に1人」います。

    「CMになると、さっぱり理解できなくて、取り残された気分になる」

    テレビを観ながら、こんな思いをしている人々がいます。

    現在、テレビ番組は、耳の不自由な人などに配慮して、9割以上が字幕付きで放送されています。一方で、テレビ番組の間に流れるテレビCMについては、ほとんどに字幕が付いておらず、課題となってきました。

    しかし今、この課題にようやく変化が起きようとしています。

    この秋から全国のほぼ全てのCM放送枠で字幕が流せる仕組みが整備されました。さらに、企業のSDGsへの関心が高まっていることなども追い風になり、字幕付きテレビCMが徐々に増え始めています。

    難聴を自覚する人は全国で「3人に1人」

    字幕付きテレビCMとは、CM中に流れる音声や商品名などが画面上に文字で表示されるCMのこと。字幕は、リモコンの字幕ボタンを押すことで表示できます。

    字幕を必要としているのは、全国に約34万人いる聴覚障がいを持つ人のほか、耳が聞こえにくくなった高齢者など「難聴」を自覚する人。総務省によると、難聴を自覚する人は全国に約3400万人いると言われており、日本の人口の約3人に1人にあたります。

    このように多くの人が字幕を必要としている一方、字幕付きテレビCMの割合はほんの一握り。字幕付きテレビCMの放送は2010年から始まりましたが、日本民間放送連盟によると、その割合は2021年9月時点で推計わずか1.05%でした。

    こうした中、耳が不自由な人からは「字幕がないCMは内容がほとんど理解できず見飛ばしていた。内容がわからないので楽しめない」などと不便さや疎外感を訴える声が上がっていました。

    字幕付きCMの放送枠、ようやく全国へ拡大

    字幕付きのテレビCMが浸透してこなかったのはなぜか。

    背景には、広告主や広告制作会社の字幕付きテレビCMに対する認知度の低さ、字幕付きテレビCMの放送枠が限られてきたことなどがあります。

    こうした課題を受け、日本民間放送連盟、日本広告業協会、日本アドバタイザーズ協会でつくる字幕付きCM普及推進協議会は2014年から普及活動を開始。

    放送可能枠は2020年、関東エリア5局のみでしたが、他のエリアにも徐々に拡大。2022年10月、全国のほぼすべての放送枠で放送が可能となりました。

    放送枠拡大の効果はすでに表れ始めています。テレビCMに字幕を入れている日本ポストプロダクション協会(JPPA)によると、2021年4月〜9月にかけては237本だった字幕付きCMの数が、2022年の同時期には573本と約2.4倍増えました。

    ライオン、花王に続き、ユニ・チャームも

    近年は、SDGsや多様性への意識の高まりから、広告企業の字幕付きテレビCMに対する理解や関心も上がってきています。

    日用品大手のライオンと花王はいち早く字幕付きテレビCMの導入をしてきた企業です。両者とも2023年以降、すべてのテレビCMに字幕をつけるとしています。

    大手企業ではこの2社に続き、衛生用品やペット用品大手のユニ・チャームも12月7日、2023年12月までに国内で放映する全てのテレビCMを字幕付きへ順次切り替える発表をしました。

    同社の広報は、BuzzFeed Newsの取材に対して、取り組みの理由を「企業として共生社会の実現を掲げてきた。誰もがその人らしく生活できるような社会を実現するために、企業としてできることを考えた」と話しています。

    字幕付きCMを流すことは、耳の不自由な人の情報を得る権利を担保するだけではなく、企業にとってはマーケティングにおけるメリットもあります。

    字幕付きCM普及推進協議会による2022年の調査では、聴覚障がいを持つ人に字幕付きのCMを視聴してもらった結果、商品への関心や購入意向、企業イメージがそれぞれ約1.3倍〜1.4倍増えたことが分かっています。

    同協議会で運営委員長を務める沼澤忍さんは、字幕付きテレビCMのさらなる普及に向けて、「聴覚障がい者の皆さんがCMを通じて商品やサービスを理解できるようにすることは、SDGsやESG経営、マーケティングの観点からも重要で価値のあるものだということを、広告主の方々に引き続き丁寧に地道に訴求していきたい」としています。