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「この子が生きる未来のために」1歳の息子への愛が詰まった結婚式は、まさかの「カーボンニュートラル」だった

「自分たちの一つ一つの行動が息子たちが生きる未来に繋がっている」カップルが“家族3人”の結婚式に込めた思いとは。

​​ある男性が2022年8月、インスタグラムで結婚式を報告する投稿をしました。

普通の結婚報告かと思いきや、綴られていたのはちょっと見慣れない内容──「カーボンニュートラルな結婚式を実現しました」というもの。

カーボンニュートラルとは、「CO2排出量実質ゼロ」を意味します。

ふたりはなぜ、結婚式をカーボンニュートラルにしたのでしょうか。

そこには、幼い息子への深い愛情がありました。

結婚式を挙げたのは、東京都在住のマツさん(29)とマコトさん(28)。

2人は当初、2021年7月に挙式を予定していましたが、新型コロナの影響で延期を決めました。そんな矢先、マコトさんの妊娠が判明。翌年8月に長男・マツリくんが生まれました。

新型コロナの感染拡大が落ち着き、1年越しの結婚式の準備を決めた2人。

打ち合わせで式場を訪れたとき、「ドネーションウェディング」という取り組みを知ります。ゲストに渡す引き出物の代わりに社会貢献のために寄付をするというもので、欧米を中心に広がっているといいます。

そうした結婚式のあり方を知って、マツさんの頭に浮かんだアイデア──それが「カーボンニュートラル結婚式」でした。

息子に誇れるアクションを

マツさんは、環境負荷が低いスニーカーなどを販売するアパレルブランド「オールバーズ」で働いています。

普段から気候変動など環境問題について学ぶ機会が多い仕事。地球の危機的な状況を知れば知るほど、マツリくんの将来を案じるようになったといいます。

「このまま気候変動が深刻化すれば、桜が見られなくなったり、冬季オリンピックができなくなったり、僕たちが当たり前と思ってきたものがなくなってしまうかもしれない。そうなってしまったら、先の時代を生きる人間として、息子に誇れないなと思うようになりました」

同じ思いは、マコトさんも抱いていました。

「息子が生まれる前は、遠い先の未来はそんなに考えたことがなかったんです。でも今は、自分たちの一つ一つの行動が息子たちが生きる未来に繋がっているのだと強く意識するようになりました」

「息子に誇れるアクションを」「この子には、今と変わらない、今より素敵な地球を残してあげたい」──。夫妻が日頃から抱いてきた気持ちが、マツさんのカーボンニュートラル結婚式というアイデアに自然に繋がりました。

「大勢のゲストが集まる結婚式は環境へのインパクトも大きい。祝福を受けるだけではなく地球に還元できる方法はないだろうか、とかねてから考えていました。また、結婚式という特別な場だからこそ、僕たちのアクションがゲストなど関わる方に与えることのできるインパクトも大きいのではないかと思ったんです」

結婚式にまつわるCO2排出量を算出し…

マツさんは早速、カーボンニュートラル結婚式の実現のために動き出しました。

頼ったのは、企業が事業活動で排出するCO2量を計測するサービスを提供する企業。

結婚式の会場で発生するCO2のほか、参列するゲストが自宅から式場までの移動や宿泊で排出するCO2も計算してもらいました。

算出されたCO2排出量の合計は6,750キログラム。

この排出量を、CO2を吸収し酸素を排出する木を植林することによって相殺(差し引きゼロ)することにしました。前述の企業を通して、モンゴルにカラマツを27本植林。30年後には、結婚式でのCO2排出量と同等の量のCO2が吸収される計算だといいます。

こうしたカーボンニュートラル実現にかかった費用は、ゲストの引き出物にあてる費用の一部を使いました。

一方、マツさんは、「僕たちが作ったカーボンニュートラルな結婚式が唯一の答えでも、必ずしも正しいことだとも思っていません」とも話します。

「僕たちは結局、CO2排出量を相殺しているだけで、実際は気候変動を悪化させる温室効果ガスを排出してしまっています。だから、本当に環境のためを思えば、究極的には結婚式自体をしないほうがいいのかもしれない。そんな中で、今私たちができる範囲でのポジティブなアクションを検討した結果、この形で実現することになりました」

“発信”に込めた思いは?

夫妻は、自分たちのアクションについて、披露宴のビデオメッセージやインスタグラムでの投稿で、周囲に発信もしました。

発信にはこんな思いを込めたといいます。

「一つにはやっぱり、なぜ僕たちがカーボンニュートラル結婚式をしたのかという理由を知ってもらうことを通して、気候変動に対して進んでアクションを取りたいと思ってくれる人がいたら嬉しいなと。もう一つには、結婚式みたいに楽しくて幸せな場でも気候変動へのポジティブなアクションが取れるんだということを知ってもらいたい、という思いがありました」(マツさん)

こうした発信に、周囲からは「2人らしい結婚式だった」「列席することで地球に貢献できている気持ちにもなった」などの声が届いたといいます。

「息子がいなかったらこんな結婚式にはならなかったと思う」と話すふたり。将来、成長したマツリくんに結婚式のことをどう伝えたいと考えているのでしょうか。

マツさんは言います。

「もしかしたら彼が大人になる時代には、カーボンネガティブ(編注:CO2排出量よりも吸収量が多い状態のこと)が当たり前で、カーボンニュートラルなんてもう古いと一蹴されてしまうかもしれませんが…。でも、もし僕たちのカーボンニュートラル結婚式が誇れるアクションとして彼の心の中に刻まれならば、いつか話して聞かせてあげたいなと思っています」