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これからは隠さず「魅せる」。ある補聴器ユーザーが起こしたおしゃれ革命

ある補聴器ユーザーの女性が「補聴器をもっと気軽でポジティブにしたい」という思いで、全く新しいデコ補聴器を開発しました。

あるツイートが1万2千リツイート、2万6千いいねを集め、話題になっている。

補聴器ユーザーは、隠したいと思う人が多いんだよね。むしろほとんどと言って良いくらいかもしれない。目立たないように…見られないように…って。 聞こえない事をも隠そうとする人もいる。 私にとってのデコ補聴器・デコチップは「世の当たり前」を変えていきたい希望や夢、意志そのものなんよ。

投稿されたのは、キラキラとした装飾や繊細なデザインが施され、一見すると補聴器であることがわからないほど可愛らしいデザインの補聴器用着せ替えチップの写真。

つけられたコメントには、デコ補聴器・デコチップを「希望や夢、意志そのもの」という熱い思いが綴られている。

そもそもデコチップとは?

デコチップとは補聴器・人工内耳用の着せ替えチップのこと。厚み1mm、重さ1gほどの薄型で、補聴器の側面にネイルチップ用の両面テープで貼り付けて使用する。

従来も、補聴器をデコレーションする製品はあった。しかしそれらは、補聴器本体に直接貼り付けたり塗装したりするもので、補聴器の修理や買い替えた時にはやり直しになってしまう。

この悩みを解決するべく取り外しを可能にしたのが、デコチップだ。ネイルチップのように取り外せるため、TPOに合わせて補聴器の着せ替えができる。

デコチップの開発の背景には、一人の補聴器ユーザーの存在があった。

このツイートをしたのは松島亜希さん。生まれつき重度の感音性難聴で、1歳半頃から補聴器を着けている。なぜ彼女はこの商品の開発を始めたのだろうか。

松島さんはキャンプ施設でアルバイトをしながら、兵庫県宝塚市の里山を拠点に自然塾「いころ」の運営しているという。

幼いころから山の中で遊びながら育ってきたため、「生粋の野生児」だという。大学時代は、NPO団体に所属し、子ども相手のレクリエーションキャンプのリーダーを務めていた。その頃から、子どもたちと接する機会が多かった。

仕事で子どもと接していると、子どもの視線が耳に向き、パッと目をそらされる事が多かったという。

「親から『じろじろ見てはならない』と教えられていたんでしょう。子どもなりに気にはなるけど我慢しているようでした」

補聴器をもっとポジティブに

補聴器を見られることや耳のことについて聞かれることに抵抗は全くないが、必要以上に気を遣われていると常に感じていた。

その頃から松島さんは「補聴器は特別なものではない。補聴器も含めてが、私自身である」と思っていたという。

「補聴器をもっとポジティブで気軽なもの、『なんか、それイイね』という話題を引き出せるものにできないかなと考え始め、デコレーションする事を思いつきました」

「生活していたら、仕事もプライベートも、時には悲しいこともある。シーンに合わせて補聴器の装いも手軽に変えたいという思いから、着せ替えチップの開発を始めました」

補聴器の専門家との出会い

考え始めた段階からデコチップのイメージは頭に浮かんでいたという松島さん。しかし、それを形にするための道のりは試行錯誤の連続だった。

「マニキュアを補聴器に試験的に垂らしてみたところ、補聴器を溶かしてしまう大失敗をしました。個人の補聴器をこれ以上壊してしまっては元も子もないと思ったし、ゆくゆく商品化して多くの人に届けるためには、他人の補聴器を取り扱うため責任も生まれると気づいたんです。そして補聴器の専門家と連携しなければ、と思い始めました」

松島さんはSNSで、開発の協力者を探すようになる。その中で、ひときわ熱意を感じられる人がいた。それが西部補聴器で働く、認定補聴器技能者の北村美恵子さんだった。

2019年4月、松島さんからデコチップ開発の話を持ちかけ、共同開発が始まった。

開発の過程では、薄く軽くすることはもちろん、デコチップを機器につける際にマイク集音機能を落とさない工夫や、ハウリング対策、操作性や電池ボックスの開閉への配慮など、様々な工夫を凝らした。

補聴器ユーザーのみならず、人工内耳ユーザーも含めた複数人のサンプリングモニターの協力を得て、いろんなタイプの補聴器、人工内耳での装用チェックをして改良を進めた。

ついに、販売開始

その後サンプリングモニターの試用期間を経て、2019年7月からデコチップの販売を始めた。

9月18日にはデコチップのブランド立ち上げの話がまとまった。

ブランドの名前は「彩希(あき)~Beautiful Ear~」。松島さんの名前に「彩」と「希」の字をあてて、「彩りで希望を。美しい耳元に」という思いをこめた。

販売を始めたばかりだが、現在固定デザイン3枚、オーダーメイド2枚をすでに販売したという。松島さんはデコチップに込めた思いを、こう語る。

「補聴器は既製品を購入することがほとんどですが、デコチップを使うことでオリジナルになります。オーダーメイドでは、世界で一点物の補聴器に仕上げることができます。補聴器が必要だけれど抵抗のある方や、他人と同じものを身につけたくない方にもおすすめです。一枚ずつ手作業で製作しており、一度購入すれば繰り返し使用できる点もおすすめです」

補聴器ユーザーに自信と希望、夢を。

これまでに製作したデコチップの種類は、補聴器・人工内耳あわせて50種類ほど。デコチップのユーザーの年齢は最年少が小学生、最年長は80代と幅広い。利用者からの反応は上々だ。

「周りから羨ましがられる」「あまり使いたがらなかった子が進んで装用するようになった」「補聴器をつけていることが楽しくなった」「見られる事をポジティブに考えられるようになった」など、補聴器ユーザーであることに自信を持てるようになったといった声があったという。

また、「大きくて目立つ耳掛け式補聴器に対するイメージアップ」もという声もあったという。

一般的に大きくて目立つため敬遠されがちな「耳掛け式の補聴器」にしたいと考える人が増えたのだ。「耳穴式補聴器から、耳掛け式補聴器に変更してデコチップを購入しようとしている」という声もあった。

また「これまでは聞こえないことを隠そうとしてきたが、着飾る事を通じて『聞こえません』と言おうと決意した」や、「聞こえない事から必要とする配慮のお願いをしにいく勇気を出すキッカケになった」といった、聞こえないことに対してポジティブに向き合えるようになったという、聴覚障害自体に対する向き合い方にも変化をもたらしているようだ。

「目立つことを『逆手』にとって、おしゃれに」

完成したデコチップをどんな風に使ってもらいたいか。という問いに、松島さんはこう答える。

「着せ替えデコチップは、補聴器が大きければ大きいほど映えます。耳掛け式補聴器は、耳穴式補聴器と比べて大変目立ちますが、それを逆手にとっておしゃれに取り入れて頂きたい。ぜひコレクションして、補聴器もファッションの一つとしてシーンに合わせて装いを変えることを楽しんでいただけたらうれしいです」

「『おしゃれ』で革命を起こしたい」

松島さんと二人三脚で開発に取り組んできた認定補聴器技能者の北村さんは、補聴器ユーザーと関わるようになって10年間、耳が聞こえなかった人が補聴器をつけて笑顔を取り戻していくのを見てきた。しかし一方で、「難聴」を重く考えている人がとても少なく、一人で我慢を重ねている人も多い現状を感じてきたという。

「補聴器をつけている事が当たり前になっていく事で、社会の中にある難聴に対する偏見や意識も変えていけると信じています。見えない障害だからこそ、魅せて楽しむ事で補聴器のイメージをポジティブに変えていきたい。この補聴器デコチップで、補聴器業界にも、ユーザーの心にも、『おしゃれ』で革命を起こしたいです」

「補聴器をよりステキで身近で当たり前な存在に」

松島さんは今後の展望についてこう語る。

「補聴器への恥ずかしい、みっともない等のマイナス感情からか、必要でも装用を拒み、人知れず悩む方も多いんです。個人の差はあれど、耳が聞こえにくい、聞こえない状況は、みんなが通る道です。補聴器を使っている事を1つのカッコ良いステイタスのように感じられる世の中にしたいです。長年の補聴器ユーザーとして、デコチップを使うことで、補聴器をよりステキで身近で当たり前な存在にして、多くの人に楽しんでいただけたら、という気持ちと夢を込めています」

また松島さんのこうした取り組みの原点は、みんなが幸せに明るく暮らせるための社会づくりへの思いだという。

そのために、「小さな部分と大きな部分を同時に育てていかなくてはならない」と思っているという松島さん。

松島さんの活動は、運営する自然塾「いころ」やデコチップに留まらない。

日本バスケットボール男子代表監督で僧侶でもある上田頼飛さんとコラボし、年に1度のデフバスケットのチャリティーイベントなどで、障害者と健聴者の垣根を取り払う取り組みをしている。それによって、聴覚障害者に特化した部分の幸せづくり、居場所作りを目指しているという。

「デコチップを含めたこれらの活動の積み重ねで、みんなが笑顔で幸せに暮らせる社会作りを目指していければと思います」

デコチップの固定デザイン(色の変更は可能)の販売はこちらから。

フルオーダーメイドの販売は個別にデザイン画のやり取りが必要になる為、メール注文にて受け付けている。(西部補聴器・北村さんメールアドレス:seibu1207@mimi11.com)

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