「伝統は変えられないけど、女子相撲の未来は変えられる」土俵に立つ女子たちの想い

    彼女たちが夢する晴れ舞台は大相撲なんかではない。オリンピックなのだ。

    「土俵から降りてください」と人命救急していた女性にアナウンスがあったことで物議を醸した、大相撲の女人禁制。

    日本だけではなく、海外からも大きく注目される中、女子相撲の国際大会が4月15日、大阪府堺市で開催された。

    6回目となる「国際女子相撲選抜堺大会」には日本以外にもタイや台湾、香港と海外選手たちも含めて約70人のアマチュア相撲の選手が参加していた。

    神事である大相撲とは別にスポーツとして土俵で相撲を取っている彼女たちは、「女人禁制」騒動をどう見ていたのか。

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    「大相撲とアマチュア相撲は別のもの」

    国際大会を主催している日本女子相撲連盟の竹内晋さく理事長(「さく」は山冠に乍)は、「大相撲とアマチュアは別のもので、とやかく言える立場じゃない」と前置きした上で、今回の大相撲の騒動を「残念だなとは思うけど、どうしようもない話」と話す。

    「アマチュア相撲では男も女も関係なしで土俵に上がれますから、もうはっきり言ってね、『同じ土俵に男が上がれない、女が上がれない』と言うことは、もう世界のスポーツとしては多分通用しないんですよ」

    アマチュア相撲で「女性は不浄だから土俵に上がれない」という概念は存在するか聞くと「そんなことは思ったこともない」と竹内理事長は断言する。

    「生理やらで不浄だからって言うじゃないですか。おばさんはみんな、『じゃああんた誰から産まれてきたん?』て言うのを何回も聞いたことある。うまい切り返しだなと思う」

    オリンピックの正式種目として認められるよう男女平等の競技になることを目標に1996年に立ち上がった日本女子相撲連盟。

    当初は、怪我して顔に傷がつかないように土俵にマットを敷いていたが、やがて男子と同じく普通の土俵で取り組むようになっていった。

    もともと短パンの腰位置にまわしが縫い付けられていたが、自然に男子と同じく普通にまわしをしめる女子が増えていき、レオタードの上からまわしをしめるのが主流となった。

    女子の相撲に対する真剣さで徐々にルールが変わっていった。

    着衣、そして競技時間が男性成人クラスと比べて2分短い以外は、男子のアマチュア相撲のルールと変わらない。

    彼女たちが上がれない土俵は国技館と靖国神社の土俵だけだ。

    女子選手が勢いよくぶつかり合う姿を見ながら、竹内理事長はつぶやく。

    「試合を見るとね、女性も男性もやっぱり人間で一緒だなというふうに思うようになってきた、最近」

    自身も相撲を取っていた竹内理事長は、女子の負けん気と迫力に驚嘆している。

    「男よりもっと真剣なんですよ。柔道やレスリング経験者からの転向が多く、それらの技を相撲の技に変えて使いますから、新しい技を作ってくれますわ。男性の場合はレスリングや柔道からの転向っていうのが少ないんですよ」

    「女子がいなかったら、アマチュアの相撲は国体からも排除されそうなくらい厳しい」と竹内理事長が話すように、相撲にとって今では欠かせない存在となっている。

    多くの選手たちは、「大相撲とは関係ない」と自分たちのスポーツを切り離しているため、大相撲と同じ土俵に上がりたいという気持ちも特にないという。

    彼女たちが夢する晴れ舞台は大相撲なんかではない。オリンピックなのだ。

    海外の相撲選手の想い

    現在、世界87ヶ国で男女の選手がおり、着実に国際化に向かっているアマチュア相撲。

    相撲を完全にスポーツとして取り入れている海外にとって、女人禁制の騒動は「伝統だとわかるけど」と複雑な気持ちを抱く人も少なくなかった。

    軽量級のジャルピン・スリブーンルアン選手はタイ出身。タイで相撲が広まってから20年以上経っているという。

    タイのムエタイなどの武術とはまた違う武道として、夢中になる選手も多く、最近では国のスポーツ機関に加盟したばかりだ。「伝統だとは理解しているけど、相撲では女性も男性もあまり変わらない」と話す。

    香港の相撲協会創立会長・麥耀祥さんは、日本女子相撲連盟が立ち上がる前から、香港の女子に相撲を取ってみるよう呼びかけていた。

    女人禁制という伝統を重んじているのは「日本の大相撲だけ」と見ており、アマチュア相撲で女性が土俵に上がることはまったく問題ない話す。

    しかし、今回の騒動で「女子に『相撲は男性のもの。私たちはやってはいけない』と印象付けてしまったのではないか」と危惧している。

    「私たちは今、21世紀に住んでいる。大相撲は目を世界に向けなければいけない。数百年前の昔とは違うんです。しきたりも大事だけど、変化も受け入れないといつか伝統は止まってしまう」

    台湾から参加した中華民国相撲協会の秘書長・李俊儀さんは「日本の相撲伝統だから、自分たちが正しいかどうか言える立場ではない」と話しつつ、人命よりも伝統を選んだ判断は「カルチャーショック」だったと話す。

    「今後は、国際スポーツとして、男女関係なく土俵に上がれるようになれれば」

    柔道から相撲に転向した香港の麥家寶選手は、国際相撲連盟の運動委員会も務めている。

    15年以上も相撲を取っている彼女は柔道にないスピードの速さに魅了され土俵に立ち始めた。

    「柔道の試合だと、3〜5分くらいですが、相撲だと10秒で終わってしまう。勝っても、『もう終わったの?』と思うくらい速いんです。瞬時に物事を決めなくちゃいけないのがすごく楽しいです」

    土俵の女人禁制については「大相撲とスポーツである女子相撲はまったく別の基準を持っている」という見方をしている。

    「アマチュア相撲が注力しているのは国際化で、オリンピック競技の種目に選ばれることがゴール。スポーツだからこそ、私たちには阻むものがありません」

    男子も女子も全員アマチュア相撲選手になれる。国内外の選手たちは、スポーツとしての相撲の可能性を見出し、相撲選手の人口を増やす活動をしている。

    「伝統は伝統だから変わることはできない。でも、女子相撲は変わることができる。私たちは、相撲の未来を見ているんです」