中国のヒップホップ禁止令 ファンの声「2017年がヒップホップの元年だったのに」

    「自分がさらに成長して強くなって、制限を才能で打ち破っていくしかない」

    中国政府は1月19日、ラップ歌手や入れ墨のある芸能人をテレビやラジオの番組に出演させない方針を示した

    ヒップホップが中国に現れ始めたのは、1990年前半。常に政府による規制の対象となっていた。

    近年だと、政府は2015年8月に「社会に悪影響を及ぼす」音楽120曲を禁止した。ブラックリストに登録された曲の多くは中国のヒップホップだった。

    アンダーグラウンド文化として生き延び、反体制的なメッセージではなく快楽主義を重視した歌詞に変化していったヒップホップ。

    2017年6月に配信をスタートした、ラップバトルのオンライン番組「Rap of China 中国有嘻哈(訳:中国にはヒップホップがある)」は、最初のシーズンで30億人もの視聴者数を記録し、大ヒットとなった。

    この番組をきっかけに、若者ブームとしてネットで沸騰していた。

    「2017年は中国のヒップホップの元年」とファンの間で盛り上がっていたその数カ月後に起きた、政府による規制。悲しみや怒りを隠しきれない声、ラップへの希望を捨てずに熱い想いを語る声が相次いでいる。

    テレビから次々と"消えていく"ラップ歌手たち

    中国全土のテレビや新聞、出版社などを管轄する国家新聞出版広電総局の高長力局長は1月19日、「入れ墨のある芸能人やヒップホップ文化、サブカル文化、喪の文化」は「低俗で悪趣味」として、番組で扱わないように求めた。

    2017年末には、中国で人気のラップ歌手・PG Oneが2015年にリリースした曲「クリスマスイブ」が、薬物使用や女性蔑視の表現を使っている、とネット上で批判の的になった。

    今年に入ってからも、中国共産主義青年団などが「青少年に麻薬を教唆する可能性がある」とWeiboで警告した。国営メディアも次いでヒップホップを批判。

    PG Oneは1月4日に謝罪したが、作品のネット配信は停止されている。

    また、国家新聞出版広電総局が方針を発表した前日18日には、別のラップ歌手のニュースがネットで騒動になっていた。

    Weiboで400万人のフォロワーを持つ人気ラップ歌手・GAIが湖南テレビの音楽系リアリティ番組『歌手』から理由なしに急遽外されていたのだ。

    TIME誌によると、湖南テレビの公式YouTubeアカウントからGAIが映っている動画は、予告編を除いてすべて削除されている

    ほかにも、ラップ歌手たちが番組や動画配信サイトから外されたり、ヒップホップスタイルの象徴のようなネックレスが番組でぼかされたりしている。

    ヒップホップファンの想いとは

    GAIが番組から外されたのを受けて、彼のWeibo公式アカウントには、ファンからの応援の声が寄せられている。

    「番組を離れた原因が何であっても、これからもGAIの音楽に注目し続ける。良い歌をたくさん作って、ポジティブなヒップホップが超イケてることを見せてくれ!頑張れGAI。みんなを失望させちゃダメだ」

    「またビッグになった時はびくびくしないで、中国のヒップホップを祝う。またいつかみんなの前に戻ってくることを信じている。アンダーグラウンドなヒップホップにはもう二度とならない。GAIは英雄!」

    また、禁止令で中国でのヒップホップカルチャーの成長が滞ってしまうと、怒りと悲しみを見せる人々もいる。

    「2017年が中国のヒップホップの元年となって、やっと社会でヒップホップを聴く楽しみが理解されてきたばかりなのに、歌手たちが徹底的に封殺されるなんて……」

    「ヒップホップをそんなに嫌うのはなぜ?ヒップホップは、自分がどうあるべきか、真実を保つことを教えてくれた。そんなヒップホップ歌手たちをこのタイミングで封殺しなきゃいけないのか」

    中には、諦めずに前を向くしかないとラップで想いを綴る人も。

    「俺たちはなんとかして前に進む。ラップが死ぬことなんてない。お互い励まし合って一緒に頑張らなければ。良い音楽を作っていくしかない」

    「中国でヒップホップにとって良い環境になることを希望している。でも、彼らはまだ尊重や平和を理解できていない。この現実を変えるために、誰も手助けをしてくれることはない。自分がさらに成長して強くなって、制限を才能で打ち破っていくしかない」