犬の殺処分ゼロ目指す日本最大NPOに捜査が入った理由 PWJ全頭引き受けの現場

    3年で殺処分ゼロ達成の裏に、3000頭を超える犬の保護が。

    犬の殺処分ゼロに取り組む認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」が6月25日、狂犬病予防法をめぐり、広島県警の捜査を受けたと発表した

    難民支援に始まり、日本最大級の犬の保護団体でもあるPWJで何が起こったのか。

    始まりは災害救助犬の育成

    PWJは難民支援を目的として1996年に設立され、その後、国内の被災者支援、過疎地域の再生などに活動を広げてきた国内最大規模のNPOだ。

    犬の殺処分ゼロを目指す事業「ピースワンコ・ジャパン」を始めたのは、捨て犬から災害時の救助犬を育てられないかという発想からだった。

    「人の命だけじゃない」

    捨て犬や野生犬が集められる県の動物愛護センターを訪ねた大西健丞代表理事は、そこで、二酸化炭素で窒息死させられる殺処分の残酷な実態を知った。

    「守らなければならないのは、人の命だけじゃない」(大西氏)

    準備期間をへて、2013年に始めたのがピースワンコ。本部のある広島県神石高原町を中心に約7万平方メートルの用地に日本最大級の犬の保護シェルターを建設し、2018年6月現在、約2400頭を飼育している。

    全国ワーストから殺処分ゼロへ

    広島県は2011年度に犬・猫を合わせた殺処分数が8,340頭(犬2,342頭、猫5,998頭)で、全国ワーストを記録していた。飼い主が捨てたり、野生で生まれ育ったりした犬猫が動物愛護センターに集められ、窒息死させられる。

    PWJはそれらの犬を処分前にセンターから引き取り、病気であれば治療し、散歩や餌やりなど人間と触れ合う訓練をし、引き取り手を探して譲渡してきた。

    2013年に始まったピースワンコ事業によって、広島県の殺処分数は急減。2016年度からゼロを達成している。

    冷暖房完備、動物たちの楽園

    保護とは名ばかりの狭く不衛生な施設に押し込むのではなく、犬舎には冷房や床暖房が設置され、併設した医療施設で常駐の獣医が検査や治療にあたる。運動不足を防ぎ、散歩の訓練をするためのドッグランも設けられている。

    犬の世話をするスタッフは89人。ボランティア登録者は300人以上で、常時約70人が散歩などの手伝いに来ている。

    牛やヤギなど「人間に殺されそうになったいろんな動物」(大西氏)が飼育されている広大な敷地を散歩する姿がいたるところにある。

    莫大な経費を支える寄付

    犬にとって快適な環境を保つために、経費も莫大だ。2017年度の主要な支出だけで、以下のようになっている。

    • 犬舎の光熱費や譲渡センターの維持費:7800万円
    • 犬舎の建築や譲渡センターの開設費など:2億3900万円
    • スタッフ人件費、事務所運営費:2億4200万円
    • 医療費:9100万円
    • 餌代など:4400万円


    これらを、ふるさと納税と会費や寄付金でまかなう。知名度が高く、大規模事業の運営ノウハウがあるPWJならではの手法だ。

    「最後までできるだけ幸せに」

    全国ワーストだった広島県での殺処分をゼロにするため、県内の愛護センターからほぼ全ての犬を引き取った結果、受け入れ頭数は2015年度161頭、16年度1392頭、17年度1810頭と急増した。

    引き取った段階で健康状態が悪かったり、野生で育って人に慣れていなかったりする犬もいる。治療や訓練をし、譲渡するまでには時間がかかる。

    PWJに来たときにすでに高齢で、シェルターで一生を終える犬もいる。「そういう犬も処分されるのではなく、最後までできるだけ幸せに生きて欲しい」とシェルター担当マネージャーの安倍誠さんは話す。

    譲渡される犬だけでなく、引き取り手のない高齢の犬も、散歩や餌やりなど大切にされている。

    想定を超えた保護頭数

    今回、広島県警が捜査に入ったのは、狂犬病の予防注射に関するものだ。PWJによると、想定を超えるスピードで保護頭数が増えたことで、昨年度、一時的に注射が追いつかない事態が発生した。

    殺処分をゼロにするためには、愛護センターからほぼ全ての犬を引き取る必要がある。それだけの犬舎を揃えたとしても、2000頭を超える犬に注射をする獣医が足りなかった。

    PWJでも問題を認識しており、捜査が入った2018年6月の段階では、外部の獣医の協力を得て、全頭への予防注射を完了させたという。

    「受け入れなかったら、殺される」

    今回、警察の捜査を受けたことで、県議会などで管理体制を疑問視する声が出る可能性がある。その結果、愛護センターからPWJへの引き渡しが一定期間でもストップすれば、センターの収容数の限界から殺処分が再開されるかもしれない。

    大西代表理事は管理体制が十分ではなかったことを認めた上で、こう話す。

    「想定を超える受け入れ数になり、現場が大変になることはわかっていた。それでも全頭を受け入れてきたのは、そうしないと殺されるから。一時的に注射が追いつかなかったのは事実で、反省をしている。その上で、これからも受け入れ続けるために体制は強化した」

    譲渡数は年間500頭越えへ

    実際にPWJでは今も犬舎の増設が進み、人員体制を強化した。

    PWJの保護シェルターから全国の里親への譲渡数も年々増えている。2015年度は107頭、16年度は198頭、17年度は348頭、今年度は500頭が目標だ。

    引き取り希望者は広島県内や関東にある譲渡センターでスタッフと面談し、スタッフが家庭訪問をして飼育可能かを確認した上で譲渡している。

    譲渡数の増加とともに、保護頭数の増加にも歯止めがかかる見通しだという(里親になりたい方はこちら)。