Updated on 2018年11月22日. Posted on 2018年11月22日

    「ネットに詳しい人」が騙される ある日殺人犯にされた芸人が語るnetgeekとデマ

    netgeekをめぐり、事実と異なる記事で炎上させられたと集団訴訟の動きも進む。デマはどう広がり、どう人生を狂わせるのか。スマイリーキクチさんに聞いた。

    事実に基づかない記事で人を炎上させてきたニュースサイト「netgeek」。名誉毀損で訴える集団訴訟の動きも広がる。BuzzFeed Newsはデマによって追い詰められた経験のあるお笑い芸人のスマイリーキクチさんに話を聞いた。

    「記事を書いた人は、炎上によって、書かれた人の人生が狂うことがわかっているでしょうか。一人の人生だけじゃない。その人には家族も友人もいる。一つの記事で何十人もの人生が狂う。そのことを知ってほしい」

    太田プロダクション提供

    「あいつを憎もうという感情の拡散」

    お笑い芸人として、テレビや舞台で人気だったキクチさん。ある日、全く関係のない殺人事件の犯人だとネットに書き込まれた。

    その情報を信じた人や、面白がった人が書き込みを広げ、デマは拡散した。所属する太田プロにまで中傷はおよび、芸能活動や日常生活まで脅かされた。

    netgeekをめぐっては、事実と異なる記事が拡散し、誹謗中傷を受けるなど被害を訴える人たちが集団訴訟を検討している。一方で、サイト運営者の実名や住所がネットに掲載された。

    キクチさんは自分の経験も重ねながら、こう話す。

    「拡散するのは言葉じゃない、感情です。喜びや悲しみ、特に怒りの拡散率がすごい。あいつを憎もう、差別しようという感情の拡散です」

    「デマの量もスピードも圧倒的に」

    「今はネットの情報で物事を判断することが普通です。誰かの評価も、アマゾンでの買い物も。根も葉も無い噂でも、拡散したら真実に化ける。情報を受け取った人は、発信者が誰かを調べないままに、悪い噂を書かれた人の方を憎む」

    「スマートフォンが増え、誰でも簡単に情報を発信できる。1億総ジャーナリスト状態で、自分で調べたわけでもないことを書き込む。僕に関するデマが拡散した頃と比べて、デマの量もスピードも圧倒的になりました」

    「情報の発信源は昔のようにネット掲示板じゃなくて、今回のようにニュースサイトを名乗っていることもある。どれを信じたらいいのか、わからない人にはわからない。鵜呑みにしてしまう人もいます」

    「事実と異なることを書いて、人を炎上させて、お金を稼ぐ。『デマの産業化』ですね。直接殴ったわけでもない。大したことないと思っているかもしれない。でも、書かれた人たちの人生を狂わせている。情報を拡散する人たちもです」

    「ネットに詳しい」人が思い込んでしまう

    最初に事実と異なる情報を発信する人の狙いは様々だ。思い込み、誰かを貶るため、いたずら心......、炎上して記事が読まれれば広告費を得ることもできる。

    では、それを拡散してしまう人は、なぜ、そんなことをしてしまうのか。キクチさんは自分が被害にあって以来、本を書いたり、講演をしたりしながら、自分と同じようなケースについて学んできた。

    「デマ情報で『悪い奴がいる』と怒って拡散してしまう人に根拠を聞くと『ネットに書いてある』と言う。誰が発信者か調べず、ネットの情報を疑わない。デマを信じてしまう人の特徴です」

    もちろん、ネットには正しい情報もある。間違った情報もある。キクチさんが指摘するのは「自分はネットのことをわかっている」と思う人こそ危ない点だ。

    昨年、東名高速の死亡事故で無関係なのに容疑者の勤務先というデマ情報の被害にあった建設会社。その会社に寄せられた謝罪の手紙には「自分はネットに詳しいと思っていた」という趣旨の言葉が書いてあったという。

    「私に関するデマをネットで拡散していた人が10年前に供述していた言葉と一緒なんです。『自分はネットに詳しい』『メディアには騙されない』。そういう思い込みがある人が、ネットの書き込みを信じ込んでしまう」

    竹書房 / Via amzn.asia

    いつまでも消えないネットの書き込み

    「デマを発信したり、拡散したりした人は『1回書いただけ』という軽い気持ちかもしれない。でも、その情報は残り続ける。今日書いた記事やコメントが1日後でも、1週間後でも、ずっと残り続けて、それを読む人にとっては『初めて知った』情報になる。そうやってデマが残り続け、書かれた人は苦しみ続けます」

    「ネットに書かれると、その悪評は消えないんです。たとえ間違った情報でも。消すには裁判をするしかないけれど、裁判で勝っても全ては消えない。時には実際に身を守る必要すらある。私の家はずっと警官が見回ってくれています。それぐらい影響が残る」

    「書かれてしまった人のことを思うと、かわいそうとしか言いようがない。助けられるなら、助けたい。とにかく、気を落とさないようにと言いたい。自分はまだ運が良かった方だと思います。担当してくれた警察官が良い方で、周りも支援してくれた」

    そう語るキクチさんだが、ネットにnetgeek運営者の名前や住所がアップされ、運営者に対する攻撃的な言葉が拡散していく状況にも懸念を示す。

    「やられたらやり返すとばかりに相手の名前や住所をネットに公開して攻撃したら、喧嘩のようになり、民事でも刑事でも裁判まで左右してしまいます。被害者が我慢するのは酷だけれど、やり返すのではなく、自分が幸せになることが一番の仕返しになる。そうやって前に向かってください」

    それが、ネット上のデマで苦しみ続けたキクチさんがたどり着いた結論だ。


    バズフィード・ジャパン シニアフェロー

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