ハリル氏「会長は何も問題を指摘してくれなかった」 クビ理由の「コミュニケーション不足」とは

    すれ違いはどこで起こった?

    本番わずか2か月前。突然、任を解かれたかつての指揮官は、予定の時間を大幅に超え、こう繰り返した。


    「何が起こっているのかわからない」

    「問題があったのなら、(会長は)なぜ問題があると言ってくれなかったのか? そんな話は一度もなかった」

    4月27日、ヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督が、「自ら解任について語りたい」として、都内で会見を開いた。

    協会側から事前に問題の指摘などコミュニケーションがないまま、一方的に解任されたことについて、「リスペクトを欠いている」などとハリル氏は協会側の対応を批判した。


    「コミュニケーション問題」とは?

    日本サッカー協会の田嶋幸三会長は9日の会見で、「コミュニケーションや信頼関係が多少薄れた」ことを解任理由としていた。

    その件について、ハリル氏は問題はなかったという認識だ。

    2月の段階では長谷部、吉田、長友ら欧州組の主力とも「円滑なコミュニケーション」を取っていたという。しかし、解任直前3月の遠征で、事態が急変。その理由はわからず、今のところハリル氏が把握しているのは、「2人の選手が不満を持ち、会長とコミュニケーションを取っていたようだ」という情報だけだ。

    「コミュニケーションというが、意味が広すぎる。具体的に誰と何の問題があったのか、教えていただきたい。再来日してからも、多くの人と話をしましたが、私の知らないところで、知らないことが起きているような気がします」

    ハリル氏が思い当たるのは、23人のメンバー選考に絡む、選手たちの思惑だ

    「厳しいパフォーマンスも見られた。今までやって来た選手に代わる選手はいないかと考えていた。そこに競争の原理を取り入れ、ベテランのお尻を叩いて、今まで以上に頑張ってもらえるようにした。だが、それに満足していない(人も)色々あった」

    それが、不満を持った選手の会長への直訴に繋がったという見立てだ。

    ハリル氏も黙ってはいない。

    選手とのコミュニケーションに問題がなかった証拠として、「ヴァイッドとコミュニケーションの問題はなかったと思っています」という槙野智章(浦和)から解任後に寄せられたメッセージを紹介。さらに、在任中たった2回しか召集されていない丹羽大輝(広島)が、解任後、わざわざ広島から飛行機に乗って「ありがとう」と伝えにきたというエピソードも明かしている。

    4月7日の解任劇については、こう振り返る。

    ###

    4月7日、会長の方からパリへと呼び出された。私は何のことかわからず、ホテルへ出向きました。「こんにちは」と挨拶し、腰掛けると「ハリルさん、これでお別れすることとなりました」と切り出されたんです。最初は「ジョークだろ」と思いました。

    1分経って、「なぜか」と問うと、「コミュニケーション不足」と返ってきました。怒りが湧きました。

    「どの選手と?」と問うと、

    「いや、ジャパン的に……」という答えでした。

    5分経って、部屋から出ても、気が動転して一体何が起こったのかわからなかった。

    イングランドとドイツに、選手の視察に行っているコーチに電話をしました

    「うちに帰りなよ。もうすべて終わったから」

    コーチたちの反応がどうだったかは、ご想像にお任せします。

    ###

    事前に協会からの警告や問題提起もなく、ハリル氏にとっては、青天の霹靂、寝耳に水だったようだ。

    親善試合の結果が解任に繋がったのでは、との考えには、ブラジル、ベルギーに敗れた2017年11月の欧州遠征も、「信頼関係が薄れた」とされる3月の遠征についても、「本番のための準備で、結果のことはあまり頭にはなかった」とハリル氏は反論している。

    本番2か月前という解任のタイミングも、ハリル氏を落胆させた。「(2017年12月のE-1選手権で)韓国戦に負けたあとなら、私もまだ理解できていたのに、なぜ今…」と本音を漏らした。

    「なぜ」という嘆きが繰り返される会見。結局、解任に至った決定的な理由が何なのかはわからないままだ。

    日本への思い

    しかし、日本への思いは、変わらない。

    「私は日本の永遠のサポーターです。まっすぐな性格なので、いろいろなことを混ぜることはできない。今まで関わってきたチームとも、親密な関係を築いてきた。忠誠心は失わず、日本の選手たち、スタッフたちと心が通っていると信じている。これからもずっと頑張ってください。心からの答えです。リップサービスではありません」

    会見の最後は、300人以上集まった報道陣にも、こう言い残した。

    「どうか記事を書くみなさん、客観的に書いてください。私のことをどう言っても構いませんが、日本代表は今、窮地に陥っています。W杯は、サッカーの世界では、これ以上ない舞台です。お願いです。どうか彼らに準備の時間を与えてください。いい試合、いいW杯を過ごしてほしいのです」