透き通るような肌に、ほっそりとした華奢な体。でも、視線は強い。13歳でデビューしてから17年。少女は、今も変わらぬ若々しさと成熟した落ち着きが同居する女性に成長していた。

「グループではなくソロだったから、頼る人もいませんでした」

韓国からやってきたアーティストとして日本、そして世界へと活躍の場を広げてきたBoAは、そう言って微笑んだ。

強がりの笑みじゃない。30代になった彼女からは、経験が生む力を感じる。

通訳もいないままの日本デビュー

デビューのきっかけは、偶然だった。12歳のときに、オーディションを受ける兄についていって、自分が大手芸能事務所からスカウトされた。

2000年に13歳で韓国デビュー。その前から日本進出が決まっており、単身ホームステイして日本語を学んだ。日本デビューの翌日から、日本語でインタビューがあった。

話したいことが、話せない。韓国のアーティストが今ほど世界に展開する体制も整っていない時代、まだ通訳もいなかった。

「外国語で自分を表現するのって本当に難しいんです。結構なエネルギーを使うし...」

質問を投げかけると、ハキハキと答える。頭の回転の速さを感じさせるけれど、それでも彼女にしてみれば、母語ではない言葉。来日当初は、電子辞書を肌身離さず持ち歩き、ひたすら勉強する日々が続いた。

日本に来てまだ間もない頃、彼女が初めて日本語で作詞した曲がある。

あおいそらはいつもおなじで こどくなふしぎさね
かなしみもさびしさもすべて かくしているみたい

うそでもねえ ほほえむことはすてきなことね
涙だけが すなおにないている
(『MOON & SUNRISE』)


まだ漢字が分からずひらがなで想いを綴った。「涙」だけは漢字で書かれている。

家族と離れた14歳の少女は、華やかなスポットライトを浴び、ファンに笑顔を見せながらも、葛藤を抱えていた。

ストイックさが支えた成功

彼女の日本での活動は記録づくめだ。

韓国人歌手として初めて日本でアリーナコンサートツアー、2002年には外国人歌手として最年少で紅白へ、その後6年連続で出場した。

デビューから6枚目までのアルバムは、すべてオリコン週間アルバムチャート1位。歴代女性アーティスト史上2位の記録だ。

現在はチャートだけでなく、よりよい音楽を届けることに一アーティスト、制作者としてやりがいと楽しさを感じているという。

インタビューの準備のために、衣装を変えてメイクをしている最中も、スタジオ全体に響くほどの声量で歌を練習していた。どこまでもストイック。

常に新たなことに挑戦したく、韓国、日本だけにとどまらず、2008年に『Eat You Up』で全米デビュー。日本で大きな成功を掴みながら、再び新境地でスタート地点に立った。

「沢山のことを学びました。物事って自分が大変だと思うほど大変になるし、自分が大丈夫って思えば、世の中が明るく見えてくるんです」

味わった苦労も、淡々と話す。

2014年には主演映画『Make Your Move』でハリウッドデビュー。昨年は韓国の大型オーディション番組『プロデュース101 シーズン2』でMCを務めた。

華やかな道を走り続け、迷いがないようにすら見えるBoA。そんな彼女が、胸中を吐露している曲が2月14日に発売されたアルバムの中にある。

「私このままでいいのかな...」

新アルバム『私このままでいいのかな』のコンセプトは「大人女子の人生の選択」。

気づいたら周りはもう
私を叱ってくれない
何がいけない 教えて ねえお願い

聞きたくないけど
聞かなきゃもう 変われない
(『私このままでいいのかな』)

「私、30代になったら絶対結婚してると思っていました。だけど結婚って甘いもんじゃないですね」

「でもまあ、私はまだ仕事が好きなので、今は仕事を最優先にした決断しかできないんですけどね。30代になってからは焦らなくなったし、変に哲学的になっちゃいました」

「仕事」「結婚」「人間関係」、人生の大きな選択を迫られる30代。BoAも、同世代の女性と同じような悩みや焦りを抱えていた。

「10代20代の時は徹夜しても平気で仕事を頑張れていたのに。30代になってから、疲れや寝不足がすぐ顔に出るようになっちゃって...肌も乾燥するし。たまに点滴打ったりもしています。人前に出る人間として、今は睡眠時間を死守しています(笑)」

すっかり大人の女性になったBoAが、時折、顔をくしゃくしゃにして笑う。飾らない言葉で私生活を話す表情には、デビュー当時のあどけない面影が残っていた。

「自分と誰かを比べても何の意味もない」

17年間、ステージに一人で立ち続ける。その力はどこから生まれるのか。

「自分と他人を比較しないことです。何を求めて比べるの?自分が持ってないものを見て羨ましがるためなら、それはネガティブなこと。自分が他人よりも優れていることを知りたくて比較するのも、自己満足でしかないですよね」

「自分と誰かを比較して、無意識的にでも優劣を感じてしまうことが、自信をなくす始まりだと思ってます」

「自分の幸せを大事に」同世代の人へ

単身日本にやってきて、孤独や痛みを押し殺していた少女の姿はもうない。

「一人の人間として、大事にしてることは自分の幸せです。忙しい日々に巻き込まれた時、自分を助けてくれることは何なのか、昔も今も変わらず探し続けています。最近は、外で運動することですかね。基本的にスタジオ内での仕事が多いので、自然の中で身体を動かすってこんなに気持ちいんだって今さら気付きました」

そういって、自然な笑顔を浮かべる。

他の誰も経験しないような10代を経て、気がつけば同年代の女性が持つ等身大の悩みを抱える自分に気づいた。

そんな彼女に、同世代の人へ伝えたいことを聞いた。

「どんな選択も、満足する人生を生きるための一歩だったと思って欲しいです」

歌手デビュー、海外進出、日本語で苦労したこと。周囲の環境にどれだけ影響されたとしても、結局は自分で選びとってきたこと。

自分が幸せになるために。

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※この記事は、Yahoo! JAPAN限定先行配信記事を再編集したものです。

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