反ワクチン論を唱える動画がYoutubeのリコメンド枠に

    「最も説得力のあるコンテンツとは、最もセンセーショナルなコンテンツ」

    国会議員たちからの圧力や、全米で麻疹が大流行している事態を受け、Facebookは、反ワクチンのコンテンツがアルゴリズムでユーザーにリコメンドされないよう取り組むと発表した

    だが、健康情報の収集先として人気が高まっているYouTubeでは、検索ボックスに「子供に予防接種を受けさせるべきか」など、予防接種関連のワードを入れると、検索結果や「あなたへのおすすめ」にかなりの頻度で、「ワクチンは危険で有害だ」とする動画が表示される。

    例えば、BuzzFeed Newsが2月中旬、パーソナライズされたデータや視聴履歴と結びつかないYouTubeのセッションで、「予防接種」という検索ワードを入れたところ、検索結果の最初に出てきたのは、Rehealthifyというチャンネルの、「ワクチンは特定の病気から子どもを守るのに役立つ」と訴える動画だった。だが、この動画が終わってYouTubeが「次の動画」として最初にリコメンドしてきたのは、ラリー・クックのチャンネルが公開している「ワクチンについて調べ、その恐ろしさを知って、予防接種を受けないことにしたある母親」という動画だった。ラリー・クックは、反ワクチン派に人気のウェブサイト、StopMandatoryVaccination.comの運営者だ。

    ワクチン摂取を推奨するRehealthifyの動画を再生したあと、YouTubeがリコメンドしてきたのは、反ワクチン派の親が証言するStopMandatoryVaccines.comの動画だった

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    この動画では、シャナ・カートメルという女性が、白血病は予防接種の副作用であると書かれた本を読んで、子供にワクチンを摂取させないことにしたと語っている。

    (感染症にかかったことのある子どものほうが白血病のリスクが低いとする研究結果はいくつかあるが、予防接種が白血病のリスクを高めるわけではない。実際、2017年に発表されたある研究では、予防接種と「白血病リスクの低下」に相関性があることがわかっている。反ワクチン運動の人気は高まっているが、科学的には、ワクチンは安全で、自閉症を引き起こすこともないというのが広く認められている見解だ。)

    動画の中でカートメルは、「私だって、昔から子供に予防接種をうけさせないぞと思っていたわけではありません。でも、どこかのタイミングで始めなければならないのです。この道を進むのならば、道を辿っていき、その先どうなるのかを確かめてみてください」と語っている。「子どもが100%安全だと確信できないのに、そのゲームに参加させますか? すぐに“参加させる”と答えられないのならば、一旦止めてみるべきです」

    カートメルの証言のように誤解を招く動画がYouTubeでリコメンドされていることがなぜ問題なのかと言えば、健康情報をYouTubeで調べる人たちが実際にいるからだ。そしてGoogleは、そういったユーザーの存在を把握している。

    2月はじめに行われたGoogleの決算発表で、スンダー・ピチャイCEOは、「YouTubeには、エンターテインメントを求めてくるユーザーだけでなく、情報を求めてくるユーザーもいます。彼らは何かを学ぼうとYouTubeにやってくる。新しいことを知り、リサーチしようとしているのです」と述べた。

    ピュー研究所による最新の調査では、ニュースや情報を求めてYouTubeにアクセスしているユーザーは全体の半数以上にのぼるという結果が出ており、ピチャイCEOの発言を裏付ける形になっている。

    カリフォルニア州選出のアダム・シフ下院議員は2月中旬、FacebookとGoogleの両方に書簡を送り、反ワクチンコンテンツの問題に対処するよう申し入れた。

    ピチャイCEOに宛てた書簡の中で、シフ議員は次のように述べている。「親が子どもに予防接種を受けさせるのを妨げるようなメッセージをYouTubeが上位に表示し、リコメンドしているということは、公衆衛生にとって直接の脅威であり、ワクチンで予防できる疾病への取り組みでなされてきた進歩を止めるものだと懸念している」

    だが、Facebookがこの書簡に応え、「健康に関する誤った情報をFacebook上で広めないための措置」を取ると発表したのに対し、YouTubeはこれまでのところ公には反応していない。

    米下院エネルギー商業対策委員会は2月下旬、公聴会を開き、ワクチンで予防できる疾病の再出現という懸念について手段を講じる予定だ。フランク・パロン委員長はBuzzFeed Newsに対して、「YouTubeのアルゴリズムが陰謀論めいた動画を前面に押し出し続け、それが誤った情報を拡散し、最終的には公衆衛生を損なうことになっているのは許しがたいことです」と語った。「2月下旬には、太平洋岸北西部で集中的に流行している麻疹についての公聴会を開き、証人として出席する公衆衛生の専門家らと意見交換を行います」

    この問題についてBuzzFeed Newsが報じた後、YouTubeは1月はじめにブログを公開し、陰謀論に対処するためリコメンドのアルゴリズムを調整すると発表した。そして、有害で誤った情報の拡散を食い止めるよう取り組んでいると述べている。

    YouTubeの広報担当者は、BuzzFeed Newsに対してメールで次のように語った。「YouTubeでは過去1年間にわたり、サイト全体として信頼性の高いニュースソースがより上位に表示されるように取り組んできました。ユーザーに誤った有害な情報を伝える可能性のある、きわどいコンテンツや動画のリコメンドを減らし始めていますし、インフォメーションパネルを導入して、より多くの情報源を提供し、ユーザーの皆さんがご自身で情報のファクトチェクをできるようにしています。アルゴリズム変更の多くがそうですが、こうした取り組みの効果は徐々に出て来るものであり、時間の経過とともに精度が増していくはずです」

    しかし、現時点ではYouTubeのアルゴリズムが、反ワクチン動画に有利に働いているとは言えない。BuzzFeed Newsが2月14日に行った最初のテストでは、「子どもに予防接種を受けさせるのは安全か」や「ワクチンは安全か」といったワードで検索した結果のうち3分の2強で、トップに表示された動画は、ジョンズ・ホプキンス大学によるこちらの動画や、メイヨー・クリニックのこの動画など、専門医療機関からの動画となった。

    これらの動画の後にリコメンドされたのは、エンターテインメントチャンネル「Jubilee」がアップロードした、ワクチンに関するディベートの人気動画について、有名医師のマイク・ヴァルシャヴスキが語る動画だ。2月6日に投稿され、現在までに200万回以上視聴されているこの「ドクター・マイク」の動画の後には、ドクター・マイクによる、さらに人気の高い動画がずっとリコメンドされた。

    だが、「子どもに予防接種を受けさせるべきか」と検索して、信頼のおける情報源やエンターテインメントが表示されることがあった一方で、まったく同じ検索ワードが誤解を招く情報につながることもあった。あるとき「子どもに予防接種を受けさせるべきか」と入力すると、YouTubeはフィラデルフィア小児病院の「子供が学校に通い始める前に予防注射が必要な理由」という動画を再生したのだが、その後におすすめされたのは、「ワクチンについて調べ、その恐ろしさを知って、予防接種を受けないことにしたある母親」だった。

    続いてリコメンドされたのが「iHealthTube」の「子どもに予防注射を受けさせる前にこの動画を観てよかったと思うはず!」だった。その後には3本連続で、反ワクチン活動家の医師、シェリー・テンペニーやスザンヌ・ハンフリーズをとり上げた動画が続いた。

    「小児病院が予防接種を勧める動画」のあとすぐ2本目にYouTubeがリコメンドしてきたのが、「VAXXED TV」の反ワクチン動画だった

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    前回から4日後にBuzzFeed Newsが行った2度目のテスト(この時も、パーソナライズデータのない新しい検索セッションを使った)では、そうした結果がさらに顕著になっていた。「子どもに予防接種を受けさせるのは安全か」や「ワクチンは安全か」といった検索ワードを入れた16回の検索のうち、上位の検索結果から専門の医療機関(ジョンズ・ホプキンスメイヨークリニックライリー小児病院)の動画をクリックしても、「予防接種やワクチンを避けるしかない理由をママが語ります」といった反ワクチン動画をクリックしても、その次におすすめされるのは常に、反ワクチンコンテンツとなったのだ。

    これら16回の検索のうち、ほぼ毎回「次の動画」の最上位にリコメンドされたのが、例のシャナ・カートメルによる反ワクチン動画(現在の視聴回数20万1000回)か、iHealthTubeの「ワクチンは必要ないし、危険が潜んでいる!」(現在の視聴回数10万6767回)だった。その後に決まっておすすめされるのは、反ワクチン活動家のスザンヌ・ハンフリーズ医師がウェストバージニア州で証言している動画(現在の視聴回数12万7324回)だった。

    このハンフリーズ医師の証言動画を投稿しているのが、VAXXED TVというチャンネルだ。BuzzFeed Newsが行った16回の検索すべてで、YouTubeは最終的にVAXXED TVの動画を繰り返しリコメンドするようになった。VAXXED TVのチャンネル登録者数は5万4000人。ワクチン反対派として悪名高いアンドリュー・ウェイクフィールドが監督し、2016年に公開されたあるドキュメンタリー映画のプロモーションチャンネルを自称している。

    この映画は、「2014年に発表された、MMRワクチン(麻疹・おたふく風邪・風疹の混合ワクチン)と自閉症との関連を示す研究に関するデータを、米国疾病予防管理センター(CDC)がいかに破壊したか」を明らかにすると主張するものだ。ポリー・トミーとブライアン・バローズがプロデュースしたこの映画は、2016年のトライベッカ映画祭での上映が中止され、オーストラリアでのプロモーションツアーを行ったあとには、制作チームの1人が同国から入国を禁止された。

    それでも、この映画は支持を集めている。制作チームは支援サイト「Indiegogo」を使い、続編の制作費として現在までに8万6000ドルを集めている。

    VAXXED TVによるYouTube動画の横にあるインフォメーションパネルには、「MMRは、麻疹・おたふく風邪・風疹の混合ワクチンです」という文言と、MMRワクチンに関するウィキペディアページへのリンクがある

    ワクチン接種関連の検索を行ったあとに、YouTubeのアルゴリズムが頻繁にリコメンドしてきたVAXXED TVの動画には、「スザンヌ・ハンフリーズ医師が明かすメルク(製薬会社)の薄汚れた秘密」「化学薬品が匂ってくるようだった」「誰も私に警告してくれなかった!」「彼らも知っているのに」といったタイトルが並ぶ。

    このうちの2つの動画(「誰も私に警告してくれなかった!」と「化学薬品が匂ってくるようだった」)は、MMR(麻疹・おたふく風邪・風疹ワクチン)にはっきりと触れたものだ。動画の説明文に明確にMMRと書かれているので、YouTubeはインフォメーションパネルを追加してMMRワクチンは何のためのものなのかを説明し、詳しい情報源としてウィキペディアのリンクを張っている。こうした情報は、気候変動の否定や、月面着陸は捏造だといった、YouTubeでよく見られる陰謀論動画には明示されているが、反ワクチンコンテンツにはそれほど行き渡ってはいない。

    2月19日および20日に追加で行った25回の検索テストでは、VAXXED TV動画のリコメンドはなかったが、代わりにYouTubeが何度も勧めてきたのが、ドクター・マイクのエンターテインメント動画とJubileeによる動画だった(「Real Truth About Health」チャンネルの「自閉症は1943年まで存在していなかった?」という動画など、いくつか外れ値もあった)。

    チャンネル登録者数250万人のJubileeがアップロードしているのは、「人と人をつなぎ、従来の考え方の枠を超え、愛を目覚めさせる」ための動画だという。ワクチン論争に関するJubileeの動画「ワクチン賛成派VSワクチン反対派:あなたの子どもは予防接種を受けるべきか」は、2週間前に投稿されて以来、現在までに190万という視聴回数を稼ぎ出している。BuzzFeed Newsによるテスト検索の結果にも頻繁に表示されるこの動画は、ワクチンが安全かどうか明確に述べるものではない。

    モジラ・ファウンデーションでコンピューターを使ったプロパガンダの研究をしているレニー・ディレスタは、BuzzFeed Newsの取材に対して、「ソーシャルプラットフォームでは常に、情熱の非対称性という問題があり続けてきました。最も説得力のあるコンテンツとは、最もセンセーショナルなコンテンツなのです」と語った。

    「私たちが置かれているメディア環境では、本人が語る物語や証言が非常に大きな影響力を持っており、人々はそうした体験を求めてYouTubeにアクセスします。人気の動画ブロガーたちは、カメラを見つめてあなたに向けて、自分の1日や、何かの製品について語ってくれる。これは、人に訴えかける力が大きいコンテンツなのです」

    YouTubeにアップされている反ワクチン動画は、この基準に当てはまっている。どの動画も感情に訴えるところがあり、親が登場して、病気になった自分の子どもについて語るものも多い。さらに、陰謀論的な要素もある。政府と医療専門家が共謀し、ワクチンと特定の病気との関連性を伏せているという理論には、視聴者が集まり、議論が沸き起こる。そうなると、こうした動画はYouTubeのリコメンド・アルゴリズムにとっては格好の注目対象となる。アルゴリズムは、ユーザーのエンゲージメントを見つけ出し、それを餌とするものだからだ。

    こうした有機的なアルゴリズムによって検索上位に表示される仕組みには、たとえ優れたコンテンツであっても勝てない場合がある。「ごく普通の人たちが、ワクチン接種に賛同する動画を作るコミュニティ」が自然に発生するようなことはない。また、予防接種すれば防げる病気で子どもを亡くした親たちが集まって話をしたりリンクを共有したりする巨大なFacebookグループも存在しないからだ。

    モジラ・ファウンデーションのディレスタは、「(YouTubeの)ポリシーチームは今後、どんなコンテンツをリコメンドしたいのかを決定しなければならないと思います」と述べた。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:半井明里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan