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「サイと密猟者、そしてサイを守る人たちの、知られざる戦いがある」ーー動物「サイ」を巡る厳しい現状をわかりやすく紹介した児童書「環境ノンフィクション この世界からサイがいなくなってしまう アフリカでサイを守る人たち」が話題だ。NHK記者・味田村太郎さんがアフリカ現地を取材したノンフィクションで、今年の「第68回青少年読書感想文全国コンクール(小学校中学年の部)」の課題図書にも選定された。
この数十年でアフリカのサイの数は激減しており、専門家によると、あと20年でアフリカからサイがいなくなってしまう可能性があるという。原因は、角を狙った密猟だ。
本書では、そんなサイの置かれた厳しい現状を中心に、命がけで守るレンジャー隊、傷ついたサイを必死に治療する獣医師、科学の力でサイを救おうとする学者らの取り組みを紹介。
今回は、その中からサイの悲しい現状を知ることができる第2章「いま、 アフリカで起きていること」の一部を出張掲載する。子どもはもちろん、大人にも響く内容となっている。
味田村太郎『環境ノンフィクション この世界からサイがいなくなってしまう アフリカでサイを守る人たち』(学研プラス)
第2章 いま、アフリカで起きていること
かなしみを乗りこえて
南アフリカでくらしはじめて、すぐに気づいたことがあります。大きなショッピングセンターで、サイを保護するための募金活動や絵の展示などのイベントがよくおこなわれていたのです。車に「セイブ・ザ・ライノ(サイを救え)」などと書かれたステッカーがはられているのも見かけました。日本にいたときから「南アフリカは野生動物の保護に熱心な国」というイメージがありましたが、それにしてもサイの保護をうったえる声があちこちで聞かれました。
サイをめぐっていったい何が起こっているのだろうと思い、わたしは地元のジャーナリスト、専門家 、そして保護活動にあたっている人たちなどに次つぎに話を聞いてみました。すると、サイをめぐるかなしい事実がわかってきました。南アフリカをはじめとして、アフリカ各地で多くのサイが、ひそかに狩られていることが明らかとなってきたのです。
アフリカでは1970年からの25年間で、7万頭いたクロサイが2400頭にまで減ってしまいました。南アフリカでもシロサイを中心に過去10年間におよそ8千頭ものサイが犠牲になりました。
国立公園や保護区内の野生動物を許可なく狩ることは、法律で禁止されています。こうした法律に違反してひそかに狩りをすることを「密猟」といいます。貴重な野生動物の命を人間が自分勝手にうばう許されないおこないです。また、密猟をする人のことを「密猟者」といいます。調べていくと、こうした密猟者のねらいが、サイの角であることがわかってきました。
サイの密猟の実態をさらに調べるため、わたしは実際に現場に足を運んで取材をしていくことにしました。
わたしがまずむかったのは、南アフリカ東部にある民間の動物保護区でした。ここの責任者で、熱心なサイの保護活動家として知られるリン・マクタビッシュさんに話を聞くためです。
リンさんは、となりの国のジンバブエ出身の女性です。14才のころ、南アフリカに移住しました。貧しい家庭でしたが、野生動物を守る仕事をしたいと、一生けん命に勉強して大学に進学し、環境について学びました。そして20年以上にわたってこの自然保護区で、野生動物の専門家として活動し、責任者も務めてきたのです。
リンさんの保護区は広さが5000ヘクタール(50平方キロメートル)ほどです。南アフリカにある保護区のなかでは小さいほうですが、それでも東京ドームが1000個以上入る広さです。50種類以上の野生動物がここでくらしています。なかでもリンさんがお気に入りだったのが、サイでした。リンさんの車で保護区を案内してもらいます。2時間ほど走ると、運よくシロサイの親子が50メートルほどはなれたしげみの中にいるのを見つけることができました。2頭とも草を食べていました。
わたしたちが車を止めると、子どものサイがしげみから顔を出し、不思議そうにわたしたちのほうをながめます。すると大きな母親サイがのしのしと歩いてきて、その横に立ち、わたしたちのほうからは子どものサイが見えなくなってしまいました。
密猟者に知られないよう、ここでくらすサイの数は公表されていませんが、リンさんはその一頭一頭に名前をつけています。この親子のサイの名前も教えてくれました。「あの母親はレインです。そして子どものストームは生まれていま6か月なの。サイは、本当にユニークな動物です。サイのいないアフリカ大陸なんて考えられないわ。」
サイのことを語るとき、リンさんの声ははずみ、本当にサイが好きだということが伝わってきます。
おおらかなリンさんでしたが、取材中、泣きだしたことがありました。大切なサイを殺された経験を話したときです。
2014年10月1日早朝。リンさんはいつものように朝のパトロールに出発しました。どろやぬかるみなどがある、舗装されていない道でも走ることができる車で保護区を回りながら、動物たちの様子を観察します。
そして、リンさんはすぐに異変に気がつきました。保護区のまわりには、外から侵入者が入ってこないよう、電気フェンスが張られています。しかしその日は、電気が通っていなかったのです。
リンさんは、ただちに車に積んでいた無線機でほかのスタッフたちに連絡しました。
「フェンスの電気が切られている。密猟者が侵入したかもしれないわ。サイが無事か、すぐに調べましょう!」
スタッフたちと手分けして、広い保護区を車で調べます。30分後、とつぜんリンさんの手元にある無線から大声がひびきました。
「サイが死んでいる! 密猟者にやられた!」
リンさんは、ついに、最もおそれていたことが起きてしまったと思いました。リンさんたちの近くの保護区でもここ4、5年、次つぎにサイがおそわれていました。
(いつかは、自分たちのところもおそわれるかもしれない。)
リンさんはずっと心配していたのです。
現場にかけつけると、1頭のサイがうずくまったまま死んでいました。それは、リンさんがウィニーと名付けた6才のメスのサイでした。無残にも角が2本ともうばわれていました。
「いったいだれが、こんなひどいことを。」
リンさんは泣きだしてしまいました。
※本書では、実際には多くの漢字にふりがなが振られています。また、難しい言葉や名詞には注釈で説明がされています。ページによっては、文章のイメージを補完する写真等が掲載されている場合があります。