まさか本当に信じられてる…？学会誌で報告された謎の生物「鳩人間」がぶっ飛んでる

1300種類以上の東北にまつわる怪異や妖怪を収録した「日本怪異妖怪事典 東北」を紹介。

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都道府県ごとの異様な現象や体験、妖怪などを研究した異色の辞書「日本怪異妖怪事典」（笠間書院）シリーズをご存知だろうか。

ベストセラーとなった「日本現代怪異事典」で知られる朝里樹さんが監修を務め、全国各地の専門家たちがその土地の怪異や妖怪を調べ尽くした一冊だ。

今回はそんな本書の東北版の中から、青森、山形、福島を中心とする怪異や妖怪を担当した寺西政洋さんが奇妙に感じた話「鳩人間」を出張掲載する。

寺西さんはブログサイト「【妖怪図鑑】 新版TYZ」を運営し、「日本現代怪異事典　副読本」では妖怪のイラストを寄稿するなど、イラストレーターとしても活動している。

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『日本怪異妖怪事典 東北』（笠間書院）

笠間書院 / Via amzn.to

監修：朝里 樹

著者：寺西政洋／佐々木 剛一／佐藤 卓／戦狐

鳩人間（はとにんげん）

この写真はBuzzFeedによるイメージ写真であり、本書には収録されておりません / PIXTA

　『山形民俗』第8号（平成6年）に掲載された高橋敏弘によるコラム「鳩人間と言う怪物」で紹介されている山形県の妖怪。

　鳩人間は山形市松波で古くから伝承される妖怪だという。魔界の使いで、人間が脳髄を鳩のものと入れ替えられ誕生したとされる。魔物の手にかかった鳩は巨大になり「コレダモンナ」と鳴く。人間の意識と動物の狂暴性を持ち合わせ、怒り狂うと村を破壊する一方、動物が好きな人や子どもには危害を加えないという。鳩人間の全長は50メートルほど、羽ばたきは一瞬で木造住宅を吹き飛ばし、口から吐く怪光線にあたったものは爆発するか溶けてしまう。

　伝承地は山形県だが、元は九州の福岡に出たものだともされている。江戸時代、夷隈梅之助という侍がオランダの医師に手術を施され、鳩の脳を移植された。目覚めた彼は己の姿を見て怒り、大暴れして福岡を破壊した。福岡にいた商人・武田毅麿は山形に逃げ帰り、故郷の人々にこの事件を語った。だが誰にも信じてもらえず、実際に福岡では何も起きていなかったという。

　執筆者の高橋は調査のため「現地にいって聞きまくった」結果、何人かの古老から「昔聞いたことはある」との答えを得たというが、情報提供者の氏名などは記されていない。民俗学会誌の掲載記事とはいえ、このような古来の伝承が存在するとは俄（にわ）かには信じられず、鳩人間は鵜呑（うの）みにし難い。おそらく執筆者による創作的要素が多分に含まれていると思われる。妖怪を扱う書籍等で紹介される機会はほぼなかったが、近年では児童書『みちのく妖怪ツアー』（佐々木ひとみ、2018年）に言及箇所がある。

　高橋は『西郊民俗』『山形民俗』などにたびたび山形の妖怪に関する報告文を寄せているが、月ほどある巨大な火の玉「月火」猛スピードで飛行する首の妖怪「ふっ飛び坊さん」頭が3つで3メートルのトカゲのような「花子さん」明治頃まで触手で人を襲っていた「ブヨブヨしたピンク色の怪物」民家を踏み潰す10メートルの巨大ガマ「ガイラーゴ」など、奇天烈（きてれつ）とさえいえる存在が数多く紹介されている。

＜寺西さんの解説＞

今回の事典に収録した奇妙な妖怪の筆頭です。江戸時代、侍が外国人医師の陰謀で鳩の脳を移植され誕生した妖怪で、身長は50メートル、はばたきや口から吐く怪光線で村を破壊しますが、動物好きな人や子供には優しいそうです。
初出となる資料の執筆者は「古老たちに話を聞いた」と言い張っているのですが、流石にそんなわけないだろうというぶっ飛んだ内容です。民俗学の研究会が発行する会誌に載っている情報なので（なぜ載ってしまったんだ）つい信じそうになるわけですが、眉を唾でベチャベチャにして読む必要があります。

鳩人間のことを考えると、妖怪の創作性とか、研究倫理とか、「コレダモンナ」ってなにーーとか、いろいろなことが気にかかって頭がぼーっとしてくるのでオススメです。

『日本怪異妖怪事典 東北』（笠間書院）には、まだまだ1300種類以上の東北にまつわる怪異や妖怪を収録している。

他にも、本書に収録されている中から、寺西さんオススメの怪異・妖怪を聞いたので紹介する。購入した方は、ぜひチェックしてみてほしい。

＜寺西さんオススメの怪異・妖怪＞

★狸の化物（山形県）

山形県にある「犬の宮・猫の宮」の由来譚に出てくる妖怪です。村人に生贄を要求したことから名犬と死闘を演じたすえに退治されるのですが、その怨念は蛇となって蘇り、今度は猫の捨て身の行動により葬られる……という、スリリングで胸が熱くなる妖怪退治の伝説なのです。

他にも、1000人以上の討伐隊と狐になった妖術使い・室石将監との対決、陸に上がって人を食う大蛸と青森県艫作の村人との対決、出羽地方を荒らして数万人の死者を出した悪鬼の王・麤乱鬼と神の対決など、アツい戦いが盛りだくさんです。ぜひ未知のボスキャラをいろいろ探してみてほしいですね。

『日本怪異妖怪事典 東北』（笠間書院）は、全国の書店やAmazonで好評発売中。

笠間書院 / Via amzn.to

「日本怪異妖怪事典」は、古代から近現代まで、地方で語られた伝説、伝承、民話、神話、昔話などから、怪異妖怪、不思議な話を収集し、地方別で紹介する事典シリーズ。日本の文献に登場する怪異妖怪のうち、出現した地域、またはその怪異妖怪の物語が伝承されている地域が東北地方であるものを「青森」「岩手」「宮城」「秋田」「山形」「福島」の県別に分け、さらに、複数県で伝承が確認できるもの、県境に伝わるもの、県が特定できないものを「広域」、芸能・絵画作品、児童書ほか創作された可能性が高いものを「その他」にそれぞれまとめ、五十音順に紹介。北海道編と関東編も発売中。監修：朝里 樹。著者・寺西政洋、佐々木剛一、佐藤卓、戦狐。

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＜寺西政洋（青森県、山形県、福島県、東北広域、その他担当）＞

イラストレーター。1992年生まれ。主要な関心分野は妖怪と怪獣、カレーパン、サングラス。別名義にtera、寺西まさひろ、筍道人など。ブログ「【妖怪図鑑】新版TYZ」にて妖怪の絵と解説を公開中。各種イベントや映像制作の際に妖怪画・デザインの提供も行う。2007年、角川書店「『怪』大賞」優秀賞受賞。『日本現代怪異事典　副読本』（笠間書院）にイラストを寄稿。

＜朝里 樹＞

怪異妖怪愛好家・作家。1990年、北海道に生まれる。2014年、法政大学文学部卒業。日本文学専攻。現在公務員として働く傍ら、在野で怪異・妖怪の収集・研究を行う。著書に『日本現代怪異事典』（笠間書院）『日本のおかしな現代妖怪図鑑』（幻冬舎）『日本現代怪異事典 副読本』（笠間書院）など。

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Jun. 02, 2022, at 09:21 AM

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