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背筋が凍る。岩手に伝わる「ゾッとする話」が想像以上にえげつなかった

1300種類以上の東北にまつわる怪異や妖怪を収録した「日本怪異妖怪事典 東北」を紹介。

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都道府県ごとの異様な現象や体験、妖怪などを研究した異色の辞書「日本怪異妖怪事典」(笠間書院)シリーズをご存知だろうか。

ベストセラーとなった「日本現代怪異事典」で知られる朝里樹さんが監修を務め、全国各地の専門家たちがその土地の怪異や妖怪を調べ尽くした一冊だ。

今回はそんな本書の東北版の中から、岩手県を中心とする怪異や妖怪を担当した佐々木剛一さんが最も恐ろしいと感じた話「滝沢の淵」を出張掲載する。

佐々木さんは、不思議な体験の舞台にもなっている岩手県遠野市を中心に、ネットなどでは知られていない独自の貴重な怪異を集めている。

日本怪異妖怪事典 東北』(笠間書院)

滝沢の淵(たきざわのふち)

 岩手県花巻市大迫町(おおはさままち)亀ケ森の袖子森を水源とする滝の下は、深い淵になっていたことから、滝沢の淵と呼ばれた。その淵に子供2人が魚獲りへ行ったところ、淵から子供のようなものが現れ、あっという間に1人の子供を淵の中に引きずり込んでしまった。

 村人たちは大勢で滝沢の淵へ、いなくなった子供を探しに行った。淵に潜ると岩穴の所で座っている子供を発見し、どうにか引き上げた。その子供をよく見ると、尻の穴が破られ、内臓を全て食べられていて、その代わりに体の内部に石が詰められていた。

 村人たちは、子供の復讐(ふくしゅう)のために滝沢の淵の水を汲(く)み干そうとしたが、逆に淵の水が溢(あふ)れて洪水になってしまった。(大迫町教育委員会『早池峰草紙│おおはさまの伝説│』)

 河童は、人の尻子玉を抜くとか、尻から内臓を喰らうという伝承がある。恐らく、正体は河童なのであろう。


佐々木さんの解説

引き込んだ子供の内臓を尻から喰らい、人間の体の中身の代わりに石を入れ、川の中で人間のコレクションをしているような描写は、おぞましくも恐ろしく思いました。


続いて、今度は佐々木さんが微笑ましいと感じた岩手県の怪異「ぼた餅のなる木」を紹介する。

ぼた餅のなる木

 二戸市浄法寺町に伝わる話。天台寺毘沙門堂(びしゃおんどう)脇の池の畔(ほとり)に、旧正月の7日に行って見ると、その木にたくさんのぼた餅がなっていた。たくさんのぼた餅がなると、その年は豊作で、そうでなければ凶作だと言われている。昭和28年(1953)頃、悪徳な坊主が不思議な木だと伐(き)ってしまった。(野村純一『岩手県 浄法寺町昔話集』「ぼた餅のなる木」語り手 佐藤基三)

 地域の方によれば、本当にあったと信じる人は殆(ほとん)どいないようである。また、この辺ではぼた餅を食べる習慣がないのに、何故ぼた餅なのだろうと不思議がっていたそうである。(佐々木剛一聞き書き)

 この「ぼた餅のなる木」のあったとされる場所は、天台寺である。天台寺は平安時代に開かれた比叡山(ひえいざん)系の寺院であり、清い水が湧き出る桂(かつら)の木から聖観音を彫り上げ開山したとされ、その桂の木は「桂清水」と呼ばれるようになった。比叡山系の布教は東北全体に及び、この浄法寺にある天台寺の桂と同じように桂清水と呼ばれる桂は秋田県や青森県にも存在する。

 小館衷三『水神竜神 十和田信仰』には、青森県弘前市大沢堂ケ平の「桂清水」が紹介されている。この堂ケ平の桂清水が流れ込む池には、モリアオガエルが生息している。モリアオガエルは夜間に樹上産卵をするのだが、それを当地では「モチ」がつくといい、産卵の多少によって豊凶を占ったようである。

 天台寺の桂清水と同じ流れをくむ信仰の地であるから、天台寺の「ぼた餅のなる木」もまた、モリアオガエルの卵塊のことを言ったのだろう。そしてモリアオガエルの卵塊を「モチ」と呼んでいたのが、いつしか「ぼた餅」になったのではということであった。(佐々木剛一聞き書き)


佐々木さん解説

ぼた餅の正体は、モリアオガエルの卵塊だったわけですが、そういう生物学的知識を得られなかった古い時代の人達が、後世にぼた餅のなる木として伝えていたのは、微笑ましいと感じました。


最後に、佐々木さんが担当した岩手県を中心とした怪異や妖怪のポイントについて教えてもらった。購入した方は、ぜひチェックしてみてほしい。


佐々木さんおすすめポイント

「足音の怪」(事典に収録)などは、現在も遠野市の観光施設として営業している「とおの物語の館」や「遠野市立博物館」が舞台の為に、今でも誰もが体験できる可能性を持っています。

『日本怪異妖怪事典 東北』(笠間書院)は、全国の書店やAmazonで好評発売中。本書では、まだまだ1300種類以上の東北にまつわる怪異や妖怪を収録している。