何回もしてきたのに「1年間の治療」 ヘアカラー、ひとごとではない現実の恐ろしさ

    これまで問題はなくても、誰にでも起こり得る症状。

    ※この記事には、皮膚炎の症状を写した画像が含まれます。閲覧の際にはご注意ください。

    髪の色を明るくしたり、白髪を黒く染めたりする毛染めによる皮膚障害が後を絶たない。消費者庁によると、同庁の事故情報データバンクに毎年度200件ほど登録されているといい、年末年始に染髪する機会がある人に注意を呼びかけた。

    消費者庁の説明では、毛染めによる皮膚障害の多くは「接触皮膚炎」であり、ヘアカラーリング剤が原因だ。接触皮膚炎は、一般的には「かぶれ」と呼ばれている皮膚の病気だ。

    そして、ヘアカラーリング剤の中で、最も広く使用されている酸化染毛剤は、とりわけ「アレルギー性接触皮膚炎」を引き起こしやすく、理美容師や皮膚科医の間ではよく知られている話だという。

    これまでに毛染めで異常を感じたことのない人も、継続的に毛染めを繰り返すうちにアレルギーになることがある。そして、症状が重篤化する恐れもあり、人によっては頭皮だけでなく、顔面や首などにまで皮膚症状が広がり、日常生活に支障を来すほどになるという。

    皮膚障害の事例

    2015年に発表された消費者庁・消費者安全調査委員会の「事故等原因調査報告書」では、「(皮膚炎の)症状が重い場合は外貌が著しく損なわれるため、身体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛を感じたり、仕事や日常生活に支障を来したりし得る」と指摘。

    毛染めによる皮膚障害の事例として、次のものをあげた。

    これまで毛染めを行ってきたが、初めて出向いた美容院で毛染めの施術を受けたところ、施術から1週間ほど経った頃、頭皮が赤くなって吹き出物のようなものが現れ、かゆみが出て、髪の毛が抜け落ちたりした。美容院に相談して皮膚科を受診したところ、染毛剤による接触皮膚炎と診断され、今後、1年間は治療を続けるよう言われ、しばらくの間は2週間おきに通院することになった。

    40歳代から自宅で毛染めを行ってきた。2年ほど前から毛染めをすると痛みやかゆみを感じたが、市販の薬を塗れば症状は治まるので、これ以上ひどくなるとは思わずに毛染めを続けてきた。今回毛染めをしたら、顔面が赤く腫れ、浸出液が滴る状態になり、初めて医療機関を受診した。これまで、製品の外箱や使用説明書に注意事項が詳しく記載されていることには気付かなかった。

    ※患者の写真。閲覧の際には気分を害す恐れがあります。ご注意ください。

    ひどい手荒れのため、皮膚科医で治療を受けていたところ、耳たぶや頭皮にもかぶれの症状が出てきた。なかなか治癒しないため、皮膚科医の勧めで総合病院を受診して詳しい検査を受けたところ、ヘアカラーリング剤に含まれるパラフェニレンジアミン(酸化染料)という物質が原因でかぶれており、他の染料に対しても反応していることが分かった。

    ※閲覧の際にはご注意ください。

    症状が出ても放置する消費者たち

    報告書には、消費者と理美容師を対象としたインターネット調査の結果がある。

    消費者に毛染めでかゆみなどの異常を感じた経験を問うと、自宅での毛染めでは15.9%、現在通っている理美容院での毛染めでは14.6%という結果となり、両者でほとんど差は見られなかった。

    では、異常を感じた後にどう対処したか。複数回答を可能にして聞くと、「しばらくすると症状が治まったので特に何もしなかった」が理美容院での毛染めでは62.7%、自宅での毛染めでは52.8%おり、医療機関を受診しなかった消費者が大半であることもわかった。

    また、アレルギーの有無をチェックするセルフテスト(パッチテスト)は「消費者が染毛剤でアレルギーが現れるかどうかを自宅や理美容院で毛染めする前に確認するための唯一の手段」だとし、報告書はその重要性を説いているものの、消費者の68.0%(複数回答可)が経験していなかったという。

    理美容師の対応の難しさ、セルフテストの重要性

    理美容師の多くは酸化染毛剤のリスクを理解している。

    だが、インターネット調査において、「カラーリング剤で痛みやかゆみ等を感じることは珍しくないので、施術を続ける」という回答が7.0%あり、中にはリスクを十分に認識していない理美容師もいたという。

    そのうえで、報告書は、理美容師を取り巻く現状についてこう評価している。

    「顧客の安全を考えるとリスクを回避すべきと考えていても、顧客の安全と、顧客の要望や経営判断との間で、対応に悩んでいる様子がうかがえた」

    「48時間を要するセルフテストの実施を強く勧めたり、毛染めの最中に異常を感じた場合に施術を中断したりするなど、顧客の要望に反する対応をとることが困難な状況にあることが考えられる」

    だからこそ、消費者庁は、自分の安全を守るため、酸化染毛剤を使用する際には、毎回必ず事前にセルフテストするよう注意喚起する。体質や肌の状態によって症状が出るかは変わり、誰もが安全とは言い切れないからだ。

    そして、万が一、かゆみや赤み、痛みなどの異常を感じた場合は、アレルギー性接触皮膚炎の可能性があるため、「使用を止める」「医療機関を受診する」などの適切な対応を求めている。

    セルフテストのやり方=①テスト液を作る②腕の内側に、その液を10円硬貨大にうすく塗る③自然乾燥させる④絆創膏などを貼らずにそのまま48時間放置