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「ザ!世界仰天ニュース」で“脱ステロイド”を好意的に紹介 医師が批判「患者さんの心を折りかねない残念な内容」

日本テレビ系の「ザ!世界仰天ニュース」が番組内で「脱ステロイド」を好意的に紹介しました。 誤った医療情報を信じた結果、つらい思いをする患者さんは少なくありません。 皮膚科専門医の大塚篤司さんが内容を検証します。

「死ぬ覚悟で来ました」

この言葉は十数年前、ぼくが実際に患者さんから聞いたものです。

顔を真っ赤に腫らした彼女は思いつめた表情で診察室に入ってきました。

「ステロイドが怖くてずっと使っていません」

Tim Grist Photography / Getty Images

ステロイドに不安を抱く患者は多いが......

「死ぬ覚悟で来ました」ネットにあふれる間違ったステロイドの情報

ぼくは当時、アトピー性皮膚炎に関するブログを書いていました。今でこそGoogleやYahoo!などの検索エンジンは医療情報の扱いに慎重になっていますが、あの頃はインターネット上にステロイドに関する間違った情報が溢れていました。

「病気のことをインターネットで見ないようにしてくださいね」

不安そうな患者さんにこうやって説明していた時代です。

でもね、患者さんは見ちゃうんですよ。

「すみません、見てしまって怖くなってしまいました」

人間「ダメ」と言われたらやってしまいたくなるものなんです。

この問題をどうにかして解決しようと考え、たどり着いた答えが、インターネット上でも根拠のある医療情報をすぐアクセスできる環境にすること。

ぼくは自分にできることとして、毎日コツコツとアトピーやステロイドのことを書き綴っていきました。

あるとき一通のメールが届きました。

「先生の病院を受診させてください」

匿名でブログを公開していたぼくは悩みました。

なにせその頃、ステロイドについて情報を公開するたびに民間療法の施術者からネット上で攻撃を受けていたからです。

それでもぼくを頼って治療を受けようと連絡をくれた方を見捨てるわけにはいきません。悩みに悩んだ挙げ句、彼女に勤務先と診察日を伝えました。

診察室に入ってきたその彼女の第一声が

「死ぬ覚悟で来ました」

でした。

恐怖を煽る情報で追い詰められて

彼女は脱ステロイド経験者でした。なかなか治らない顔の湿疹に不安を覚え、インターネットでステロイドが「悪魔の薬」と呼ばれていることを知り、怖くなってステロイドをやめてしまったそうです。

それから数年間、顔のひどい湿疹のせいで仕事にも行けない日々を送っていました。

なにもかも嫌になって死んでしまいたいと思ったある日、ぼくのブログを見つけ、覚悟を決めてメールをしたとのこと。

最後にもう一度ステロイドを使ってみてダメだったら死のう、と思っていたそうです。

ステロイド外用剤に関する誤った情報は残念ながら今も世の中に満ち溢れています。

ステロイドを怖い薬と煽ることで数字を稼ごうとするメディアもあります。

主治医を信じ一生懸命に治そうと頑張る患者さんたちに不安を与えるコンテンツを目にするたび、医者としてやり場のない怒りを覚えます。

日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース」番組HP

つい先日、日本テレビ系の番組「ザ!世界仰天ニュース」で放送された内容は頑張って治療している患者さんの心を折ってしまいかねない残念な内容でした。

放送を見てぼくが気がついた点を少し解説させてください。

番組の問題点1.「脱ステロイド治療」という表現

残念ながら「脱ステロイド治療」という表現は、民間療法の宣伝文句に用いられる”色がついた”言葉です。標準治療を行う皮膚科専門医は脱ステロイド治療とは言いません。なぜならそれは“治療”ではなく“放置”だからです。

こんな事件もありました。

「ステロイド無配合のアトピーに効く化粧品を開発!!」

「赤ちゃんにも安心して使えます!!」

ネットで大きな話題となった化粧品は薬機法違反で回収となり、検査の結果、最強のステロイドを配合されていたことがわかりました。

ステロイドを怖いと感じる患者さんの気持ちを悪用したひどい事件でした。安易にステロイドの不安を煽るということは、こういう犯罪が起きやすい環境を作るということなんです。

ステロイドは歴史のある良い薬です。

1950年、ステロイドの発見によりヘンチ、ケンダル、ライヒシュタインの3人がノーベル賞を受賞しました。寝たきりだった関節リウマチの患者さんがステロイドの投与で歩けようになったのは医者だけでなく患者さんたちの大きな希望の光となりました。

日本でステロイド外用剤が使用可能となったのが1953年。劇的な効果を発揮した一方、残念ながら間違った使い方で副作用を起こす人もいました。

ステロイド外用剤は顔に使うと色が白くなります。これはステロイドに血管収縮作用があるからです。そのため、化粧の代わりに顔にステロイドを塗り続ける人がいました。

また、顔は皮膚が薄いため薬の吸収が腕に比べて13倍高いことがわかっています。そのため、顔に強いステロイドを塗り続けると”しゅさ様皮膚炎”という副作用が起きます。1992年、テレビではステロイドバッシングの特集が1週間行われ「悪魔の薬」と命名されました。これをきっかけにアトピーやステロイドをめぐって日本は大混乱に陥りました。

BuzzFeed

悪化した時だけステロイドを使う「リアクティブ療法」から、今は見た目が良くなってもステロイドをゆっくり減らして細かい炎症までしっかり治してぶり返しを防ぐ「プロアクティブ療法」に主流が変わっている

その後、ステロイド外用剤の使い方は改良され、顔には強いステロイドを塗り続けないことがガイドラインで明記されました。

また、湿疹が治ったあともステロイド外用剤の間隔をあけながら使い再燃を抑える「プロアクティブ療法 が登場したこともあって、ステロイド外用剤は安全に使いこなせる薬へと変わっていきます。

脱ステロイドとは、ステロイドの使い方が今ほど上手でなかった時代に生まれた言葉なのです。

番組の問題点2.顔の外用のみで体内のステロイドが作られなくなることはない

顔だけのステロイド外用で副腎機能が落ちる可能性は極めて低いと考えます。

一般的に、外用剤は皮膚だけで効果を発揮して全身性の副作用は起きません。成人で一番強いランクのステロイドを毎日10g以上使い続けた場合に注意が必要と言われています。

従って、番組内の「ステロイド薬を使いすぎたことで、体内で作られなくなった」という説明は間違ったものです。

ステロイド外用剤を急にやめると、湿疹のぶり返しが起こります。そのため、病院ではゆっくりゆっくりステロイドの量を減らしていくのです。

塗り薬でも医者は慎重に扱うくらいです。ステロイドの飲み薬になればさらに慎重になります。ステロイド内服薬を急にやめると副腎クリーゼと言って命に関わる症状を引き起こすことがあります。ステロイドは訓練されたプロが使うお薬です。

番組の問題点3.脱ステロイドでの白内障、網膜剥離のリスクに触れていない

これまで説明してきたように、ステロイドは上手に安全に使うべきお薬です。急にやめた場合、湿疹の悪化だけでは済まない場合もあります。

顔の激しい炎症は白内障や網膜剥離を引き起こします。目の周りがかゆくなり、こすったり叩いたりするのが原因です。

また、湿疹が悪化した部位から細菌感染やヘルペス感染を引き起こし、敗血症になるリスクもあります。ひどい場合は命に関わります。

リスクを一切説明しないで画期的な治療法と紹介されれば、内容を鵜呑みにして脱ステロイドに飛びつく患者さんが現れてもおかしくありません。

番組の問題点4.やめられないことと称してステロイドに依存があるような印象を与える

ステロイド外用剤はやめられない薬ではありません。医者が患者さんの症状を見ながら減らしていく、いわゆるソフトランディングが必要な薬です。最近では、重症のアトピー患者さんに対して効果的な注射や飲み薬も登場しています。

ブログを読んで外来を受診してくれた彼女もステロイド依存を心配していました。丁寧に丁寧に説明し不安を取り除き、最後はステロイド外用剤を使ってきれいな肌を取り戻しました。

「先生のおかげです。ありがとうございました」

彼女からお礼を言われたとき、診察室で目頭がぐっと熱くなりました。

ステロイド不安を煽るメディアは患者さんの人生を考えているか?

病院に患者さんが来る理由は病気を治すためです。

もちろん、薬を使わないで病気が治るのであればそれにこしたことはありません。

でも良く考えてみてください。なんとかできない病気だったから薬が開発されたんです。副作用がでないように、効果を最大限に引き出す上手な使い方を目指すのが良いのではないでしょうか。

ステロイドを使って治療している患者さんも、ステロイドを使わずに治療している患者さんも、みんな目標は一緒です。

「病気を治したい」

ステロイドの不安を煽るメディアの人たちは同じ目標をもって番組や記事を作成していますか?

なんにも知らない患者さんが見たら、ステロイドが怖くなる番組や記事を無責任に作っていませんか?

ステロイドを二度と使わないと決意した患者さんのその後の人生について考えたことがありますか?

もしこれから数年間、偏った医療情報を信じたせいで、つらい思いをしなくてはいけなくなったのならそれは誰が責任をとるのでしょうか。

「死ぬ覚悟で来ました」

患者さんの言葉の重さ、ちゃんと伝わっていますか?

【大塚篤司(おおつか・あつし)】近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て、2021年4月、近畿大学医学部皮膚科学主任教授。診療・研究・教育に取り組んでいる。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー皮膚疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとしてネットニュースやSNSでの医療情報発信につとめている。Twitterアカウントは、@otsukaman 著書に『世界最高のエビデンスでやさしく伝える 最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)などがある。