「保育園落ちた」今年もまた
今年4月に入園を希望している人たちに、認可保育園の選考結果が続々と届いている。
#保育園落ちた の悲痛な声の中に、「私が働けないと生活ができない」と訴える一人の女性がいた。名前は山口さん(仮名)。
「保育園問題の改善のお力になれるなら」と、BuzzFeed Japanに詳細を語ってくれた。
「ここまでキャリアを積んできたのに」
山口さんは大学院卒業後、某企業の技術職につき、順当にキャリアを重ねてきた。
夫は歩合制の仕事で収入が安定していない。自然な流れとして、収入が安定している山口さんが主たる家計の担い手となった。
「住宅ローンも全額私が借りています。私の収入がなければ生活が成り立ちません」
その後山口さんは妊娠し、2018年5月に女の子を出産。現在は会社の育休制度を利用している。
「特殊な仕事なので、1年も休めばテクノロジーが進歩し、開発についていけなくなる不安があります。上司も私の復帰を心待ちにしてくれていました」
山口さんは早々に仕事復帰することを希望していた。しかし、認可保育園の1次募集で落選。
「ここまでキャリアを積んできたのに、ここで辞めるなんて考えもしていませんでした」
「世帯年収」で見落とされる女性のキャリア
認可保育園の入園応募者が多数の場合、さまざまな条件が考慮され、入園の優先順位が決定される。詳細は自治体によって異なるが、大まかには次の通りだ。
①基準点数
父親、母親の就労状況や、病気ケガ、ひとり親など、親が保育にあたれない主な理由を確認し、園利用の必要性を点数化する。②調整点数
きょうだいが既に施設を利用している、生活保護を受けている、生計中心者が失業したなど、①以外に園利用の必要性が高いケースに加点(もしくは減点)がなされる。③優先項目
上記の①②の合計点を算出したのち、合計点が同じ世帯は次のような優先項目を考慮して最終的な順位が決定される。世帯年収が低い、申込児を有償で託児している期間が長い、未就学児の人数が多いなど。
山口さんの世帯の場合、①の基準点数は最高点、②の調整点数は加点も減点もなかった。
役所から開示された情報はこれだけで、審査内容は定かではない。
ただし、両親がフルタイムの共働きで第1子の保活している世帯であれば、山口さんと同じ点数になるケースが多い。その場合、考え得るハンデは「世帯年収」だった。
山口さんの家庭の世帯年収は、多くが山口さん自身の収入だ。山口さんが働けなければ生活もままならない。役所に出向いて事情を説明したが、考慮された様子はなかったという。
世帯年収が高い=夫の所得が高い、という思い込み
「収入で優先度を決めることは必要ですが」と前置きした上で、山口さんはこう指摘する。
「妻の仕事や収入は夫の補助である、という考えが根底にあるのでは。
“世帯年収が多い=夫の所得が多い” すなわち妻は働かなくても暮らしていけるだろう、という短絡的な考え方が透けて見えます」
「女性だろうが男性だろうが、育児に対して平等に時間を割いていいはずですよね。男性だって長期育休を取っていいし、子どものために早く帰宅していい。(女性ばかりがキャリアを諦めることの多い現状は)性差の押し付けなんじゃないでしょうか」
夫が育児休暇を取ることも検討したが、夫の会社では男性が長期にわたって育休を取得した実績がなく断念することになった。
「今の状況では、女性は子どもを産むかキャリアを取るかの二択を迫られているように感じます」
「先が見えない」入園審査のブラックボックス
山口さんは、保育園の利用調整に関する情報が十分に開示されないことも指摘する。
「少なくとも入園した家庭の点数は開示してほしいです。2次募集で受かるかどうかの検討がつくし、翌年の保活の参考になります」
現在山口さんは、認可保育園の2次募集に申し込むかたわら、市内外問わずあらゆる認可外保育施設も検討している。
しかし認可外施設は一度申し込むと入園をキャンセルできないことが少なくない。
「2次募集で受かる可能性が少しでもあるのなら、より安心な認可保育園に預けたいと思っています。でも、2次の結果を待っていたら(認可外施設から)定員オーバーになるかも、と言われています」
自身の待機順番もわからなければ、何点あれば認可保育園に入れるのかもわからない。今の状況では、どう選択すべきか判断できない。
「認可外をとりあえず確保する、ということもできない状況です」
山口さんの保活は、まだ終わりが見えない。
※男性の育児休業に関して誤解を招く表現がありましたので、内容を一部修正、追記しました(2019年2月12日)