こうして米軍は、民間人を何人殺していいかを決めている

民間人犠牲者ゼロの方針と、戦争の現実は矛盾している。

    こうして米軍は、民間人を何人殺していいかを決めている

    民間人犠牲者ゼロの方針と、戦争の現実は矛盾している。

    昨年、米軍の特殊作戦「ドローン・プログラム」に参加しているチームが、秘密施設に集結し、IS(イスラム国)への攻撃作戦について話し合っていた。

    あるドローン操縦士は、一般市民の犠牲者数の査定方法について質問を受けた。イラクやシリアの都市部には、未だ多くの人々が暮らしている。ISはそれを都合よく利用して軍事資産を都市部に移動させ 、民間人のいる場所に隠している。多くの民間人が危険にさらされる可能性がある中で、攻撃する決断を下すのか、と米国諜報機関の職員が尋ねた。

    「10人未満であれば、攻撃してもよいことになっています」と、兵士は答えたという。

    米国諜報筋を通じて伝えられたこの話は、遠隔攻撃の現実をはっきりと示している。米国はドローン戦争で、民間人の犠牲者を出さないよう懸命に努力し、ISとの闘いにおいても水準を維持しようとしている、と繰り返し述べてきた。しかし、テロ集団との闘いが進行するにつれ、ホワイトハウスは民間人の命と軍事的優先事項を天秤にかけることに、ますます抵抗がなくなっているようだ。

    「10人未満であれば、攻撃してもよいことになっています」

    世界中のドローン操縦士は、罪なき人々の命の価値が、あらかじめ定められた基準に沿っているかどうかを日々判断しているだけだ。これが合法的な戦争の現実だ。国際人道法は、罪なき人命を奪うことを禁じていない。悲惨なこのゲームでは、兵士たちが基準を決めることはない。オバマ政権では、ある軍事目標には民間人何人分の命の価値があるかを、司令官が決めるための方程式を考案している。ホワイトハウスの戦時体制の考え方の根底にあるのは、無感情な科学である。

    米軍は当初、ISとの戦いでの民間人犠牲者をゼロにする方針を掲げていた。数人の軍事筋と諜報筋がBuzzFeed Newsに語ったところによると、オバマ政権は、表向きはこの方針を変えてはいないが、制限を緩めるよう示唆していたという。ワシントンで最近あった記者団との朝食会で、アダム・シフ下院議員は、オバマ政権は民間人の犠牲を出すことをいとわなくなってきている、と発言していた。

    米政府は、表向きは民間人の犠牲者を出すことを許さない、と言いつつ、裏では、こっそりゴーサインを出すという二枚舌を使って戦争をしている。実務にあたる兵士や諜報部員は混乱してしまう。

    「方針が決まっているから、それと違うことはできない」と、ある米国諜報筋が語った。

    昨年11月に国防総省が機密解除した、 60ページにおよぶ報告書 。ここには、昨年3月のIS掃討作戦で、米軍の空爆で4人の罪なき民間人が死亡した件が詳細に書き記されている。報告書は、民間人犠牲者についての調査結果と攻撃を監視している米中央軍の当初の声明は間違っているとしており、イラク北部の都市・ハトラにあるISの検問所を狙った攻撃で、子供を含め4名の民間人が死亡した可能性が高いことを認めている。米国主導の連合軍が、罪のない人命を奪ったことを公式に認めたのは、爆撃開始から15カ月後で、2度目だった(昨年のBuzzFeed Newsの調査では、民間人犠牲者の実際の数は、政府が認めた数よりもずっと多かったことがわかった。米国政府はその後、さらに14名の民間人犠牲者が出たことを認めた)。

    報告書は、ハトラでの連合軍の空爆は、国防省が定めていた民間人犠牲者数のしきい値に違反していたと記している。しきい値は、以下の式の形で報告書に記されている。「NCV = 0」。NCV(Noncombatant and Civilian casualty cutoff Value)とは、民間人の犠牲者がこの数を超えたら攻撃を取りやめるという、ボーダーラインとなる数だ。逆にいえば、現場の状況次第では、この人数までなら、大統領の承認を得ずに軍事作戦を持続することが認められる、民間人犠牲者の数となる。

    米国が照準線の中にとらえた罪なき民間人の数は、何の根拠もなくはじき出された数字ではない。それどころか、無機的な計算によるものだ。その数字は秘密裏に軍が決め、大統領と国防長官の承認を受け、そして軍の作戦の交戦規則に含まれるようになる。

    イラクやシリアでの、ISや他のテロ集団との闘いにおける民間人犠牲者の統計を取る非営利団体、Airwarsで上級研究員を務めるクリス・ウッズは「米国は、紛争の細かいフェイズごとにNCVを設定している」と言う。「上司から許可をもらわずに殺すことが認められた民間人の数だ」

    かつて軍の上級弁護士を務めていた人の言葉を借りれば、NCVは「その攻撃をできるか、できないかを決めるためではなく、誰がその攻撃を承認するかを決めるためにある」

    この弁護士は、NCVが国防省内でどのように決定されるかを知っており、匿名を条件に、そのプロセスについて話してくれた。

    NCVの決定には、軍事戦略、適法性、均衡性、そして現場の兵士、国防総省の弁護士、および行政機関の上層部の主観的評価が必要となる。 NCVの値を決める明確な方法はなく、多くの場合、軍の関係者が独自の主観的評価で設定している。攻撃の目的と、罪のない民間人を現場で殺してしまうマイナス面とを天秤にかける。 何段階もの承認ルートが設定される。例えば、X人の民間人が死亡する可能性がある場合、攻撃にはYとZからの承認が必要となる、などだ。

    「彼らはしきい値を設定しています。X人以上の民間人が犠牲になる可能性がある場合は、このレベルの司令官から攻撃の承認をもらう、といったことです」と、その元当局者が語った。

    国防省は、現場の民間人犠牲者を減らすために、いくつかの対策を講じていると公言している。

    「我々が標的を設定する際には、非戦闘員の犠牲者数をできる限り少なくするようにしている」と、国防長官の報道担当官を務める 国防総省広報官、ジェームズ・ブリンデル少佐はBuzzFeed Newsの質問に答えた。「標的と交戦する前段階には、複数の調整がある」

    NCVは、客観的かつ具体的で、米国が軍事的な目標を達成するために、どれほどのリスクを負うつもりでいるか示す数字である。ウィキリークスが公開した文書によると、2003年のイラク進攻直後のNCVは30で、2010年以降は、6だったと報告されている。アフガニスタンでの紛争の際は、米国の軍事行動が物議を醸したため、反発を懸念した米国はNCVを 1まで低下させた。しかし、NCVがそれほどまで低くなっていたにもかかわらず、国連が2007年にデータを取り始めて以降、米国は11,000人以上の民間人の犠牲者をアフガニスタンで出している。平均すると2015年だけでも、米軍がアフガニスタンで4回空爆するたびに、1人の民間人が犠牲になっていることになる。同時多発テロ事件を受けて2001年に始まった「不朽の自由」作戦のピーク時以降は、見られなかった数字である。

    しかし、数を選ぶ簡単な方法はなく、1つの軍事目標に対して何人の民間人の命が値するかを、はっきりと示せるものは何もない。

    「ベンチマークがない。法律や政策には何も書かれていない。 ……1台の戦車には民間人2人分の犠牲の価値があり、指揮所には民間人5人分の犠牲の価値があるなど、一覧表のようなものはないんだ」と、かつては軍の弁護士を務め、現在は南テキサス法科大学で教鞭を取るジェフリー・コーンは言った。「NCVの背後にある科学のほとんどは、司令官の主観的な分析に委ねられている」

    「もし、民間人の犠牲者が多すぎると予測しなければ、(一般市民の)死者が出ると分かっていながら、殺すことが許されてしまう」と、コーンは言った。「それが戦争の過酷な現実なんだ」

    オバマ陣営がISを標的に攻撃をしている国々は、シリアからイラク、リビアに至るまで増え続けているが、NCVの定義は依然として難しい。NCVの値は機密として扱われている。オバマ政権は民間人の犠牲者を出さない方針のもと、ドローンを使った戦争で攻撃をしていると公言しているが、これらの基準が常にイラクやシリアに当てはまるとは限らない、と言い続けている

    匿名の職員は、民間人の死者数が増加し続けていると示唆している。最近の報告によると 、イラクにおける軍事作戦ではNCVが5に引き上げられた。

    ホワイトハウスは、NCVやその背後のプロセスについて質問されたとき、詳細を語ることを拒否した。

    国家安全保障評議会スポークスマンのネッド・プライスは、米政府が「イラクやシリアを含め、海外の対テロ作戦に細心の注意を払っている」と語った。

    「対テロ作戦は、均衡性と区別の原則を加味しながら、武力紛争法に従って実行されています」と、彼は言う。そして、大統領が「テロ対策と軍事活動を、できる限りの透明性を持って取り組んでいる」と続けた。また、民間人犠牲者の報告は調査されており、非戦闘員の死亡者数についても把握していると断言した。

    米軍の現在進行形の作戦の多くは、さらに分かりづらい。特殊作戦部隊、連合軍の空爆、そして米軍の空爆はどれもみな、その地域のISや他の指定テロリスト集団が標的となった。作戦ごとに、個別のNCVが割り当てられている。シリアにおける、アル=ヌスラ戦線といったテロ集団に対する特殊作戦のNCVは、米軍のISに対して2014年8月に開始した「生来の決意作戦」のNCVとは異なる可能性があるのだ。

    民間人犠牲者をゼロにするという表向きの姿勢と、民間人の犠牲をいとわないメッセージの矛盾は、軍関係者や諜報関係者の神経を逆なでしている。この二枚舌によって、軍の任務遂行は難しくなる。それだけではない。「民間犠牲者ゼロ」という建前を守り続けるがために、設定されたNCVが守られているかもわからない状態になっている。

    米軍のパイロット、議会当局者、および軍の上層部が述べたところによると、オバマ政権の民間人犠牲者ゼロ方針へのこだわりが、ISに対して米軍が仕掛けることのできる空爆の回数を大幅に制限しているという。

    「ハードルを高く設定して、それを声高に宣言してしまうと、軍の仕事は確実にやりづらくなる」と、米軍の元高官は語った。

    本当に危険なのは、米政府の二枚舌が、米国と同盟国の戦争の見方に深刻な影響をおよぼしかねないことだ。軍の優先事項と民間人の命を競わせるという、困難ではあるが戦時下では必要な選択を無視すれば、事実よりも戦争を矮小化して捉えてしまう恐れがあるのだ。