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職務中にレイプした警官2人を訴えた10代、法の抜け穴が思わぬ敵に

アナは、勤務中の警官2人にレイプされたと訴えたとき、解決は難しくないと思っていた。しかし、アナは知らなかった。法執行官が「拘留者は合意していた」と主張できる35州の一つに、自らが暮らしていることを。

チャコールグレー色のヴァンが停車し、懐中電灯のまぶしい光に照らされたとき、アナは駐車中の車に、友人2人と座っていた。アナはニューヨーク市ブルックリン区の南部に暮らす18歳で、金曜日の夜はたいてい、友人たちと街をドライブし、気ままに過ごす場所を探していた。しかし、2017年9月15日の午後7時半~8時ごろ、アナは警官たちに出くわした。

警官は2人。どちらも、身長180センチ超のたくましい私服警官だった。彼らは懐中電灯でバッジを照らすと、アナたちに職務質問をしてきた。前部座席のカップホルダーにマリファナを見つけたので、警官たちは3人に車から出るよう命じた。アナの記憶によれば、警官たちはアナに手錠をかけ、友人たちには、もう行っていいと言った。友人は2人とも若い男性だった。そして警官たちはアナを覆面パトカーに乗せた。ヴァンのガラスには黒いフィルムが張られていた。アナは身長155センチ弱のスレンダーな女性だ。

アナによれば、ヴァンが暗い通りを走っている間、警官たちは後部座席で順番に彼女をレイプしたという。アナは手錠をかけられた状態で座り、繰り返し「ノー!」と泣き叫んだ。1人目が終わると、ヴァンはいったん停車し、運転手を交代したという。1時間足らずで、警官たちはアナを道端に降ろした。監視カメラに映像が残っており、最初の地点から車で数分間、警察署から約400メートルの場所だったことがわかっている。アナは、両腕で胸を覆いながら歩道に立ち、薄暗い通りを見渡すと、ゆっくり歩き始めた。そして、通行人から携帯電話を借り、友人に電話した。

警官たちは、アナを逮捕することも、召喚状を発行することも、書類をつくることもなかった。数時間後、アナは母親と病院に行った。病院の記録によれば、アナは看護師たちに、2人の刑事から性的暴行を受けたと話した。アナの体内から採取された精液は、ブルックリン南警察署麻薬課の刑事エディー・マーティンズ(37歳)、リチャード・ホール(33歳)のDNAと一致した。2人は職を追われ、性的暴行罪で起訴された。

アナは、これは事件としては単純なものだと思っていた。警官2人が勤務中に、検挙した女性をレイプした、という事件だ。

Facebookの友人から「警官たちが合意の上でのセックスだと主張した場合、異議を唱えられる十分な証拠はあるのか?」と尋ねられたとき、アナは次のように答えた。「冗談じゃない、彼らは勤務中の警官だ。彼らは私たちが助けを求める人間であって、彼らからレイプされるなんてとんでもない。あまりにもひどい違反行為だ」

しかし、アナは知らなかった。ニューヨーク州には、現場の警官や保安官が検挙した相手とセックスするのは違法だと定めた法律が存在しないということを。武装した法執行官が、痴漢から性交まで、合意の上での接触だと主張することで、性的暴行罪を回避できる35州の一つだということを。

いくつかの州は近年、この抜け穴をふさぐため、すでに全米で保護司や看守に適用されているルールを警官にも拡大し始めている。オレゴン州では2005年、アラスカ州では2013年、アリゾナ州では2015年、ルールが変更された。しかし、ほとんどの州は何も変更していない。抜け穴の存在に気づいている人が少ないことや、警官を標的にすることで警官の強力な労働組合を怒らせる法案が、政治的に不人気であることなどがその理由だ。

筆者は「Buffalo News」のデータベースにアクセスし、違法な性的行為で起訴された法執行官700人以上の情報を調べた。それによれば、2006年以降、管理下にある相手との性的暴行や違法な性的接触で起訴された法執行官158人のうち、少なくとも26人が合意の上だと主張し、無罪判決を受けたか、起訴を取り下げられている。

ニューヨークを含むほとんどの州では、勤務中の警官と拘留者のセックスを明確に禁止していないため、警官は合意の上だと主張し、「公務員職権乱用」という軽罪で済ませることが可能なのだ。公務員職権乱用罪の刑期は最長1年だ。

警官の性的暴行に関する規制の拡大を訴えるアラスカ州の活動家テラ・バーンズは、「文化的な変化は起きていますが、私たちが求めているのは政策の変化です」と話す。「拘留者のレイプは、長く定着した歴史であり、変化が必要です」

アナの事件をきっかけに、こうした法の抜け穴への関心が高まった。ニューヨーク市議会のマーク・トレイガーは2017年10月26日、アナの一件を知り、警官が検挙した相手とセックスすることを禁止するための法案を提出すると発表した。トレイガーは「Medium」の記事で、「セックスの合意に関する法律は、常識、共感、良識と一致すべきです」と述べ、州議会でも同様の法律を制定すべきだと訴えた。ニューヨーク市警察の二大労働組合に取材を申し込んだが、法案を支持するかどうかについてコメントを得られなかった。

アナは、自身の体験が法改正を促すとは想像すらしていなかった。アナは最近の出廷後、筆者の取材に応じ、事件を公表した目的はただ「ほかの被害者たちに届け出る勇気を与えること」だったと述べた。「本来、警察はこんなことをする存在ではありません」自身の物語が「嵐を巻き起こす」のを目の当たりにしたアナは、もっと多くの警官が性的虐待の責任を問われるようになるのではないかと楽観的になった。多くの人が耳を傾けてくれるとアナは実感しており、同様の体験をしたほかの人々にも耳を傾けるはずだと信じている。「声を上げる。ただそれだけで十分でした」

レイプ事件の被害者とされる人物はたいていそうであるように、アナの名字は公表されていない。そのため、法廷文書には「アナ・ドウ」と書かれているが、FacebookやTwitter、Instagramでは中学生のときから、アナ・チェンバースというスクリーンネームを使用している。アナはロシア移民の娘で、人種的に多様な公立高校に通っていた。Nikeのシューズ「エアジョーダン」の素晴らしいコレクションを持っており、将来は、法律事務所で働くパラリーガルになりたいと思っている。事件後も、異常な生活の中に正常さを見いだすため、それまでの習慣を続けることにこだわっている。今でも時々ホームパーティーやコンサートに行き、寝室の鏡に映った自分の写真を投稿しながら日常生活を送っている。レイプを公表した2週間後の2017年10月5日には、マリファナ所持で違反切符を切られている。

同日、「New York Times」がハーヴェイ・ワインスタインの性的不品行を暴露し、ハリウッドからメディア、政治、レストラン、ホテル、スポーツ、金融、工場労働、住宅まで、さまざまな業界で権力を乱用する男性たちに監視の目が向けられるようになった。それ以来アナは、警官による性的暴行事件の原告として、2つの文化的変化の交差点に立たされることになった。2つの文化的変化とは、「#MeToo(私も)」時代に突入し、性犯罪を公表する女性たちの信頼性が高まったことと、警官たちによる悪行の動画が投稿される時代に入った結果、警察の信頼性が地に落ちたことだ。

アナは逃げることなく、オンラインで支援を呼びかけている。Twitterのフォロワーは約7000人、Instagramのフォロワーは約1万2000人に達した。アナはある支持者に「ありがとう」と返信している。「ひどい目に遭ってきた女性たちはもっといると思う」

警察は、男性に支配された世界だ。米司法省の統計によれば、警官の80%以上が男性だという。警官の違法行為を報告する被害者は少ないため、性的虐待は統計データ以上にまん延しているはずだ。元シアトル警察署長のノーム・スタンパーは、「警官の職権乱用はあまり表沙汰になりません」と話す。「被害者たちは報復を恐れ、泣き寝入りするのです」

レイプする警官の側には、いくつもの武器がある。逮捕をほのめかしたり、被害者の個人記録にアクセスしたり、バッジがあれば何でも許されるという雰囲気を漂わせたりできる。AP通信は2015年、警官の性的違法行為を徹底的に調査し、その結果を公表した。それによれば、2009~2014年に性的違法行為で失職した法執行官は990人に上る。

オレゴン州ポートランドで警察署長を務めていたペニー・ハリントンは、「警察の問題がこれほど深刻である一因は、銃やバッジ、権力に惹かれて警官になる人たちが存在することです」と指摘する。「そして、そうでない人たちは、余計なことはしゃべりません」

@annaaachambers / Twitter / Via Twitter: @annaaachambers

「本当に狂っている」

アナは、事件から3日後の2017年9月18日、自分の物語を公に語り始めた。当時、事件について知っていたのは、両親と友人たち、病院の看護師、そして警察だけだった。「私はあの悪徳警官たちに二度と会いたくない。あなたの娘が同じことをされたらどう思う?」とアナはツイートした。9月28日には、「New York Post」がアナの申し立てについて初めて報じた。アナはその2日後、彼女の写真が掲載され「警察の蛮行」という見出しがついた「New York Daily News」の記事を撮影し、Twitterに投稿した

アナはその後も、自身の事件をソーシャルメディアに記録し続けている。TwitterやFacebookにニュース記事のリンクを貼ったり、裁判所で撮影した写真や動画をInstagramで共有したり、ほかの人のコメントをリツイートしたり、訴訟に関する自身の考えを単刀直入な言葉で表明したりといった具合だ。

例えば2017年10月22日、被告側の弁護団が、アナの申し立てに異議を唱えたとき、アナはこう投稿した。「彼らは、レイプされた人間の名誉を傷つけようとしている。NYPD(ニューヨーク市警察)はこんな行為を誇りに思っているのだろうか?」

10月27日には、ブルックリン地区検察局が、レイプ、誘拐、汚職、公務員職権乱用の罪でマーティンズとホールを起訴した。求刑は最長25年だ。アナはこう投稿した。「神の恵みだ!」

11月6日、マーティンズとホールはニューヨーク市警察を辞職した。「彼らはもう“警官”ではないのだから、保釈が認められるべきじゃない」

アナの弁護士マイケル・デイビッドは、長年のクライアントがアナの親類だと知り、代理人を務めることにした。デイビッドにとってこの事件は、これまでに担当した中で最も大きなものだ。同氏は最初、直感的に、アナにはソーシャルメディアでの活動を控えさせるべきだと思った。訴訟に不利になる内容を投稿しないようにだ。

しかし、アナのほうは黙って見ているつもりなどなかった。多くの女性が声を上げ、性的虐待や性的嫌がらせの体験を語っているというのに。「弁護士は通常、依頼人に対して、ソーシャルメディアを控えるようにと言います。しかし、彼女の場合は正反対でした」とデイビッド弁護士は振り返る。「私は結局、彼女にトーンダウンを求めませんでした。ソーシャルメディアのおかげで、彼女への注目とメディアの圧力が高まったためです」

デイビッド弁護士は、アナの許可を得た上で、申し立ての詳細を複数の報道機関に対して明かしている。それによれば、警官たちはアナにブラジャーを外すように命じたそうだ。アナが麻薬を隠していないことを証明するためとのことだった。そして警官たちは2人の友人に対して、ヴァンを追跡しないよう伝えた。ヴァンが走り始めると、警官たちは態度を変え、アナに性的暴行を働いたという。

2017年10月中旬には、アナの名前はハッシュタグになっていた。10月17日には、アナの支援者たちが初めての集会を開催した。約25人が、「私たちはあなたを信じている」と書かれたプラカードを持ち、アナの名前を叫びながらブルックリン南部を行進した。10月28日には、世界で最も有名なヒップホップラジオDJと思われるファンクマスター・フレックスが、土曜夜の5時間番組を丸ごとアナのために使い、マーティンズとホールの情報を提供してほしいと呼びかけた。

1カ月後、マンハッタンのワシントン・スクエア公園で2度目の集会が開催された。支援者は50人以上に増えていた。アナはイベントのFacebookページに、「私はもちろん参加を許されていないけれど、本当に心からありがたいと思っている」と書き込み、その後、「写真や動画があれば送ってほしい」と呼びかけた。数週間後、裁判所での審問の朝、マンハッタン橋に横断幕が掲げられた。「レイプ犯は、マーティンズとホールだけではない。警察を廃止せよ」

現在、全米の警察が、常態化している不正行為と向き合うよう圧力をかけられている。2017年10月には、アラスカ州アンカレッジの元警部が新聞のコラムで、現役時代に同僚たちから受けた「持続的な」性的嫌がらせについて詳述した。1月にはシカゴ警察委員会の会合で、ある女性が、10代だった1980年代、警官にレイプされた体験を語った

一部の活動家は、「#policetoo(警察も)」というハッシュタグを使い始めている。ワインスタインのニュースが報じられてからの5週間に、少なくとも3人の警察署長が、性的違法行為で職を追われた。さらに、10月以降、少なくとも7州の警官21人が性的違法行為で辞職または懲戒免職となっている。

オレゴン州ポートランドの元警察署長ハリントンによれば、近年は警官の性的暴行事件が注目を集めているが、ほとんどの警察署では、女性蔑視と男性支配の文化が根強く残っているという。それでも近い将来、報いを受けることになるとハリントンは確信している。「長く警察にいましたが、希望を感じたのは今回が初めてです。突然、女性の声が届くようになったのですから」

しかし、ニューヨーク州の法律は、今回の訴訟を、元警官2人の言葉と、10代の言葉の戦いにさせるはずだ。

法的手続きを進めるには、アナは、一連の出来事を何度も詳細に思い出し、語る必要がある。アナはこの5カ月で、ニューヨーク市警察の捜査班や、自身の弁護士、検察、大陪審、そして、ニューヨーク市警察を相手取って訴訟を起こしているニューヨーク市の弁護士たちに、自分の体験を繰り返し語ってきた。

「つらい体験です」とアナは話す。「こうなるとはわかっていなかったし、正直、今でも理解できていません」

陳述というより、尋問に近い体験もある。特に、ニューヨーク市の弁護団とのやり取りはつらい体験だった。アナはそれまで、裁判制度について深く考えたことが一度もなかった。これまで歩んできた人生が問題にされるとは思ってもいなかった。ソーシャルメディアのアカウントをクリーンにする必要性など感じたことはなかったし、古い投稿が彼女が嘘をついているという証拠になり得ることなど知らなかった。アナは、ビキニ姿の写真を投稿したことがある。17歳のときには、ポルノの集会に参加した。13歳のときはFacebookに、セックス関連のウェブサイトへのリンクを貼ったこともある。マリファナを吸っていることも公にしているし、下品な冗談を言うこともある。

被告側の弁護団は、地区検察局に不起訴を求めるため、アナのソーシャルメディアをさかのぼり、彼女が投稿した写真や動画、コメントを引用した。アナはそれを知り、「私の投稿に難癖をつけるなんて」とツイートした。

被告であるマーティンズとホールは、まだ何も語っていないが、マーティンズの弁護士マーク・ベデローは、「意に反する性的接触はなかった」と主張している。ベデロー弁護士は、マンハッタン地区検察局の検事補だった経歴を持ち、2004年から刑事訴訟の弁護士をしている。ベデロー弁護士が争点としているのは、アナが手錠をかけられたかどうか、2人の警官が暴力をふるったかどうかだ。被告側の弁護団は、車内での出来事に関する警官たちの供述を明らかにしていないが、公式声明と、提出されている証拠を見る限り、戦略は1つしかなさそうだ。アナを誘惑的な女性に仕立て上げ、警官たちが口説かれたことにするという戦略だ。

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「私の投稿に難癖をつけるなんて」

性的暴行で起訴され、無罪となった警官たちの弁護士は、こうした戦略を常とう手段にしてきた。カリフォルニア州アーバインの元警官デイビッド・アレックス・パークが無罪となった2007年の訴訟では、女性が違反切符を避けたい一心で、自らセックスを始めたという主張が認められた。アリゾナ州では、抜け穴をふさぐ法律が施行される前の2016年、フェニックスの元警官ティモシー・モリスが無罪判決を受けた。手錠をかけた女性とパトカーでオーラルセックスした事実を認めながら、「女性から誘惑された」と主張したことが勝因だった。

マーティンズとホールの弁護士たちは、アナのソーシャルメディアから証拠を探そうとしており、すでに事件後の投稿をいくつか引き合いに出している。裁判所の外で待つ「パパラッチ」に関するツイート。自身を「50mily」と呼んでいる複数のキャプション。50milyはおそらく、ニューヨーク市警察を相手に5000万ドルの訴訟を起こしているという意味だろう。さらに、あらゆる性的なツイートや、アナのページに書かれたほかの人のコメントも、アナが嘘をついている証拠として挙げられている。例えば、アナはあるコメントに、「あなたの母親も集団レイプされればいい」と返信している。

2017年10月にはNew York Postが、被告側弁護団が検察に向けて送った文書を入手し、被告側がアナの信頼性を損ねようとしていることが明らかになった。弁護団は文書の中で、「挑発的な写真」に言及し、検察は「アナの疑わしい主張をさらに調査」すべきだと訴えている。アナがソーシャルメディアで紹介しているような日常生活は、アナにとっては、性的暴行がトラウマになっていない証拠だと言いたいのだろう。「悪質なレイプを経験し、精神的に落ち込んでいる被害者が、このような行動を取るというのは前例がない」と、文書には書かれている。

2017年12月、アナは法律事務所の会議室で宣誓証言を行った。アナは弁護士の隣に座り、テーブルを挟んで、ニューヨーク市の弁護団と対面した。12時間におよぶ質疑応答が3日間かけて行われ、740ページ分の記録が残された。ソーシャルメディアの投稿について数時間が割かれ、中学時代を細部まで思い出す作業が続いた。セックス歴や、婦人科での診察にも時間が使われた。Facebookのコメントに関する質疑応答で、アナはついに泣き崩れた。

裁判所での審理自体は、何カ月も先になりそうだ。アナの私生活やソーシャルメディアでの行動がどれくらい証拠として認められるかは、どこかの時点で裁判官が判断することになるだろう。その後、どこかの時点で、アナは証言台に立ち、アナを嘘つきと呼ぶ弁護士たちからの反対尋問を受けることになる。

マーティンズとホールの弁護士たちは、地区検察局に対して、起訴を取り下げるよう求め続けている。彼らの主張は、検察はアナが「嘘をつきたがる」証拠を無視しており、訴訟を急いで進めようとしているというものだ。検察は、男性側が責任を負うところを見たがっているアナの支援者たちを満足させようとして、訴訟を急いで進めようとしているというのだ。被告側が、アナにとって不利な証拠をソーシャルメディアから探し出していることについて、アナは「重要な証拠になるはずがない」と一蹴している。証拠になるとしたら、それは法の抜け穴が存在するためだ。

被告側の弁護団は1月にも、アナの信頼性を疑問視する文書を提出した。アナの供述の矛盾点を、いくつも指摘しているものだ。例えば、どちらの警官がブラジャーを外すように言ったか、アナの携帯電話はどのポケットに入っていたか、アナが高校に行かなかったのはなぜか。ニューヨーク市の弁護団に対して、ハロウィンではディズニープリンセス「ジャスミン」の衣装を着たと語ったのはなぜか。文書によれば、アナのソーシャルメディアでは、オレンジ色の囚人服を着て、ベルトから手錠をぶら下げている姿が確認できるという。裁判官は4月5日までに、宣誓証言の記録が証拠になるかどうか、なるとしたらどの部分を採用するかを判断する予定だ。

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「神のみが知る正義のために祈っている」

19歳になったアナは、現在も、告訴した男たちに取り締まられた現場の近くで暮らしている。アナは筆者に対して、「いつも近所に警察車両が停まっている」と語った。「まるで見張られているみたい」。アナは、病院に行った夜からそのように感じている。事件の捜査が始まったとき、アナは病院の廊下で、さまざまな役職の警官を9人見たとのことだ。アナはほとんどの日々を、自宅の部屋でソーシャルメディアをして過ごしているという。Instagramのフォロワーたちは、アナがしばしば寝室からライブビデオを投稿したり、ラップを口ずさんだり、友人たちと話したり、携帯電話をスクロールしながらリップグロスを塗る様子などを見ることができる。アナはコメントにも反応している。ほとんど好意的な内容だが、毒を吐かれることもある。そして時おり、訴訟に関するアドバイスや、政治家になることを勧めるコメントが届く。ゆったり構えているように見えるが、決してリラックスしてはいない。これまで通り、自分の人生を生きているが、2017年9月のあの夜から、アナの人生には重みが加わった。アナは、長い道のりが待っており、とても孤独になるかもしれないことを理解しているようだ。1月1日、アナは自身の事件に関するニュース記事のリンクをTwitterに投稿し、「忘れないようにしよう」とつぶやいた。

多くの人は、まだ忘れていない。1月18日、審問の朝、10人余りの支援者が裁判所の外に立っていた。2種類のプラカードには「アナ・チェンバース、私たちはあなたを信じている」、「レイプ犯の警官たちをやっつけろ」と書かれていた。通行人たちが立ち止まり、事件について質問した。裁判所の職員たちも、エレベーターで事件について話していた。法廷の廊下には、報道機関やテレビ局のカメラマンが集まっていた。アナは、周囲を見ることなく通り過ぎた。緑のボマージャケットのポケットに両手を入れ、ミラーレンズのサングラスで目を隠し、2人の弁護士に挟まれていた。アナが到着したときには、傍聴席はすでに半分が埋まっており、アナは中ほどの列に着席した。数分後、マーティンズとホールが到着したときには、通路を挟んだ向かいの席しか空いていなかった。

その夜、アナはInstagramに、法廷を出る自身の写真を投稿した。キャプションには、「わずか3.65メートルの距離でモンスターたちを見ることになるなんて最悪」と書かれていた。


この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


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