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深夜の保育園。親の迎えを待つ子どもたちは、何をしているのか

映画「夜間もやってる保育園」が映し出したのは、子どもたちの生活そのものだった

「ここがなかったら働けなかった」

東京都新宿区大久保。「眠らない街」にあるエイビイシイ保育園は、24時間体制で、0歳児から就学前まで90人の子どもを預かる認可の夜間保育園だ。35人の保育士と2人の看護師が4交代制で勤務している。

ここに子どもを預けている一人の母親は、繁忙期になると朝方まで仕事が続くという。保育士は「ゆっくり寝てから迎えにくればいいよ」と働きづめの母親の体調を気遣ってくれるという。

「ここがなかったら働けなかった」

5歳の息子を預けている母親は、厚生労働省の職員。出産前は毎晩、タクシー帰りの働き方だった。今も、いざという時に預かってもらえることが安心につながっている。

長時間労働や多様な勤務形態があるのに、そんな働き方に合う預け先が少ないという現実。それを浮き彫りにするのが、ドキュメンタリー映画「夜間もやってる保育園」(9月30日よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開)だ。

「お泊まり組」の子どもたち

一般的な保育園では、午前7時台から午後6時台の11時間が基本の保育時間とされている。

夜間保育園の基本時間は、午前11時から午後10時までの11時間。延長保育を利用して、24時間開園しているところもある。

夜間保育が国の制度として認められたのは1981年。エイビイシイ保育園のような認可の夜間保育園は、全国に約80園ある。

夜のエイビイシイ保育園。保護者の迎えが午後10時以降になる「お泊まり組」の子どもたちが残っている。夕食が終わると、保育士は子どもたちをシャワーに入れ、ドライヤーで髪を乾かし、パジャマに着替えさせ、絵本を読み聞かせる。

保育士の一人はこう話す。

「夜、ひとりで過ごしている子どもがいるかもしれない。そんな子のために、夜間の保育園があるのはいいと思う」

一番遅いお迎えは、翌朝の7時だった。

「夜は寝るんだ」

この映画で、エイビイシイ保育園を中心に北海道から沖縄まで5つの園を撮影した大宮浩一監督は、子どもたちが寝支度をはじめたとき、「そうか、夜は寝るんだ」と率直に感じた、とBuzzFeed Newsに話す。

「保育というからには、一緒に遊んだり絵本を読んだり、夜の間も何か活動しているイメージがあったんです。家と同じなんだ、淡々と続いている日常生活なんだ、というのが新鮮な驚きでした」

保育という名の「生活」を目の当たりにした大宮監督は、自身が介護の現場を撮ったドキュメンタリー「ただいま それぞれの居場所」と同じように、生活そのものを撮りたいと強く思ったという。

夜間保育園は偏見を持たれている?

そもそもなぜ大宮監督は、夜間保育園を見学することになったのか。きっかけは、エイビイシイ保育園の片野清美園長から届いた1通の手紙だった。

夜間保育園は、根強い偏見にさらされている。子どもと親のためにもっと増やしたい。映画で訴えることはできないかーー手紙にはそんな内容が綴られていた。大宮監督はエイビイシイ保育園を訪ね、片野園長に伝えた。

「偏見というのは知っている人が持つもので、そもそも夜間も子どもを預かる保育園があることすら、知られていないのではないか。だから、ありのままを伝えたい。知ってもらったうえで偏見をもたれるなら、それは仕方がないでしょう」

そして、大宮監督とカメラマンが、子どもたちの生活に入り込んだ。事故がないように機材や三脚の置き場に気を配りながら、撮影が始まった。

さまざまな家庭がある

昼はサラリーマン、夜はレストランのダブルワークをしている父親。園がはじめた療育プログラムを受ける男の子の母親。いずれも外国人だ。

「昼間は子どもと過ごしたいから、夕方から預かってほしい」と希望した、飲食店で働く夫婦。小学校入学前に生活リズムを整えたほうがいい、と園に諭され、午前10時から午後10時まで預けている。

沖縄県那覇市。「せめて夜は家族で過ごしてほしい」と思っていた玉の子夜間保育園の園長は、夜の預け先に困る親たちを目の当たりにして葛藤する。

「夜間保育があるから働くのではなく、働くほうが先。どうしても生活のために働かなければならない人のために、夜間保育はあるのです」

保護者と保育者それぞれの思いが点描される。あえてさまざまな要素を集めたのだと、大宮監督は言う。

「生活スタイルはそれぞれ。10人いれば10通りの子育てがあるし、父親と母親で意見が違うこともある。こうあるべきだと限定せず、たくさん要素を入れて、観る人それぞれに感じてもらえたら」

やってみて考える

片野園長の猪突猛進ぶりも、そのまま描く。

「考えた末に行動を起こさないより、まずは始めてみて後から考える人のほうが、僕は好きなんです。待機児童を3年後にゼロにすると言われても、いま保育園に入れない子は小学生になってしまいます。そうやって変わらない現状に諦めてきた人たちがたくさんいるのではないでしょうか」(大宮監督)

1983年、福岡から上京してきたばかりだった片野園長は、歓楽街のビルの一室で「ABC乳児保育園」を始めた。当時は認可外の託児所、いわゆるベビーホテルだった。風呂はなく、銭湯に連れていったり、片野園長の自宅の風呂に入れたりしていた。

「昼も夜も子どもは平等」

劣悪な施設での死亡事故などを受け、ベビーホテルが社会問題になっていた時期でもあった。夜間保育を必要とする親は多いのに、認可外であるがゆえ、補助金や補償が受けられない。2001年に認可を受けるまでは、昼と夜で子どもたちの処遇が不平等なのがもどかしかった。

片野園長は、エイビイシイ保育園のサイトにこう書いている。

保育園が深夜まで、もしくは、24時間運営することは、多種多様な保護者の職業上、そして共働きの多い都市部では必要不可欠ということを、あらゆる機会に私は訴えてきました。

しかしながら、生活スタイルが直接そういった時間帯に関係のない方々は、「どうして保育園を深夜までやる必要があるのか」「子どもは夜は親と暮らし、親元にいるのが一番いい」「子どもは昼間遊び、夜は寝るものだ」「水商売の人が多いんでしょう」などなど。深夜までという時間帯がどうして水商売という発想になってしまうのでしょうか。

世の中、昼の仕事もあれば夜の仕事もある、多種多様な職業の恩恵をみんなが受けているし、世の中も成り立っているんじゃないか、とよく考えました。

まもなく還暦を迎える大宮監督は、撮影中に孫が生まれた。編集スタッフは20、30代で、夫婦で子育てしながら働くことが当たり前の世代だ。

「家族や仕事とはこういうものだ、という価値観は、人それぞれ違うし、時代によっても大きく変わったと感じます。その最もとんがっていて多様な部分を切り取ったのが、この映画なのかもしれません」

飲食店、コンビニ、警備、インフラ、情報......。

夜に働いている人たちや、働かざるをえない人たちがいる。その恩恵を受けて生活している「昼間」の人たちは、「夜間」の人たちの暮らしや休息、その子どもたちがどう過ごしているのかを、考えたことがあるだろうかーー。

BuzzFeed JapanNews