「ベビーカーで電車に乗ったら、畳むように言われて困った」
「混んでいる車内で迷惑そうににらまれた」
「席を譲ってもらったのに、周りから非難された」
SNSでたびたび議論になるベビーカーや子連れの乗車トラブルが、最近また話題になっている。
待機児童が解消されておらず、自宅近くの保育園に子どもを預けられないために、通勤ラッシュの時間帯に子連れで公共交通機関に乗らざるを得ない人もいる。
「乗るな、とヤジ」
自営業の平本沙織さんは、Twitterでの「炎上」を機に、子どもが安全に移動できるための発信を始めた。
一時保育施設に長男を預けるため、ベビーカーを押して朝の電車に乗っていた。そのときにヤジを飛ばされたことを2018年12月、ツイートした。
ツイートは1万件以上リツイートされ、「満員電車にベビーカーで乗るなんて非常識」「自分の子どもを危険にさらしている」と批判するコメントもあった。
この議論をきっかけに平本さんは仲間とともに、子どもの安全な移動と暮らしを実現するプロジェクト「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」を発足させた。
2019年2月、0〜15歳の子どもの保護者を対象に、アンケートを実施。1057件の回答があった。
アンケートの回答の一部を紹介する。
子どもにとって電車は危険な状況だと感じる
「抱っこひもで保育園に通っていましたが、朝の通勤ラッシュは子どもごと潰れてしまいそうで本当に怖かった」
「ベビーカーに乗せて電車に乗ったら、他の乗客ににらまれたり、ベビーカーを蹴られたりしたことがある」
「プラットホームで走って電車に飛び乗る大人に接触して、倒れた子どもを見たことがある」
「車内が混雑しているときに、無理やり押しのけて通ろうとした男性が抱っこひものお母さんにぶつかり、よろけて手すりに子どもの頭が当たった。泣き出した子どもを疎ましく思うような声が車内から上がり、親子は次の駅で下車した」
電車でトラブルや不快な思いをした経験がある
「ホームを歩いていると、大きな硬いカバンを持った男性が近づいてきて、すれ違いざまにあからさまにぶつかられた」
「ガラガラの車内で優先席にベビーカーを横付けして座っていると、60代くらいの男性が『ベビーカー邪魔だ!どかせ!』と怒鳴ってきた。殴りかかってきそうだったので、子どもに危害が及ぶのを恐れて車両を移動した」
「2人乗りのベビーカーを畳むべきだと言われた。乳児2人連れて畳んだらどうなるか想像ができないのか?と困った。どうすることもできず、下車した」
「2人目の妊娠中に電車内で具合が悪くなり、上の子が乗ったベビーカーを支えながらうずくまっていたけど、声をかけてくれる人はいなかった」
東京都に要望
平本さんら「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」はこの調査結果を受け、東京都の小池百合子知事と2月25日に面会した。
通勤ラッシュに重なる時間帯に「子育て応援車両」を設置し、子どもたちを安全に移動させるための啓発活動をすることを求めた。
東京都は、電車内に子育て応援スペースをつくる方向で検討を進めている。
電車では折り畳まなくていい
実際のルールはどうなっているのか。
国土交通省は2014年、「ベビーカーマーク」をつくり、ベビーカーを安心して利用できる場所や設備を表示している。
「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」は、「ベビーカーは大切な命を乗せています」とアピールし、周囲の人に対して以下のように呼びかけるチラシをつくっている。
ベビーカーは折りたたまずに乗車することができます。
エスカレーター等が利用可能な方は、エレベーターの使用を譲ってくださるようお願いします。
乗降に少々時間がかかったり、スペースを少し広めに利用することがあります。
初めて通勤ラッシュを経験する人へ
大型連休も終わり、4月に入園して新生活を始めた人も、慣らし保育が終わってフルで預けるようになる5月中旬。
「初めて朝夕のラッシュで電車登園する人も出てくる時期かと思います」と、平本さんは気にかける。
「先日も、電車でベビーカーを畳むようアナウンスがあったというツイートにさまざまな意見が出ていましたが、子どもを降ろして畳んでもほとんどのベビーカーは安定して自立しません。子どもの手を取り荷物を持ち、畳んだベビーカーが倒れてしまったら、そのほうが周りに迷惑です」
「優先席エリアや、ベビーカー設置スペースでは、周囲とコミュニケーションを取りながら、利用者同士が最適な環境で乗車できるよう対話ができる社会を期待しています」
もちろん、ベビーカー乗車を温かく見守る声も、たくさん上がっている。